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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】
36.第十三研究所
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念のためにとソウヘイが提案し、ホールへ戻ってきた俺たちは、危惧していたことが現実になっていたことを知る。
「……ランちゃんも消えてる」
俺に見せないよう、先にソウヘイとシグレくんの二人が確認したのだが、吊り下げられていたランの体は忽然と消えていたのだった。
「……どうして死体が消えちまうんだろうな」
特に、今までは怪物になったことが関係していたのかと推理していたが、ランは単純に危害を加えられ、殺されている。
今までの推理は何かが違っているのだろう。
「……ん?」
さっきまでランが吊られていた場所の下。赤いカーペットの敷かれた床に、何かが落ちている。
近づいて拾い上げてみると、それはIDカードだった。
「カードキー……だな、これ」
俺の手から掠め取ったゲスト用かと思ったが、どうやら違う。
そのカードには、日下敏郎という名前が記されていた。
室長という役職まで添えて。
「ヒカゲさんのカード、みたいだ」
「ホントですか!?」
俺は拾ったカードを二人に見せる。
「……マジだな」
記載された名前を確認すると、ソウヘイは難しい顔をして唸った。
「……なんかよ。俺たち、遊ばれてる気がしねえか? 霊の恨みとかそんなんじゃなく、何というか……弄ばれてるような感じがするんだよ」
「……それは、思ったよ」
俺はソウヘイに同意する。
「探索中、鍵や道具を見つけた場所に見え隠れする痕跡。誰かが仕組んだような謎解き要素」
俺たちは、犯人に踊らされているだけの道化だとでも言うのか。
一人一人、殺されるのを待つだけの哀れな実験生物だとでも。
「……そんなのは、絶対に御免だ」
絞り出すような俺の言葉に。
ソウヘイもシグレくんも、静かに頷いてくれた。
「とりあえず、このカードならマスターキーみたく研究施設のどこでも通れるんじゃねえかな」
「気をつける必要はありますけど、試してみるしかないですね」
握りしめたるカードは、俺たちを導くものか、絡めとるものか。
どちらにしても、俺たちにできるのは飛び込むことだけだ。
東側の尖塔へ戻り、地下の研究施設へ。さっきはエラーにより消えていた電灯は、いつの間にやら再点灯していた。
どうやら常に明かりが点く設定で、異常が起きたときだけ一時的に電気系統を切断するようになっているようだ。
さっきのカードリーダーのところまで戻ってきた俺たちは、互いの存在を確認しあってから、念のためにと手を繋ぐ。再びエラーが起きても、相手の手を強く握っていればそう簡単には連れ去られないはずだ。
更に、ソウヘイとシグレくんには廊下側を注視していてもらう。怪しい奴が近づいてくる気配があれば、すぐにライトで照らせるようにスマホも手に持っていた。
これくらいの準備を、さっきもしていればよかったのだろうな。
「……行くぜ」
確認をとってから、俺はIDカードをリーダーに通す。
一瞬だけ緊張が走ったが、カードは無事に認証されて扉は解錠された。
「……よし、開いたな」
「ようやく黒影館の心臓部に突入ってわけだ」
この館にやって来たときには、まるで予想もしていなかった場所。
隠された研究施設の中へ、俺たちは入っていく。
自動ドアが静かに開くと、広い玄関ホールが現れる。
表向きは個人邸宅と見せかけていた施設の、本当の玄関口。
「……すげえ、何だよこれ」
ホールの景色に、ソウヘイが思わず息を呑んだ。
端から端までどれくらいあるだろうか。目測だが、恐らくは五十メートル近くはあるに違いない。
ど真ん中には、中で受付嬢が応対するようなカウンターテーブルがあり、その四方それぞれにパソコンが設置してある。既に放棄されている研究施設なだけあって、パソコンの型は古いが、当時はかなり高性能なものだっただろうことは何となく察せられた。
電子掲示板は液晶が割れているが、最後に映し出されていた『GHOST第十三研究所 日下分室』という文字がずっと残り続けていた。
「まさに研究施設……だな」
壁に取り付けられたモニタ、大量に積まれたコンテナ、会議用のテーブルにホワイトボード。
ここで何人もの研究員が己の知識欲を満たしていたことがよく分かる。
「地下にこんなものがあったなんて……」
シグレくんが絶句するのも無理からぬことだ。
そもそも、普通の人間にとってこんな施設を目にする機会など有りはしないのだから。
どうしてこんなところへ辿り着くことになったのか。
偶然か、それとも因縁だとでもいうのだろうか。
「ここが霊に関する研究所だったことはもう、疑いようがねえんだな」
「ヒカゲさんはここにいた、か」
「……分かってたことだろうが、やっぱりショックか?」
ソウヘイが訊ねてきたが、正直なところ今はもう分からない。
既に受け入れ始めている気もするし、麻痺しているような気もする。
でも確かに、それはショックを受けたゆえのことではあるのだ。
「とりあえず、心ん中はぐちゃぐちゃだよ」
そう答えると、ソウヘイは何も言わずに背中をポンと叩いてくれた。
「……多分、ここには研究に関わる資料とかが沢山あるんでしょうね」
「ああ。調べれば、この館のことや研究施設を作ったやつらのことが分かるんじゃないかな。それに、俺たちが何に巻き込まれたのかも」
「そうですね……とにかく、漁ってみましょう。霊について、ここでどんなことをしていたのか」
シグレくんとソウヘイが互いに頷き合い、どこから探索していくか相談を始める。
俺もそれに加わるべきではあるのだが。
「……どうかしましたか? レイジさん」
「ああ、いや。なんでもないよ」
奇妙な感覚。それが何なのか気付くまでに、時間を要したけれど。
数分が経って、やっとその正体に合点がいった。
これは――既視感だ。
頭痛とともに、嫌な寒気を覚える。
どうして、ここに見覚えがあるんだろう。
何一つ思い出せないはずの俺が……どうして。
「……くそ」
頭を緩々と振って。
俺はソウヘイたちの後に続いた。
「……ランちゃんも消えてる」
俺に見せないよう、先にソウヘイとシグレくんの二人が確認したのだが、吊り下げられていたランの体は忽然と消えていたのだった。
「……どうして死体が消えちまうんだろうな」
特に、今までは怪物になったことが関係していたのかと推理していたが、ランは単純に危害を加えられ、殺されている。
今までの推理は何かが違っているのだろう。
「……ん?」
さっきまでランが吊られていた場所の下。赤いカーペットの敷かれた床に、何かが落ちている。
近づいて拾い上げてみると、それはIDカードだった。
「カードキー……だな、これ」
俺の手から掠め取ったゲスト用かと思ったが、どうやら違う。
そのカードには、日下敏郎という名前が記されていた。
室長という役職まで添えて。
「ヒカゲさんのカード、みたいだ」
「ホントですか!?」
俺は拾ったカードを二人に見せる。
「……マジだな」
記載された名前を確認すると、ソウヘイは難しい顔をして唸った。
「……なんかよ。俺たち、遊ばれてる気がしねえか? 霊の恨みとかそんなんじゃなく、何というか……弄ばれてるような感じがするんだよ」
「……それは、思ったよ」
俺はソウヘイに同意する。
「探索中、鍵や道具を見つけた場所に見え隠れする痕跡。誰かが仕組んだような謎解き要素」
俺たちは、犯人に踊らされているだけの道化だとでも言うのか。
一人一人、殺されるのを待つだけの哀れな実験生物だとでも。
「……そんなのは、絶対に御免だ」
絞り出すような俺の言葉に。
ソウヘイもシグレくんも、静かに頷いてくれた。
「とりあえず、このカードならマスターキーみたく研究施設のどこでも通れるんじゃねえかな」
「気をつける必要はありますけど、試してみるしかないですね」
握りしめたるカードは、俺たちを導くものか、絡めとるものか。
どちらにしても、俺たちにできるのは飛び込むことだけだ。
東側の尖塔へ戻り、地下の研究施設へ。さっきはエラーにより消えていた電灯は、いつの間にやら再点灯していた。
どうやら常に明かりが点く設定で、異常が起きたときだけ一時的に電気系統を切断するようになっているようだ。
さっきのカードリーダーのところまで戻ってきた俺たちは、互いの存在を確認しあってから、念のためにと手を繋ぐ。再びエラーが起きても、相手の手を強く握っていればそう簡単には連れ去られないはずだ。
更に、ソウヘイとシグレくんには廊下側を注視していてもらう。怪しい奴が近づいてくる気配があれば、すぐにライトで照らせるようにスマホも手に持っていた。
これくらいの準備を、さっきもしていればよかったのだろうな。
「……行くぜ」
確認をとってから、俺はIDカードをリーダーに通す。
一瞬だけ緊張が走ったが、カードは無事に認証されて扉は解錠された。
「……よし、開いたな」
「ようやく黒影館の心臓部に突入ってわけだ」
この館にやって来たときには、まるで予想もしていなかった場所。
隠された研究施設の中へ、俺たちは入っていく。
自動ドアが静かに開くと、広い玄関ホールが現れる。
表向きは個人邸宅と見せかけていた施設の、本当の玄関口。
「……すげえ、何だよこれ」
ホールの景色に、ソウヘイが思わず息を呑んだ。
端から端までどれくらいあるだろうか。目測だが、恐らくは五十メートル近くはあるに違いない。
ど真ん中には、中で受付嬢が応対するようなカウンターテーブルがあり、その四方それぞれにパソコンが設置してある。既に放棄されている研究施設なだけあって、パソコンの型は古いが、当時はかなり高性能なものだっただろうことは何となく察せられた。
電子掲示板は液晶が割れているが、最後に映し出されていた『GHOST第十三研究所 日下分室』という文字がずっと残り続けていた。
「まさに研究施設……だな」
壁に取り付けられたモニタ、大量に積まれたコンテナ、会議用のテーブルにホワイトボード。
ここで何人もの研究員が己の知識欲を満たしていたことがよく分かる。
「地下にこんなものがあったなんて……」
シグレくんが絶句するのも無理からぬことだ。
そもそも、普通の人間にとってこんな施設を目にする機会など有りはしないのだから。
どうしてこんなところへ辿り着くことになったのか。
偶然か、それとも因縁だとでもいうのだろうか。
「ここが霊に関する研究所だったことはもう、疑いようがねえんだな」
「ヒカゲさんはここにいた、か」
「……分かってたことだろうが、やっぱりショックか?」
ソウヘイが訊ねてきたが、正直なところ今はもう分からない。
既に受け入れ始めている気もするし、麻痺しているような気もする。
でも確かに、それはショックを受けたゆえのことではあるのだ。
「とりあえず、心ん中はぐちゃぐちゃだよ」
そう答えると、ソウヘイは何も言わずに背中をポンと叩いてくれた。
「……多分、ここには研究に関わる資料とかが沢山あるんでしょうね」
「ああ。調べれば、この館のことや研究施設を作ったやつらのことが分かるんじゃないかな。それに、俺たちが何に巻き込まれたのかも」
「そうですね……とにかく、漁ってみましょう。霊について、ここでどんなことをしていたのか」
シグレくんとソウヘイが互いに頷き合い、どこから探索していくか相談を始める。
俺もそれに加わるべきではあるのだが。
「……どうかしましたか? レイジさん」
「ああ、いや。なんでもないよ」
奇妙な感覚。それが何なのか気付くまでに、時間を要したけれど。
数分が経って、やっとその正体に合点がいった。
これは――既視感だ。
頭痛とともに、嫌な寒気を覚える。
どうして、ここに見覚えがあるんだろう。
何一つ思い出せないはずの俺が……どうして。
「……くそ」
頭を緩々と振って。
俺はソウヘイたちの後に続いた。
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