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【幻影鏡界 ―Church of GHOST―】

16.恐慌の後

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「……マコちゃんは、とりあえずベッドで休んでます。しばらくは落ち着かせた方がいいでしょうね」

 ひとまず一角荘の中に引き返した俺たちは、錯乱しているマコちゃんを部屋に戻した。先程の激昂とは打って変わり、貝のように口を閉ざした彼女だったが、その目からはやはり絶え間なく涙が流れ続けていた。

「……それがいいだろう」

 連れ添ってくれたマキバさんが頷く。

「でも……どうしてミコちゃんはあんなことになったのか。どうしてモエカちゃんは逃げたのか……」
「先入観は捨てたいが、怪しいのは確かだよな。ソウヘイの妹とはいえ……」
「……霊の仕業、という可能性もありますけど。ここは……あのときと同じになっているみたいですし」
「……黒影館、だな」

 今も鮮明に覚えている。
 不意の停電、その後の絶叫。
 部屋に駆けつけた俺たちの眼前に広がっていたのは、凄惨な光景。
 四肢がバラバラに飛び散った、テンマくんの死体――。

「スマホ、通じないよな?」
「……ええ、やっぱり駄目です」
「……僕も通じない」

 シグレだけでなく、マキバさんもスマホを取り出して確認している。この状況下でも、流石に大人と言うべきだろうか、彼はどちらかと言えばまだ落ち着いている方だ。

「とりあえず……何かが始まったってことだ。危惧してた何かが。それを、探りに行かなくちゃいけないな」
「……レイジくん」
「この鏡ヶ原で何が起きてるか確かめるために、探索を始めよう。少なくとも、手をこまねいてるよりはいいはずだ」
「……そうだね。君の言う通りだ」

 俺の提案に、マキバさんも同意してくれる。探索に同行するということだろう。
 シグレも付いてくるものかと思い、彼の方をちらと見やったのだが、意外にも彼は、

「僕は、ここに残ります。マコちゃんを置いていくのは……危ないですし」

 そこで意味ありげに俺とマキバさんを見、

「その方が……いいですよね?」 

 と投げかけてきた。

 ――なるほど。

 俺はすぐにシグレの意図を理解する。
 集められたメンバーに事情があると言うなら、事件が起きた今こそ深掘りできるかもしれない。
 なら、俺とシグレでそれぞれ、話を聞くのが効率的という考えだろう。
 マキバさんを俺に任せ、マコちゃんは自分が相手すると暗に示しているのだ。
 ……それなら。

「分かった。そうしようか」

 俺が頷くと、シグレも真剣な眼差しのまま返してくれる。
 決まりだ。ここからは本当に、油断の許されない時間になる。自分の役割をしっかり見定めて動かなければならない。
 仲間は既に一人、離脱してしまっているのだし。

「マキバさん。俺と一緒に、来てくれますか」
「ああ、僕でいいなら協力はするけれど……なんというか。こんな状況なのに君たち、冷静だね……」
「……まあ、そうなのかもしれません」

 マキバさんより、ひょっとしたら一回り以上年下かもしれないが。
 俺たちには経験がある。だからもう、悲劇を目の当たりにしたくないのだ。
 したくないと、思っているのに。

「……じゃあ、行きましょう。ここで起きている何かを解明するために」
「ああ……よろしく」

 俺とマキバさんは、軽く握手を交わす。ただのお泊まり会なら結ぶはずのなかった手。束の間の協力関係。

「……頑張ってきてください、レイジくん」

 シグレの声援を受けて、俺とマキバさんは霊気に満ちた異世界へと、探検に繰り出すのだった。
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