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Third Chapter...7/21
説明会の日程
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「そう言えば、こんなお知らせが入っていたんだが、今回はどうしようか」
いただきますの合掌をする前に、父さんがそう言って、簡素な文章の『お知らせ』を私たちの前に差し出した。そこには、次に行われる電波塔の住民説明会の日程が記されてあった。
「どうやら、今回で最後らしい。既に三回開かれているから、これで四回目か。何度か拝聴しには行ったが、最後の説明会なら行っておくべきだろうな」
「えー、面倒臭いなあ。正直、毎回言ってることは変わらないんだよね。納得してない人がいるだけで」
「瓶井さんって人ね。満生台に昔から住んでいて、街の北方面は全部あの人の土地だそうだけど。……そんな人にとってみれば、ずっと自分のものと言えるような場所が、勝手に変えられていくのは我慢ならないのかもしれないわね」
「実際、あの人と他数人ほどしか、声高に反対している人はいなさそうだからな。昔に愛着があるから、頑固に電波塔批判をしているんだろう」
お父さんたちの言っていることは、おおよそ的を射ていると私も思う。けれど、昔を愛する気持ちが悪いものだとは限らないはずだとも思った。古き良き時代、そんな言葉だってある。新しいものを取り入れることも、伝統を守ることも、きっと同じくらい大切で、難しい。
子どもだからこそ、そんな中途半端な意見でいられるだけかもしれないが。
「瓶井さんが鬼の伝承を持ち出したときは流石に驚いたが……ここでは広く認知されている昔話なのかね」「んー、どちらかと言えばもう風化し始めた言い伝えだと思う。知ってる人はほとんどいないって牛牧さんから聞いたことがあるわ。満生台は元々三匹の鬼の村と書いて三鬼村って名前になってて、悪さをした村人に、三匹の鬼が罰を与えたって」
「よくある言い伝えだな。時代の移り変わりとともに消えてしまっても不思議じゃない」
「でも、文献みたいなものはないのよね」
「それはないみたい。だから、風土記とかで残ってるような伝承に比べたらずっと弱い話なんだと思うよ」
この場所でだけしか生きられない、鬼の幻影。それを守っていこうとするのは、率直に言えば無謀なんじゃないかと思った。
「……まあ、いずれにせよ電波塔は完成してしまったし、これから先、あれは街の要になっていくだろう。この街の発展に待ったがかかることは、今後も含めて、滅多なことではないはずだ」
畢竟、お父さんの言う通りなんだろう。計画はもう、最終段階まで進んでしまっている。それを止められるものなど、ないと言っても過言ではない。
昔から住む人たちには悪いが、これが時代の流れというものだ。
「とりあえず、最終説明なら新しい話も聞けるかもしれない。夜に出かけるのは億劫かもしれないが、参加しよう」
「ええ、分かったわ」
「まあ、しょうがないよね。了解」
お父さんが行くのなら、文句は言えない。前回も参加しているけれど、まあ何時間か無駄にするだけだと割り切るしかないか。
説明会の日時は、三日後の火曜日、夜七時だ。見ているドラマも別の曜日だし、不都合はなさそうだった。
美味しい朝食を平らげて、私は自室に戻ってベッドに寝転がる。冷房の電源は、昨日帰ってきたときから一度も消していない。この夏の暑さなのだ、節約を掲げている場合じゃない。私はともかく、お年寄りには命の危険すらある暑さなのだし、適温であれば、ずっと点けていた方が良いはずだ。
「んー……」
ベッドの上で伸びをして、スマホを手に取る。もう流石に、虎牙だって起きている頃だろう。私はチャットアプリを起動すると、グループのルームに入って連絡を入れた。
『遅刻厳禁よ!』
ちょうどスマートフォンが近くにあったのだろう、既読はすぐについて、虎牙が了解を示すスタンプを送ってきた。それがふざけたようなイラストだったので、ちょっとムカついてしまった。しばらくして来た玄人のスタンプは、対照的に無難なものだった。
「ま、別にいいんだけどね」
仕切り屋なのが染みついている感はあるが、今はもうきっちりする必要もないのだし、本音を言えば、ただ二人の返事がほしかっただけなのかもしれなかった。
私は何だかんだ、皆に甘えている。
出発の時間は昼なので、私はテレビやネットで時間を潰した。今ではネットで素人でも漫画や小説を広められる時代、私も面白いミステリがネットで公開されていれば、たまに読んでみたりしていた。いつの日か自分も書いてみたいなと思いつつ、そこまでの技量や体力がないのでチャレンジはしていない。玄人なら、出来るかもしれないんだけどな。
だらだらと午前中を過ごし、十二時にお昼ご飯を食べる。両親には予め、出かけることを伝えてあったので、食器の片付けは免除された。部屋に戻って簡単に支度を済ませ、玄関まで向かうと、お母さんが待っていてくれた。見送ってくれるんだ、と嬉しく思ったが、
「龍美。帰りに秤屋さんとこで、晩御飯の材料買ってきてくれる?」
「えー。まあ、いいけど」
疲れて帰ってくる道中で、買い物までしないといけないのは少し面倒臭いな。
「ありがと。じゃあ、これでよろしく。残った分は持ってていいから」
そう言ってお母さんは、千円札を二枚と、買い物のリストを渡してきた。ちらっと目を通すと、多分千円ちょっとで揃えられるものだ。お釣りをもらえるのはありがたい。
「りょーかい。んじゃ、早めに帰るね。いってきます」
そして私は、見送るお母さんを背に、自宅を出発した。
いただきますの合掌をする前に、父さんがそう言って、簡素な文章の『お知らせ』を私たちの前に差し出した。そこには、次に行われる電波塔の住民説明会の日程が記されてあった。
「どうやら、今回で最後らしい。既に三回開かれているから、これで四回目か。何度か拝聴しには行ったが、最後の説明会なら行っておくべきだろうな」
「えー、面倒臭いなあ。正直、毎回言ってることは変わらないんだよね。納得してない人がいるだけで」
「瓶井さんって人ね。満生台に昔から住んでいて、街の北方面は全部あの人の土地だそうだけど。……そんな人にとってみれば、ずっと自分のものと言えるような場所が、勝手に変えられていくのは我慢ならないのかもしれないわね」
「実際、あの人と他数人ほどしか、声高に反対している人はいなさそうだからな。昔に愛着があるから、頑固に電波塔批判をしているんだろう」
お父さんたちの言っていることは、おおよそ的を射ていると私も思う。けれど、昔を愛する気持ちが悪いものだとは限らないはずだとも思った。古き良き時代、そんな言葉だってある。新しいものを取り入れることも、伝統を守ることも、きっと同じくらい大切で、難しい。
子どもだからこそ、そんな中途半端な意見でいられるだけかもしれないが。
「瓶井さんが鬼の伝承を持ち出したときは流石に驚いたが……ここでは広く認知されている昔話なのかね」「んー、どちらかと言えばもう風化し始めた言い伝えだと思う。知ってる人はほとんどいないって牛牧さんから聞いたことがあるわ。満生台は元々三匹の鬼の村と書いて三鬼村って名前になってて、悪さをした村人に、三匹の鬼が罰を与えたって」
「よくある言い伝えだな。時代の移り変わりとともに消えてしまっても不思議じゃない」
「でも、文献みたいなものはないのよね」
「それはないみたい。だから、風土記とかで残ってるような伝承に比べたらずっと弱い話なんだと思うよ」
この場所でだけしか生きられない、鬼の幻影。それを守っていこうとするのは、率直に言えば無謀なんじゃないかと思った。
「……まあ、いずれにせよ電波塔は完成してしまったし、これから先、あれは街の要になっていくだろう。この街の発展に待ったがかかることは、今後も含めて、滅多なことではないはずだ」
畢竟、お父さんの言う通りなんだろう。計画はもう、最終段階まで進んでしまっている。それを止められるものなど、ないと言っても過言ではない。
昔から住む人たちには悪いが、これが時代の流れというものだ。
「とりあえず、最終説明なら新しい話も聞けるかもしれない。夜に出かけるのは億劫かもしれないが、参加しよう」
「ええ、分かったわ」
「まあ、しょうがないよね。了解」
お父さんが行くのなら、文句は言えない。前回も参加しているけれど、まあ何時間か無駄にするだけだと割り切るしかないか。
説明会の日時は、三日後の火曜日、夜七時だ。見ているドラマも別の曜日だし、不都合はなさそうだった。
美味しい朝食を平らげて、私は自室に戻ってベッドに寝転がる。冷房の電源は、昨日帰ってきたときから一度も消していない。この夏の暑さなのだ、節約を掲げている場合じゃない。私はともかく、お年寄りには命の危険すらある暑さなのだし、適温であれば、ずっと点けていた方が良いはずだ。
「んー……」
ベッドの上で伸びをして、スマホを手に取る。もう流石に、虎牙だって起きている頃だろう。私はチャットアプリを起動すると、グループのルームに入って連絡を入れた。
『遅刻厳禁よ!』
ちょうどスマートフォンが近くにあったのだろう、既読はすぐについて、虎牙が了解を示すスタンプを送ってきた。それがふざけたようなイラストだったので、ちょっとムカついてしまった。しばらくして来た玄人のスタンプは、対照的に無難なものだった。
「ま、別にいいんだけどね」
仕切り屋なのが染みついている感はあるが、今はもうきっちりする必要もないのだし、本音を言えば、ただ二人の返事がほしかっただけなのかもしれなかった。
私は何だかんだ、皆に甘えている。
出発の時間は昼なので、私はテレビやネットで時間を潰した。今ではネットで素人でも漫画や小説を広められる時代、私も面白いミステリがネットで公開されていれば、たまに読んでみたりしていた。いつの日か自分も書いてみたいなと思いつつ、そこまでの技量や体力がないのでチャレンジはしていない。玄人なら、出来るかもしれないんだけどな。
だらだらと午前中を過ごし、十二時にお昼ご飯を食べる。両親には予め、出かけることを伝えてあったので、食器の片付けは免除された。部屋に戻って簡単に支度を済ませ、玄関まで向かうと、お母さんが待っていてくれた。見送ってくれるんだ、と嬉しく思ったが、
「龍美。帰りに秤屋さんとこで、晩御飯の材料買ってきてくれる?」
「えー。まあ、いいけど」
疲れて帰ってくる道中で、買い物までしないといけないのは少し面倒臭いな。
「ありがと。じゃあ、これでよろしく。残った分は持ってていいから」
そう言ってお母さんは、千円札を二枚と、買い物のリストを渡してきた。ちらっと目を通すと、多分千円ちょっとで揃えられるものだ。お釣りをもらえるのはありがたい。
「りょーかい。んじゃ、早めに帰るね。いってきます」
そして私は、見送るお母さんを背に、自宅を出発した。
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