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十四章 ヒカル七日目
終演 ①
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「――今から二十八年前。鴇村は、彼の日記に書いてある通り――焼失したんですね」
二〇一三年、六月九日。
僕らは、朝から黄地家に集まり、今日成すべき、いや、成し遂げなくてはならないことのために、話し合っていた。
そのために、今日に至るまでの、この事件の犯人の過去を辿っているのである。
「そう。あの日、赤井元気さんと佐渡一比十、そして宇治金枝さんの三人によって、鴇村は焼失することになった。まあ、この内カナエさんに関しては、全てを知りながら、誰にも何も言うことなく最期のときを待っていたという、受動的なものなのだけどね」
本物のカナエさんは、ただ好意を寄せていた人物の望みを叶えるためだけに、全てを受け入れ、そして沈黙していたのだろう。
それは、あまりに救いのない恋と、その結末だと思った。
「私は、あの日佐渡に崖から蹴り落とされ、死んでいてもおかしくはなかった。だが、奇跡的に生き残れたんだ。川の下流にある村の人に発見されてね」
運が良かった、とコウさんは言う。
「実は、その蹴り落とされた瞬間に、私は反射的にカメラのシャッターを切っていたんだが。そのとき撮れた写真が、彼にとってカードの一つになるとは、思いもしていなかった」
「そういえば、クウが、あの家に古いカメラがあるのを発見していたんですけど……それが、ヒカルさんのものなんでしょうね、きっと」
「コウ、でいいよ。私はもう、その名を名乗る意味がない」
「でも……あなたの名前です」
「いいんだよ。今はもう、君のものだ」
「……」
その目が真っ直ぐすぎて、僕はそれ以上言葉を紡ぐことができなかった。
「……それで、村が焼失してから、どうなったんでしょう。コウさんは、どこまで知ってるんですか?」
「うん。この二十数年で、ある程度のことは分かったよ」
そこでコウさんは、小さな黒革の手帳を取り出す。そこに、今まで調べた事柄が記されているのだろう。
「どうやら彼は、火事のあと、ツバサちゃんと共にふもとの村まで逃げてから、佐渡と落ち合ったようでね。佐渡と一緒に東京へ行き、そこで援助を受けながら、暮らしていたらしい」
「え? なんで? よりによって佐渡一比十と?」
「彼にとっての一番の目的は、ツバサちゃんを回復させることだった。もちろん復讐したいという気持ちもあっただろうけどね。だから、あくまでも打算的に、彼は佐渡の庇護を受けることにしたんだよ。自分が真相を知っているという素振りも見せずに……証拠となる画像を持っていることも知らせずに」
「それだけの……執念を持っていた」
「ああ。いつかの、約束のためにね」
「…………」
彼にとって、ツバサさんは。それほどまでに大切な、存在だったのだ。
その大切な存在のために、彼は全てを懸けて、生きてきたのだ。
自分の命だけでなく、他の様々なものをも巻き込んで。
「成人した彼は、ツバサちゃんと結婚した。彼女に記憶は戻らなかったけれども、日常生活はできるくらいだったようだ。脳の障害か、ボンヤリとしたままでいることも多かったらしいけれど。必ず元に戻す。その思いを胸に、彼は彼女と結ばれた。歪な関係だとは思うけど、私にはなんとも言えない。言えるわけがないよ」
コウさんはそこで、一つ重い溜息を吐いた。
「そして、佐渡のコネを使い、佐渡コンツェルンに入社。ひたすら努力したようで、着々と昇進していったようだ。それから十年ほどして、彼はいよいよ、かねてよりの計画を進めることにした……鴇村再現計画をね」
「……考えつくことが、なんというか。常識外れというか、ううん……」
「よく言えば破天荒、まあ、悪く言えば……狂ってる、ね。でも……そのときもう、彼の心はきっと、半ば狂っていたんだよ。壊れた彼女の隣で、絶望を感じているうち。彼も、壊れていってしまっていたんだ」
「想像もつかない、心理状態だなあ……」
クウが、遠い目をして言う。僕にだって、その心は想像もつかない。
「ともあれ、計画は実行に移された。彼は社長になっていた佐渡を脅迫し、会社の資金を使って小さな無人島を購入した。小さいとは言え、島一つを買うといえばかなりの投資になるわけだが、そこは会社のCSR活動、ということにしたようだ。野生の鳥、特にトキを保護するための島、ということでね」
「……強引な」
「彼にとって、目的はツバサちゃんの回復だったのだから、他はどうでもよかったんだ。多少、いや、どんなに強引でも、目的が果たせればそれで良かったのに違いない」
彼は、どこまでも真っ直ぐだったわけだ。
ずっとずっと、ただ一つの目的のために、突き進んできたわけだ。
「そうして出来上がったこの鴇島で。出来上がった舞台の上で。……彼に発症した、父親と同じ病をきっかけに、また、村は焼かれようとしている」
「……」
僕とクウは、ぐっと口を真一文字に結んで、頷く。
「その、繰り返されようとしている悲劇を、僕らは今日、止めないといけない。それは、辛い戦いに間違いないだろうけど、全てが手遅れになる前に、止めなくてはいけないんだ」
「……はい」
……さあ。
それじゃあ、始めさせてもらうよ。
二度目の悲劇に抗うための、戦いを。
……"ワタルさん"。
*
外へ出るなり、コウさんは止まり木に設置されている燭台に手を置き、
「……この燭台を調べたんだけど、何も仕込まれてはいないらしい。父親と同じ手法、というわけではないようだ。……八十五年の火事は、ゲンキさんが仕掛けた焼夷弾のようなものでね。まあ、この燭台と連動していた、という感じなんだ」
そう説明してくれた。モロトフ、という単語が、当時のゲンキさんが書いたメモにはあったらしく、恐らくはモロトフ・カクテルと呼ばれた火炎瓶を参考に作成されたものだろう、とコウさんは仮説を立てているそうだ。
「……なるほど」
「……でも、それならむしろ、何か見つかったほうがよかったんじゃ?」
クウが恐る恐る訊ねると、コウさんは頷き、
「そうだね。ここに仕掛けられているとハッキリ分かっていれば、何とかできた。……そうでないなら、難しい」
コウさんは、顎の辺りに手を当てて、しばらく悩み、
「……火事の原因は断てないと考えるしかないんだ。だから……タイムリミットは、今日の夕方。そう、鴇祭が始まる時間までだ」
「それまでに……ワタルさんを止める」
「ああ」
僕の言葉に、コウさんは強く頷く。
「……それじゃあ、行こうか。まずは、彼女のところへ」
そう言って、コウさんは先頭をきって歩き始めた。
あの人――僕らがずっと慕ってきた、彼女の元へ。
*
彼女は、いつだって僕らを見守ってくれていた。
いつだって、優しく接してくれていた。
大切なことを、教えてくれていた。
僕らはそんな彼女を慕い、ずっと付き従ってきた。
多くのことを、学んできた。
……ねえ、たとえその理由が、偽りのものだったとしても。
あなたと歩んできた時間は、決してハリボテのようなものではなかったでしょう?
少なくとも、僕らはそう思っているよ。
あなたは、どうなんだろう。
――カナエさん。
「……今日も元気ね、二人とも。……先生、嬉しいわ」
カナエさんは、僕らを家の中へ招くと、座布団を用意しながら、そんなことを言った。
何気ないようにと努めているその声色が辛くて、僕らは言葉を返せなかった。
「……突然、すいませんね。今日しか、残されていないものですから」
「……」
コウさんの正体を、訊ねることもしない。彼女にはきちんと、状況が把握できているようだった。
「あなたの本名は、佐渡朱鷺子……ですね?」
「…………はい。そうです」
長い沈黙のあと、カナエさんは確かに、肯定した。
自身が"宇治金枝"を演じていたということを。
自身が佐渡一比十の娘であるということを。
僕らにとっては痛ましく映る、笑顔で。
「この鴇島には、当時の村人たちに酷似した人たちが集められているのは調べています。その殆どが、身寄りのない人や、生活苦の人、犯罪者だったことも」
コウさんはまた、スーツの裏ポケットから取り出した手帳を見ながら言う。
「その中で、何人かの村人……キーパーソン的な存在は、そうではないようでした。当然ながらあなたも、その一人」
「……偶然、とは言いません。父は、"カナエ"さんに恋し、その身代わりとして母を愛したんですから。私が"カナエ"さんに似ていることは、運命のようなものだったんです」
彼女はふ、と短く息を吐き、
「……いいえ、私の言う運命なんて、小さなもの。あの人が囚われた運命の歯車になる、小さな一欠けらみたいなものなんでしょうね」
ワタルさんのことを言っているのだろう、カナエさんは彼の家がある方に視線をやりながら、そう言った。
コウさんは追及を続ける。
「ツバサちゃんの記憶を取り戻すために重要なのは、子供たちを過去と重ねることだと考えた。自分たちはあんな風に毎日を過ごしていたんだよと、懐かしい光景を見せることで、ワタルは記憶を揺り起こそうとした。そしてそのためには、子どもたちを過去と同じように動かす"指導者"が必要だった……」
「……立候補したんです」
カナエさんは、真っ直ぐにコウさんを見つめながら、言った。自らの意思だったのだと、示すように。
「本当は、私である必要はなかった。従ってくれさえすれば、"カナエ"さんに似た誰でもよかったけれど。私は……あの人に、ここへ来たいと告げたんです。だって、あの人は……私の大切な……」
「……」
クウが、信じられないという顔で、息を呑む。
それは、僕も同じだった。
「不思議でしょう? そんなところまで、同じになってしまったんですよ。……あの人は、"カナエ"さんと同じに、私の大切な人に……なった。叶うはずもないけれど……それでも……」
そして、カナエさんは自らを紐解き始める。
「私は、大企業の娘として生まれて、物質的な面では不自由なく育ったと思います。それを羨む子ももちろん多くて、幼少期は友人関係で悩んだりもしていました。そういうとき、拠り所とするのは普通、家族なんでしょうけれど。私の家族は、残念なことに冷え切っていました。父と母は、私が物心ついたころにはもう、不仲になりはじめていたんです。後になってから知ったことですが、父は初恋の人の代わりとして母を愛したんですから、当然のことだったのかもしれません。
父は、仕事に全力を注ぐ人になっていました。私は、ぽっかりと空いた心の支えになってくれる人を、ずっと求めていた。そして……それが、赤井渡さん、でした。
従兄弟であるワタルさんは、よく私を遊びに連れて行ってくれました。それだけで、幼い私には泣きたくなるくらいの幸せだったんです。ワタルさんは、私の話も真剣に聞いてくれました。その度に、私にとって必要な言葉を返してくれました。そんな言葉とともに、少しずつ。私には、ワタルさんそのものが必要だと、思うようになっていきました。親子ほども年の離れた人だったけれど。自分のことはほとんど話さない人だったけれど。一度抱いた思いは、消えることはありませんでした。
鴇島計画は、実はその頃からもう、聞かされていました。だから、私の恋は叶わないことを、受け入れてはいました。……だから、私はせめて、彼の思いに添い遂げようと、思いました。そして、私は鴇島へ行くことにしたんです……宇治金枝として。
こうして私は今、ここでこうして、あの人のために、生きている……こんな、ところですかね」
宇治金枝でなく、佐渡朱鷺子としての人生を、長い長い、葛藤だらけの日々を、簡潔に語り終えた彼女は、弱々しい笑みを浮べた。
それは、僕らに向けられた笑みであるように思えた。
「……最初から、こうなることを知っていたんですか」
「それは、知りませんでした。言い訳に聞こえるかもしれませんけど。実際、あの人が父親と同じように、ガンに侵されてしまったから、計画は変わってしまったんです」
嘘はついていない。そのことは、ずっと一緒に過ごしてきた僕らにはよく分かった。
「そうじゃなければ、私は。……ずっと、ここで暮らしていけると思っていたんですから……」
そこで初めて、カナエさんの声が揺らいだ。
しゃくり上げるような、そんな声だった。
「……あなたは、半年ほど前から、日記と同じ生活を子どもたちが行うよう誘導し。それを……最後まで、続けるつもりだった」
「……その通りです。何も……否定はしません」
カナエさんは。
涙を浮かべながら、言った。
炎の中に、全てを消し去ろうとしていたという事実を。
そして、拳を握り締めながら、俯いた。
「……カナエさん。カナエさんは、……どんな気持ちで私たちといたの?」
沈黙が下りたとき、口を開いたのはクウだった。
クウは震える声で、けれど真っ直ぐにカナエさんを見つめながら、言う。
「カナエさん、私たちは、カナエさんと一緒にいた時間、すごく幸せでした。……カナエさんは! 私たちと一緒にいた時間、……幸せ、だったんですか……?」
「…………」
カナエさんが、沈黙の後、顔を上げる。
くしゃくしゃになった顔で、それでも彼女は、真っ直ぐな目で、
「……当たり前よ。だって、だって私は……心の支えを、ずっと求めていたんだもの。そして私はここで、ようやくあの人以外の、拠り所を見つけたんだもの……」
「カナエさん……」
「だからね? 私……最後の最後まで、悩んでた。過去をなぞっていく毎日の中で、もう全部終わりにしようかと、何度も考えた。だけど、あの人の願いを叶えたいという思いも、どうしても捨てきれなかった……」
カナエさんは、悲痛な表情になりながらも、僕らに告げる。
自らの胸の内を。辿ってきた道を。
「私は、……迷いを振り切るために、決めた。誰かを殺して、後戻りできなくすることを、自分を追い込んでしまうことを……決めた」
「……!」
それは、彼女がしたことだったのか。
そのことは、僕もクウもまるで想像していなかった。
「私は、その覚悟のためにタロウくんやジロウくんを狙ったし、……お父さんも閉じ込めた。その一線を越えれば……もう、迷わないと思ったから」
地の檻に閉じ込められていた老人。
つまりは、あの老人こそが佐渡一比十、彼女の父親だったのだ。
カナエさんは、自らの父親を、あの暗い牢獄に押し込み、殺そうとしたのだ……。
「そんな決意……どうしてしなくちゃいけなかったんですか。どうしてカナエさんは、もっと良い道を選びとろうとしなかったんですか! どうしてそんな……諦めたような選択を、し続けたんですか……」
クウの切実な問いに、カナエさんは、
「……どうしてかしらね。きっと、本当に私は諦めていたから。叶わないと分かり切っている恋を、それでも捨てられないことに、私は 諦めていたから。だから、私は何もかもを委ねられた。ううん、……委ねるしかなかった」
「そんなのって……」
悲しすぎるよ、カナエさん。
「……でも、ね」
カナエさんは、そこでまた、笑った。
今度は、優しい笑みだった。
「そう。あなたたちは……そんな諦めを、許してくれなかった。タロウくんたちは逃げ出し、あなたたちはお父さんを助け出した。今朝、地の檻を見に行ったとき、知ったわ。お父さんが助け出されたこと。あなたたちは、信じられないような現実に向き合って、……精一杯、戦ってた。あなたたちは、誰一人として、諦めることなんかしなかった……」
「……」
「そのせいで」
そこだけ強調して、カナエさんは言う。
「私も、諦めちゃいけなかったんだなって、思わされた。諦めるやつなんて、許さないんだなって、思わされた」
「カナエさん……」
「だから……私はせめてもの、罪滅ぼしをしようと……思ったんだ。今更かもしれないけれど、……諦めた道を、もう一度選んでみようと、思ったんだ……」
「……それって……」
「……助けたい」
小さいけれど、ハッキリとした声で、カナエさんは宣言した。
「私を支えてくれたこの村の人たちを、私は……助けたいの。助けなきゃ、いけないの……!」
それが、カナエさんが最後に選び取った、決意。
それは、決して遅すぎるわけではないと、僕は思う。
「……カナエさん、ありがとう。やっぱり、カナエさんは僕らの先生です。大切な、……僕らの中心です」
「……うん。私たちの、カナエさんだよ」
クウが、俯いたカナエさんの肩に、手を乗せる。
それを合図にしたように、カナエさんは膝をつき、声を殺して泣いた。
ただただ、泣き続けた……。
二〇一三年、六月九日。
僕らは、朝から黄地家に集まり、今日成すべき、いや、成し遂げなくてはならないことのために、話し合っていた。
そのために、今日に至るまでの、この事件の犯人の過去を辿っているのである。
「そう。あの日、赤井元気さんと佐渡一比十、そして宇治金枝さんの三人によって、鴇村は焼失することになった。まあ、この内カナエさんに関しては、全てを知りながら、誰にも何も言うことなく最期のときを待っていたという、受動的なものなのだけどね」
本物のカナエさんは、ただ好意を寄せていた人物の望みを叶えるためだけに、全てを受け入れ、そして沈黙していたのだろう。
それは、あまりに救いのない恋と、その結末だと思った。
「私は、あの日佐渡に崖から蹴り落とされ、死んでいてもおかしくはなかった。だが、奇跡的に生き残れたんだ。川の下流にある村の人に発見されてね」
運が良かった、とコウさんは言う。
「実は、その蹴り落とされた瞬間に、私は反射的にカメラのシャッターを切っていたんだが。そのとき撮れた写真が、彼にとってカードの一つになるとは、思いもしていなかった」
「そういえば、クウが、あの家に古いカメラがあるのを発見していたんですけど……それが、ヒカルさんのものなんでしょうね、きっと」
「コウ、でいいよ。私はもう、その名を名乗る意味がない」
「でも……あなたの名前です」
「いいんだよ。今はもう、君のものだ」
「……」
その目が真っ直ぐすぎて、僕はそれ以上言葉を紡ぐことができなかった。
「……それで、村が焼失してから、どうなったんでしょう。コウさんは、どこまで知ってるんですか?」
「うん。この二十数年で、ある程度のことは分かったよ」
そこでコウさんは、小さな黒革の手帳を取り出す。そこに、今まで調べた事柄が記されているのだろう。
「どうやら彼は、火事のあと、ツバサちゃんと共にふもとの村まで逃げてから、佐渡と落ち合ったようでね。佐渡と一緒に東京へ行き、そこで援助を受けながら、暮らしていたらしい」
「え? なんで? よりによって佐渡一比十と?」
「彼にとっての一番の目的は、ツバサちゃんを回復させることだった。もちろん復讐したいという気持ちもあっただろうけどね。だから、あくまでも打算的に、彼は佐渡の庇護を受けることにしたんだよ。自分が真相を知っているという素振りも見せずに……証拠となる画像を持っていることも知らせずに」
「それだけの……執念を持っていた」
「ああ。いつかの、約束のためにね」
「…………」
彼にとって、ツバサさんは。それほどまでに大切な、存在だったのだ。
その大切な存在のために、彼は全てを懸けて、生きてきたのだ。
自分の命だけでなく、他の様々なものをも巻き込んで。
「成人した彼は、ツバサちゃんと結婚した。彼女に記憶は戻らなかったけれども、日常生活はできるくらいだったようだ。脳の障害か、ボンヤリとしたままでいることも多かったらしいけれど。必ず元に戻す。その思いを胸に、彼は彼女と結ばれた。歪な関係だとは思うけど、私にはなんとも言えない。言えるわけがないよ」
コウさんはそこで、一つ重い溜息を吐いた。
「そして、佐渡のコネを使い、佐渡コンツェルンに入社。ひたすら努力したようで、着々と昇進していったようだ。それから十年ほどして、彼はいよいよ、かねてよりの計画を進めることにした……鴇村再現計画をね」
「……考えつくことが、なんというか。常識外れというか、ううん……」
「よく言えば破天荒、まあ、悪く言えば……狂ってる、ね。でも……そのときもう、彼の心はきっと、半ば狂っていたんだよ。壊れた彼女の隣で、絶望を感じているうち。彼も、壊れていってしまっていたんだ」
「想像もつかない、心理状態だなあ……」
クウが、遠い目をして言う。僕にだって、その心は想像もつかない。
「ともあれ、計画は実行に移された。彼は社長になっていた佐渡を脅迫し、会社の資金を使って小さな無人島を購入した。小さいとは言え、島一つを買うといえばかなりの投資になるわけだが、そこは会社のCSR活動、ということにしたようだ。野生の鳥、特にトキを保護するための島、ということでね」
「……強引な」
「彼にとって、目的はツバサちゃんの回復だったのだから、他はどうでもよかったんだ。多少、いや、どんなに強引でも、目的が果たせればそれで良かったのに違いない」
彼は、どこまでも真っ直ぐだったわけだ。
ずっとずっと、ただ一つの目的のために、突き進んできたわけだ。
「そうして出来上がったこの鴇島で。出来上がった舞台の上で。……彼に発症した、父親と同じ病をきっかけに、また、村は焼かれようとしている」
「……」
僕とクウは、ぐっと口を真一文字に結んで、頷く。
「その、繰り返されようとしている悲劇を、僕らは今日、止めないといけない。それは、辛い戦いに間違いないだろうけど、全てが手遅れになる前に、止めなくてはいけないんだ」
「……はい」
……さあ。
それじゃあ、始めさせてもらうよ。
二度目の悲劇に抗うための、戦いを。
……"ワタルさん"。
*
外へ出るなり、コウさんは止まり木に設置されている燭台に手を置き、
「……この燭台を調べたんだけど、何も仕込まれてはいないらしい。父親と同じ手法、というわけではないようだ。……八十五年の火事は、ゲンキさんが仕掛けた焼夷弾のようなものでね。まあ、この燭台と連動していた、という感じなんだ」
そう説明してくれた。モロトフ、という単語が、当時のゲンキさんが書いたメモにはあったらしく、恐らくはモロトフ・カクテルと呼ばれた火炎瓶を参考に作成されたものだろう、とコウさんは仮説を立てているそうだ。
「……なるほど」
「……でも、それならむしろ、何か見つかったほうがよかったんじゃ?」
クウが恐る恐る訊ねると、コウさんは頷き、
「そうだね。ここに仕掛けられているとハッキリ分かっていれば、何とかできた。……そうでないなら、難しい」
コウさんは、顎の辺りに手を当てて、しばらく悩み、
「……火事の原因は断てないと考えるしかないんだ。だから……タイムリミットは、今日の夕方。そう、鴇祭が始まる時間までだ」
「それまでに……ワタルさんを止める」
「ああ」
僕の言葉に、コウさんは強く頷く。
「……それじゃあ、行こうか。まずは、彼女のところへ」
そう言って、コウさんは先頭をきって歩き始めた。
あの人――僕らがずっと慕ってきた、彼女の元へ。
*
彼女は、いつだって僕らを見守ってくれていた。
いつだって、優しく接してくれていた。
大切なことを、教えてくれていた。
僕らはそんな彼女を慕い、ずっと付き従ってきた。
多くのことを、学んできた。
……ねえ、たとえその理由が、偽りのものだったとしても。
あなたと歩んできた時間は、決してハリボテのようなものではなかったでしょう?
少なくとも、僕らはそう思っているよ。
あなたは、どうなんだろう。
――カナエさん。
「……今日も元気ね、二人とも。……先生、嬉しいわ」
カナエさんは、僕らを家の中へ招くと、座布団を用意しながら、そんなことを言った。
何気ないようにと努めているその声色が辛くて、僕らは言葉を返せなかった。
「……突然、すいませんね。今日しか、残されていないものですから」
「……」
コウさんの正体を、訊ねることもしない。彼女にはきちんと、状況が把握できているようだった。
「あなたの本名は、佐渡朱鷺子……ですね?」
「…………はい。そうです」
長い沈黙のあと、カナエさんは確かに、肯定した。
自身が"宇治金枝"を演じていたということを。
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僕らにとっては痛ましく映る、笑顔で。
「この鴇島には、当時の村人たちに酷似した人たちが集められているのは調べています。その殆どが、身寄りのない人や、生活苦の人、犯罪者だったことも」
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「……偶然、とは言いません。父は、"カナエ"さんに恋し、その身代わりとして母を愛したんですから。私が"カナエ"さんに似ていることは、運命のようなものだったんです」
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「……いいえ、私の言う運命なんて、小さなもの。あの人が囚われた運命の歯車になる、小さな一欠けらみたいなものなんでしょうね」
ワタルさんのことを言っているのだろう、カナエさんは彼の家がある方に視線をやりながら、そう言った。
コウさんは追及を続ける。
「ツバサちゃんの記憶を取り戻すために重要なのは、子供たちを過去と重ねることだと考えた。自分たちはあんな風に毎日を過ごしていたんだよと、懐かしい光景を見せることで、ワタルは記憶を揺り起こそうとした。そしてそのためには、子どもたちを過去と同じように動かす"指導者"が必要だった……」
「……立候補したんです」
カナエさんは、真っ直ぐにコウさんを見つめながら、言った。自らの意思だったのだと、示すように。
「本当は、私である必要はなかった。従ってくれさえすれば、"カナエ"さんに似た誰でもよかったけれど。私は……あの人に、ここへ来たいと告げたんです。だって、あの人は……私の大切な……」
「……」
クウが、信じられないという顔で、息を呑む。
それは、僕も同じだった。
「不思議でしょう? そんなところまで、同じになってしまったんですよ。……あの人は、"カナエ"さんと同じに、私の大切な人に……なった。叶うはずもないけれど……それでも……」
そして、カナエさんは自らを紐解き始める。
「私は、大企業の娘として生まれて、物質的な面では不自由なく育ったと思います。それを羨む子ももちろん多くて、幼少期は友人関係で悩んだりもしていました。そういうとき、拠り所とするのは普通、家族なんでしょうけれど。私の家族は、残念なことに冷え切っていました。父と母は、私が物心ついたころにはもう、不仲になりはじめていたんです。後になってから知ったことですが、父は初恋の人の代わりとして母を愛したんですから、当然のことだったのかもしれません。
父は、仕事に全力を注ぐ人になっていました。私は、ぽっかりと空いた心の支えになってくれる人を、ずっと求めていた。そして……それが、赤井渡さん、でした。
従兄弟であるワタルさんは、よく私を遊びに連れて行ってくれました。それだけで、幼い私には泣きたくなるくらいの幸せだったんです。ワタルさんは、私の話も真剣に聞いてくれました。その度に、私にとって必要な言葉を返してくれました。そんな言葉とともに、少しずつ。私には、ワタルさんそのものが必要だと、思うようになっていきました。親子ほども年の離れた人だったけれど。自分のことはほとんど話さない人だったけれど。一度抱いた思いは、消えることはありませんでした。
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こうして私は今、ここでこうして、あの人のために、生きている……こんな、ところですかね」
宇治金枝でなく、佐渡朱鷺子としての人生を、長い長い、葛藤だらけの日々を、簡潔に語り終えた彼女は、弱々しい笑みを浮べた。
それは、僕らに向けられた笑みであるように思えた。
「……最初から、こうなることを知っていたんですか」
「それは、知りませんでした。言い訳に聞こえるかもしれませんけど。実際、あの人が父親と同じように、ガンに侵されてしまったから、計画は変わってしまったんです」
嘘はついていない。そのことは、ずっと一緒に過ごしてきた僕らにはよく分かった。
「そうじゃなければ、私は。……ずっと、ここで暮らしていけると思っていたんですから……」
そこで初めて、カナエさんの声が揺らいだ。
しゃくり上げるような、そんな声だった。
「……あなたは、半年ほど前から、日記と同じ生活を子どもたちが行うよう誘導し。それを……最後まで、続けるつもりだった」
「……その通りです。何も……否定はしません」
カナエさんは。
涙を浮かべながら、言った。
炎の中に、全てを消し去ろうとしていたという事実を。
そして、拳を握り締めながら、俯いた。
「……カナエさん。カナエさんは、……どんな気持ちで私たちといたの?」
沈黙が下りたとき、口を開いたのはクウだった。
クウは震える声で、けれど真っ直ぐにカナエさんを見つめながら、言う。
「カナエさん、私たちは、カナエさんと一緒にいた時間、すごく幸せでした。……カナエさんは! 私たちと一緒にいた時間、……幸せ、だったんですか……?」
「…………」
カナエさんが、沈黙の後、顔を上げる。
くしゃくしゃになった顔で、それでも彼女は、真っ直ぐな目で、
「……当たり前よ。だって、だって私は……心の支えを、ずっと求めていたんだもの。そして私はここで、ようやくあの人以外の、拠り所を見つけたんだもの……」
「カナエさん……」
「だからね? 私……最後の最後まで、悩んでた。過去をなぞっていく毎日の中で、もう全部終わりにしようかと、何度も考えた。だけど、あの人の願いを叶えたいという思いも、どうしても捨てきれなかった……」
カナエさんは、悲痛な表情になりながらも、僕らに告げる。
自らの胸の内を。辿ってきた道を。
「私は、……迷いを振り切るために、決めた。誰かを殺して、後戻りできなくすることを、自分を追い込んでしまうことを……決めた」
「……!」
それは、彼女がしたことだったのか。
そのことは、僕もクウもまるで想像していなかった。
「私は、その覚悟のためにタロウくんやジロウくんを狙ったし、……お父さんも閉じ込めた。その一線を越えれば……もう、迷わないと思ったから」
地の檻に閉じ込められていた老人。
つまりは、あの老人こそが佐渡一比十、彼女の父親だったのだ。
カナエさんは、自らの父親を、あの暗い牢獄に押し込み、殺そうとしたのだ……。
「そんな決意……どうしてしなくちゃいけなかったんですか。どうしてカナエさんは、もっと良い道を選びとろうとしなかったんですか! どうしてそんな……諦めたような選択を、し続けたんですか……」
クウの切実な問いに、カナエさんは、
「……どうしてかしらね。きっと、本当に私は諦めていたから。叶わないと分かり切っている恋を、それでも捨てられないことに、私は 諦めていたから。だから、私は何もかもを委ねられた。ううん、……委ねるしかなかった」
「そんなのって……」
悲しすぎるよ、カナエさん。
「……でも、ね」
カナエさんは、そこでまた、笑った。
今度は、優しい笑みだった。
「そう。あなたたちは……そんな諦めを、許してくれなかった。タロウくんたちは逃げ出し、あなたたちはお父さんを助け出した。今朝、地の檻を見に行ったとき、知ったわ。お父さんが助け出されたこと。あなたたちは、信じられないような現実に向き合って、……精一杯、戦ってた。あなたたちは、誰一人として、諦めることなんかしなかった……」
「……」
「そのせいで」
そこだけ強調して、カナエさんは言う。
「私も、諦めちゃいけなかったんだなって、思わされた。諦めるやつなんて、許さないんだなって、思わされた」
「カナエさん……」
「だから……私はせめてもの、罪滅ぼしをしようと……思ったんだ。今更かもしれないけれど、……諦めた道を、もう一度選んでみようと、思ったんだ……」
「……それって……」
「……助けたい」
小さいけれど、ハッキリとした声で、カナエさんは宣言した。
「私を支えてくれたこの村の人たちを、私は……助けたいの。助けなきゃ、いけないの……!」
それが、カナエさんが最後に選び取った、決意。
それは、決して遅すぎるわけではないと、僕は思う。
「……カナエさん、ありがとう。やっぱり、カナエさんは僕らの先生です。大切な、……僕らの中心です」
「……うん。私たちの、カナエさんだよ」
クウが、俯いたカナエさんの肩に、手を乗せる。
それを合図にしたように、カナエさんは膝をつき、声を殺して泣いた。
ただただ、泣き続けた……。
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歴史の裏で暗躍する組織が、再び降霊術の物語を呼び覚ます。
魂魄の操作。悍ましき禁忌の実験は、崇高な目的の下に数多の犠牲を生み出し。
決して止まることなく、次なる生贄を求め続ける。
さあ、再び【魂魄】の物語を始めましょう。
たった一つの、望まれた終焉に向けて。
来場者の皆様、長らくお待たせいたしました。
これより幻影三部作、開幕いたします――。
【幻影綺館】
「ねえ、”まぼろしさん”って知ってる?」
鈴音町の外れに佇む、黒影館。そこに幽霊が出るという噂を聞きつけた鈴音学園ミステリ研究部の部長、安藤蘭は、メンバーを募り探検に向かおうと企画する。
その企画に巻き込まれる形で、彼女を含め七人が館に集まった。
疑いつつも、心のどこかで”まぼろしさん”の存在を願うメンバーに、悲劇は降りかからんとしていた――。
【幻影鏡界】
「――一角荘へ行ってみますか?」
黒影館で起きた凄惨な事件は、桜井令士や生き残った者たちに、大きな傷を残した。そしてレイジには、大切な目的も生まれた。
そんな事件より数週間後、束の間の平穏が終わりを告げる。鈴音学園の廊下にある掲示板に貼り出されていたポスター。
それは、かつてGHOSTによって悲劇がもたらされた因縁の地、鏡ヶ原への招待状だった。
【幻影回忌】
「私は、今度こそ創造主になってみせよう」
黒影館と鏡ヶ原、二つの場所で繰り広げられた凄惨な事件。
その黒幕である****は、恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。
ゴーレム計画と名付けられたそれは、世界のルールをも蹂躙するものに相違なかった。
事件の生き残りである桜井令士と蒼木時雨は、***の父親に連れられ、***の過去を知らされる。
そして、悲劇の連鎖を断つために、最後の戦いに挑む決意を固めるのだった。
この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか――
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。
鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。
古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。
オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。
ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。
ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。
ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。
逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—
至堂文斗
ホラー
――その幻想から、逃れられるか。
降霊術。それは死者を呼び出す禁忌の術式。
歴史を遡れば幾つも逸話はあれど、現実に死者を呼ぶことが出来たかは定かでない。
だがあるとき、長い実験の果てに、一人の男がその術式を生み出した。
降霊術は決して公に出ることはなかったものの、書物として世に残り続けた。
伍横町。そこは古くから気の流れが集まる場所と言われている小さな町。
そして、全ての始まりの町。
男が生み出した術式は、この町で幾つもの悲劇をもたらしていく。
運命を狂わされた者たちは、生と死の狭間で幾つもの涙を零す。
これは、四つの悲劇。
【魂】を巡る物語の始まりを飾る、四つの幻想曲――。
【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
「――霧夏邸って知ってる?」
事故により最愛の娘を喪い、 降霊術に狂った男が住んでいた邸宅。
霊に会ってみたいと、邸内に忍び込んだ少年少女たちを待ち受けるものとは。
【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
「どうか、目を覚ましてはくれないだろうか」
眠りについたままの少女のために、 少年はただ祈り続ける。
その呼び声に呼応するかのように、 少女は記憶の世界に覚醒する。
【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
「……だから、違っていたんだ。沢山のことが」
七不思議の噂で有名な流刻園。夕暮れ時、教室には二人の少年少女がいた。
少年は、一通の便箋で呼び出され、少女と別れて屋上へと向かう。それが、悲劇の始まりであるとも知らずに。
【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
「……ようやく、時が来た」
伍横町で降霊術の実験を繰り返してきた仮面の男。 最愛の女性のため、彼は最後の計画を始動する。
その計画を食い止めるべく、悲劇に巻き込まれた少年少女たちは苛酷な戦いに挑む。
伍横町の命運は、子どもたちの手に委ねられた。
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
――鬼の伝承に準えた、血も凍る連続殺人事件の謎を追え。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
巨大な医療センターの設立を機に人口は増加していき、世間からの注目も集まり始めていた。
更なる発展を目指し、電波塔建設の計画が進められていくが、一部の地元住民からは反対の声も上がる。
曰く、満生台には古くより三匹の鬼が住み、悪事を働いた者は祟られるという。
医療センターの闇、三鬼村の伝承、赤い眼の少女。
月面反射通信、電磁波問題、ゼロ磁場。
ストロベリームーン、バイオタイド理論、ルナティック……。
ささやかな箱庭は、少しずつ、けれど確実に壊れていく。
伝承にある満月の日は、もうすぐそこまで迫っていた――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
幾度繰り返そうとも、匣庭は――。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。
舞台は繰り返す。
三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。
変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。
科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。
人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。
信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。
鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。
手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
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