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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】

37.施設に散らばる研究史①

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 一番近くにある扉は、ロッカールームに続いていた。ここで研究員は白衣に着替え、研究に繰り出していたのだろう。
 一応男女に分かれているらしいが、ロッカーの数は十個ほどとそれほど多くはなかった。
 牧場智という名前には見覚えがある。確か、地上階の図書室でこの人物の著した書籍があった。要するにあれは嘘っぱちではなく実体験で、きっと他の書籍も事実が記されたものなのだろう。
 部屋を移って気付いたが、施設内の壁には一定間隔で十字架のような装飾品が掛けられている。これが機関のシンボルだったりするのだろうか。

「雰囲気だけでもヤバそうだよな……」
「ある種、宗教的というか……妄信的なところを感じるというか」

 妄信的、か。シグレくんの言葉は的を射ているのかもしれない。
 こんな研究、妄信的でなければ続けられるものじゃないだろう。
 ロッカーはほとんど全て開け放たれていて、その中には忘れられた私物や資料が幾つかある。
 何らかの計画書の表紙だけが残っていたので、抓み上げてみる。
 詳細は不明だが、『ゴーレム計画』というのは読み取れた。

「どうせロクな計画じゃないんだろう」
「霊関係なのは間違いなさそうだけど……」

 この計画にも、ヒカゲさんは関わっていたのだろうか。
 あの笑顔の裏でどれほどの魂を、彼は。
 ロッカールームは狭く、それ以上の収穫はなかったので、俺たちは次の部屋へと移動する。
 入った先にあったのは、本棚と紙の束で占められた部屋だった。

「……施設内の図書室なのかね」
「むしろ資料室って言った方がいいのかもしれない」

 本だけでなくプリントアウトされた論文や計画書などが雑多に収められているこの部屋は、資料室と呼ぶべき雰囲気があった。
 ここには研究員の知識が集約されている。情報は多そうだ。

「調べていくか」
「はい……そうしましょう」

 地上の図書室よりも規模は小さいのだが、情報の深度というか、とにかく世間の常識では考えられないようなものばかりが収蔵されている。棚に並ぶ本の背表紙は霊魂やオカルト、異常犯罪に関するものだったり、そもそも洋書なので読めなかったり。そして他の半分以上は組織の記録などが綴られたファイルになっており、背にはラベルでタイトルが貼り付けられていた。

「ヤバそうなタイトルばっかりだな……」

 本棚を覗き込みながら、ソウヘイが重々しい呟きを発する。
 彼が手に取った本には『魂の学問的理解』というタイトルが付けられている。風見照という著者名は、聞いたことがあるようなないような。

「びっくりするんだが、これは一般に販売されてた本らしいぜ。ここの組織……GHOSTっていうみたいだが、そいつらはこの本っていうか風見照って人物を重要視してて、プロメテウスの火だとか呼んでたってよ」

 プロメテウスの火は、神が人間に火を与えたという神話だ。しかし、その話の続きとしてゼウスの怒りを買ったプロメテウスが惨たらしい処罰を受けるわけだが。
 誰かが罰を受けることになるのか、或いはもう罰は課せられているのか。
 俺は俺で、別の本棚を調べて回る。今見ている列は大体が計画書をまとめたファイルのようだ。
 このファイルは機密情報だったためか、一部抜き取られているものもあるようで、ファイルの厚さと綴じられている資料の枚数がそぐわないものがあった。
 さっき見たゴーレム計画という計画書もあるが、やはり表紙以外は綺麗に無くなっている。
 他も大体は欠けたり無くなっているようだ。
 ほとんど完全な形で残っているのは、『エンケージ計画』と称されたものだけだった。

『エンケージ計画は魂魄ゲノムに関する研究の過程で、その正しさを確認するため行われた臨床試験である。佐渡コンツェルンの行う計画に協力するという名目で、GHOSTは実地へ被験者を送り込んだ。事前に算出した人物データとゲノムの似通う人間を雇い、その後かなりの期間、生活は続いたが、重大な齟齬は出なかった模様。無改造の人間でこの結果ならば、改造によりゲノムを限界まで合わせた人間では更に同一性の高い行動パターンとなり得るだろう……』

 佐渡コンツェルンという会社は聞き覚えがある。かなり有名な商社だったはずだ。
 確か二年ほど前に事件があったらしいが、まさかそんなことにまでGHOSTという組織は関与しているのだろうか。
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