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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】

45.解決篇

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 深い深い地下に隠された闇。
 GHOSTなる機関の、罪深き実験場。
 奥へ奥へと長く伸びる部屋の両端には、大きな培養装置が幾つも並んでいて。
 その中には人の形をした人形もあれば、実際に人であったものの残滓も漂っているのだった。
 現実とは思えぬ光景の中。
 辿り着いた俺たちはまず、床に倒れ伏していたシグレ君の姿を認めた。

「シグレくん! 無事か!?」

 無事、とはとても言えない惨状が広がっている。俯せに倒れたシグレくんは、その背中を執拗に刃物で切り裂かれており、床には血溜まりができていた。赤く染まりすぎて、最早服と肌の区別もつかないまでに傷付けられた背中は、直視できない有様だった。

「レイジ、さん……」

 息も絶え絶えに、シグレくんは俺の名前を呼ぶ。
 意識を保っていることすら奇跡的なくらい、彼の状態は危うかった。

「……ごめんな……遅くなって」
「……えへへ……いいんです。ボクは……レイジさんなら来てくれるって……分かってました、から」

 だから、とまで言いかけて、シグレくんは動かなくなる。
 息はあるが、その起伏はとても僅かなもので。

「君の大事な友達は残しておいたよ」

 声。
 遠くから聞こえてくるのは、支配者の声だった。
 この館を支配し、そして俺たちを蹂躙した――事件の犯人。

「何せ、君のために考えられたゲームなんだ。きっちりと答え合わせくらいはしてほしいと思ってね?」

 部屋の奥に立つそいつは、嘲るような笑みを浮かべながら俺たちを見下している。
 そこに、かつての面影はまるでないように思えた。
 全てが幻影だったかのように。

「……お、おい……そんな……」

 ソウヘイが、驚きのあまり絶句している。
 俺だって認めたくなかった推理だ。けれど、事ここに至って推理は真実になった。

「……俺のため? ふざけんなよ……全部、お前のためでしかないだろうが。徹頭徹尾、気味の悪いほどに仕組まれた、お前のためのお遊びだったんじゃねえか」
「それは心外だよね、せっかく練りこんだプロットなのに。確か、霧夏邸の事件を参考にしたんだったかな、うん」
「……知らねえよ。俺たちはお前の遊び道具じゃねえ!」

 悲しみと、それを塗り潰すほどの怒りを込めて俺は叫ぶ。しかし、そんなものは奴の心に何らも響かないらしい。

「遊び道具というより、駒かな。おかげで、ここでの目的は達した。感謝しているんだよ」
「感謝……だと?」
「そうさ。君たちは……君はよく働いてくれた。おかげで私は、パーツを手に入れることができたのだから」
「何を言ってやがる……」

 ソウヘイの言葉を無視して、というより最早ソウヘイなど眼中にないかのように、奴は再び口を開く。

「……さあ、せっかくの解決篇だ。犯人のお話から入っても仕方ないだろう? 桜井令士くん、謎解きをしてくれるかい。君たちの命をかけてね」

 それは、頼みでなく命令だ。
 奴自身の享楽のため、俺の推理を聞きたいというだけ。
 話さなければ死。話したところで間違えたり気に入らなければ死。
 理不尽極まる、いっそのこと笑いたくなるような状況だった。

「なあ……本当に、あいつが……?」

 未だに眼前の真実を受け入れられないソウヘイが、俺に問いかけてくる。
 けれど、俺が返せる答えは頷きだけだ。
 それが、疑いようのない事実なのだから。
 他ならぬ犯人があの場に立ち、俺たちにその事実を誇示しているのだから。

「望み通り話してやるさ。俺が辿ってきた道のりを」

 そして俺は、探偵のように謎解きを始める。
 役者が四人だけになった舞台で、犯人に命じられるままに。
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