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「さ、まずはお姉ちゃんが好きなだけプリン食べていいよ。後の残ったものをわたしがゆっくり食べるから」
「ちょっと待ちなさいよ。あんたも小さくなるんじゃないの……?」
「なんでわたしが小さくなる必要があるの?」
無邪気に妹が小首を傾げた。
「なんでって、プリンをいっぱい食べるために……」
「お姉ちゃんが小さくなって満足いくまでプリンを食べても減る量なんてわたしの一口分にも満たないんだから、わたしはほとんどプリンを丸々一個食べられるわけだし、十分いっぱい食べられるよ。わたしの分のプリンのことまで心配してくれてありがとね、お姉ちゃん」
別にわたしはそんなことを心配しているわけではない。どうして妹だけ元のままで、自分だけこんな小さな、うっかり指先で潰されかねないようなサイズにされてしまったのかということに対して不満を言っているのだ。
「あんただけ元の大きさでズルいのよ! あんたもちゃんと小さくなりなさいよ!」
そうやって大きな声を出すと、妹がくすくすと笑った。
「小さくなってあげるから、わたしにスプレーを吹きかけてよ」
そう言われても、今のわたしには自力でスプレーを吹きかけることはできなかった。全体重をかけて押さえても、スプレーは噴射されないだろうし、そもそも噴射するためのボタンまでよじ登ることができない。というよりまず、妹の助けがないと、このプリンの入ったプラスチック容器から出られそうにない。
「自分で吹きかけなさいよ!」
「えー、やだよ。なんで自分からそんな小さな女の子の指先にも勝てなくなっちゃうような身体にならないといけないのさ」
そう言って指先でわたしのことを軽くと触ると、妹の指先の力が加わったプリンの床が少し沈んだ。わたしは上半身だけプリンから出ているような形になってしまう。
「あんたね! 人のこと勝手に小さくしたのに、自分勝手過ぎるわよ! そういう自分勝手なことばっかりするから、友達少ないんじゃない――」
「もう! うるさいなぁっ!」
まだわたしが喋っている途中なのに、妹はわたしの体を上から押さえつけて、完全にプリンの中に沈めてしまった。プリンの地面はわたしが全体重をかけても形を崩さなかったのに、妹の指先の力を加えたら簡単に崩れてしまった。
「ちょっと、何するのよ! 早く出しなさいよ!」
なんとか上に出ようとするけれど、柔らかいプリンの地面は底なし沼みたいで、もがいても上に出られず身動きが取れなくなってしまった。
「今のお姉ちゃんはわたしがいないと何もできないんだから、むやみにわたしのこと怒らせない方が良いと思うよ?」
少し怒ったようにそういうと、妹はドスンドスンと大きな足音を立てながら、どこかに言ってしまった。
「ちょっと! わたしのこと置いていかないでよ!」
周囲をプリンに囲まれて何も周りが見えないような状況で、一人にさせられてしまって心細い。辛うじて上を向いたら遥か高くに部屋の天井らしきものがぼんやりと見えるだけだった。
「もう、どういうつもりよ……」
ため息をついていると、またドスンドスンと足音が聞こえてきた。
「わたし、友達少ないこと気にしているのにそれを言うなんて酷いよ! お姉ちゃんごと食べちゃうから!」
「え、ちょっと、どう言うこと?!」
妹の宣言に続いて、スプーンがプリンをわたしごと掬う。
「ちょっと、やめなさいよ!」
このままだと妹の口内に入れられてしまう。わたしは慌ててスプーンが高い場所に持ち上げられてしまう前にプリンの上に飛び降りた。
「どうせ逃げたって最終的にわたしに掬われちゃうよ? お姉ちゃんが逃げられる範囲はわたしの手のひらよりも狭い場所なんだから」
妹の言うとおりである。この鬼ごっこは圧倒的にわたしが不利なのだ。しばらくの間は掬われるたびに柔らかいプリンの上に着地をすればいいけれど、最終的に妹が全部プリンを食べてしまえば硬いプラスチックの上に飛び降りることはできない。
「まあいいや、お姉ちゃんはとっておきのデザートだから食べるのは後にしてあげる」
そう言って、妹はわたしを掬うことをやめて、ムッとした表情のまま、黙々とプリンを食べ進めていった。その間にもどんどんプリンの形は変わっていき、足場が崩れて行くたびに、わたしはコロコロと下に向かって転がっていった。
とにかくプリンがなくなるまでに逃げる術を見つけなければならないのに、考えている間にもどんどんプリンは妹の大きな口の中に運ばれていき、プラスチックの壁は高くなっていく。とりあえず妹がわたしの足場を低くしていくから、それを防ぐために、ツルツルと滑る壁をよじ登ろうと試みる。
「えいっ!」
思い切ってジャンプして壁に捕まろうとしたけれど、綺麗なプラスチックの壁に足場はない。ただ無意味に壁をズルズルと滑り落ちていくだけであった。そんなわたしの姿をみて、妹がアハハ、と大きな声で笑った。
「お姉ちゃん可愛いー、頑張れー」
そう言いながら、プラスチックの壁から滑り落ちるわたしの落下点にスプーンを置いた。
「ほらほらー、頑張ってよじ登らないと、落ちたらわたしのスプーンの上だよぉ。お姉ちゃんの体よりずっと大きな口で食べちゃうよぉ」
ふざけるな! と大きな声を出す余裕もない。
妹の楽しそうな視線に晒される中、ツルツル滑るプラスチックの壁を登ろうとしたけれど、当然すぐに落ちてしまう。結局、妹の置いていたスプーンの上にポトリと落ちてしまった。妹の小指の先ほどしかないわたしにとってはスプーンはエレベーターみたいに大きかった。
「ふふっ、お姉ちゃん捕まえたー」
そのままものすごい勢いでスプーンを上昇させたので、振り落とされないようにバランスを取ることに必死で、とてもプリンの上にジャンプする余裕なんてなく、あっさりと顔の前まで持ち上げられてしまった。
妹はわたしのことを大きな瞳の前に持ってくる。
「お姉ちゃんは一体どんな味がするんだろうなぁ。プリンより美味しかったらいいなぁ」
そう言って妹は巨大生物みたいな舌で唇をペロリと舐めた。
「ねえ、冗談でしょ……。姉のことを食べるなんてふざけてるにも程があるわ!」
「お姉ちゃんがいけないんだよ。わたし、友達少ないの気にしてるんだから……」
「謝るわよ! さっきのは謝るわ。悪かったから許してよ……」
「ダメだよ。わたしを怒らせたらどうなるか、身をもって体感してもらうんだから!」
そう言い切ると、妹はわたしを乗せたスプーンを一気に口の中に運んだ。
「ちょっと待ちなさいよ。あんたも小さくなるんじゃないの……?」
「なんでわたしが小さくなる必要があるの?」
無邪気に妹が小首を傾げた。
「なんでって、プリンをいっぱい食べるために……」
「お姉ちゃんが小さくなって満足いくまでプリンを食べても減る量なんてわたしの一口分にも満たないんだから、わたしはほとんどプリンを丸々一個食べられるわけだし、十分いっぱい食べられるよ。わたしの分のプリンのことまで心配してくれてありがとね、お姉ちゃん」
別にわたしはそんなことを心配しているわけではない。どうして妹だけ元のままで、自分だけこんな小さな、うっかり指先で潰されかねないようなサイズにされてしまったのかということに対して不満を言っているのだ。
「あんただけ元の大きさでズルいのよ! あんたもちゃんと小さくなりなさいよ!」
そうやって大きな声を出すと、妹がくすくすと笑った。
「小さくなってあげるから、わたしにスプレーを吹きかけてよ」
そう言われても、今のわたしには自力でスプレーを吹きかけることはできなかった。全体重をかけて押さえても、スプレーは噴射されないだろうし、そもそも噴射するためのボタンまでよじ登ることができない。というよりまず、妹の助けがないと、このプリンの入ったプラスチック容器から出られそうにない。
「自分で吹きかけなさいよ!」
「えー、やだよ。なんで自分からそんな小さな女の子の指先にも勝てなくなっちゃうような身体にならないといけないのさ」
そう言って指先でわたしのことを軽くと触ると、妹の指先の力が加わったプリンの床が少し沈んだ。わたしは上半身だけプリンから出ているような形になってしまう。
「あんたね! 人のこと勝手に小さくしたのに、自分勝手過ぎるわよ! そういう自分勝手なことばっかりするから、友達少ないんじゃない――」
「もう! うるさいなぁっ!」
まだわたしが喋っている途中なのに、妹はわたしの体を上から押さえつけて、完全にプリンの中に沈めてしまった。プリンの地面はわたしが全体重をかけても形を崩さなかったのに、妹の指先の力を加えたら簡単に崩れてしまった。
「ちょっと、何するのよ! 早く出しなさいよ!」
なんとか上に出ようとするけれど、柔らかいプリンの地面は底なし沼みたいで、もがいても上に出られず身動きが取れなくなってしまった。
「今のお姉ちゃんはわたしがいないと何もできないんだから、むやみにわたしのこと怒らせない方が良いと思うよ?」
少し怒ったようにそういうと、妹はドスンドスンと大きな足音を立てながら、どこかに言ってしまった。
「ちょっと! わたしのこと置いていかないでよ!」
周囲をプリンに囲まれて何も周りが見えないような状況で、一人にさせられてしまって心細い。辛うじて上を向いたら遥か高くに部屋の天井らしきものがぼんやりと見えるだけだった。
「もう、どういうつもりよ……」
ため息をついていると、またドスンドスンと足音が聞こえてきた。
「わたし、友達少ないこと気にしているのにそれを言うなんて酷いよ! お姉ちゃんごと食べちゃうから!」
「え、ちょっと、どう言うこと?!」
妹の宣言に続いて、スプーンがプリンをわたしごと掬う。
「ちょっと、やめなさいよ!」
このままだと妹の口内に入れられてしまう。わたしは慌ててスプーンが高い場所に持ち上げられてしまう前にプリンの上に飛び降りた。
「どうせ逃げたって最終的にわたしに掬われちゃうよ? お姉ちゃんが逃げられる範囲はわたしの手のひらよりも狭い場所なんだから」
妹の言うとおりである。この鬼ごっこは圧倒的にわたしが不利なのだ。しばらくの間は掬われるたびに柔らかいプリンの上に着地をすればいいけれど、最終的に妹が全部プリンを食べてしまえば硬いプラスチックの上に飛び降りることはできない。
「まあいいや、お姉ちゃんはとっておきのデザートだから食べるのは後にしてあげる」
そう言って、妹はわたしを掬うことをやめて、ムッとした表情のまま、黙々とプリンを食べ進めていった。その間にもどんどんプリンの形は変わっていき、足場が崩れて行くたびに、わたしはコロコロと下に向かって転がっていった。
とにかくプリンがなくなるまでに逃げる術を見つけなければならないのに、考えている間にもどんどんプリンは妹の大きな口の中に運ばれていき、プラスチックの壁は高くなっていく。とりあえず妹がわたしの足場を低くしていくから、それを防ぐために、ツルツルと滑る壁をよじ登ろうと試みる。
「えいっ!」
思い切ってジャンプして壁に捕まろうとしたけれど、綺麗なプラスチックの壁に足場はない。ただ無意味に壁をズルズルと滑り落ちていくだけであった。そんなわたしの姿をみて、妹がアハハ、と大きな声で笑った。
「お姉ちゃん可愛いー、頑張れー」
そう言いながら、プラスチックの壁から滑り落ちるわたしの落下点にスプーンを置いた。
「ほらほらー、頑張ってよじ登らないと、落ちたらわたしのスプーンの上だよぉ。お姉ちゃんの体よりずっと大きな口で食べちゃうよぉ」
ふざけるな! と大きな声を出す余裕もない。
妹の楽しそうな視線に晒される中、ツルツル滑るプラスチックの壁を登ろうとしたけれど、当然すぐに落ちてしまう。結局、妹の置いていたスプーンの上にポトリと落ちてしまった。妹の小指の先ほどしかないわたしにとってはスプーンはエレベーターみたいに大きかった。
「ふふっ、お姉ちゃん捕まえたー」
そのままものすごい勢いでスプーンを上昇させたので、振り落とされないようにバランスを取ることに必死で、とてもプリンの上にジャンプする余裕なんてなく、あっさりと顔の前まで持ち上げられてしまった。
妹はわたしのことを大きな瞳の前に持ってくる。
「お姉ちゃんは一体どんな味がするんだろうなぁ。プリンより美味しかったらいいなぁ」
そう言って妹は巨大生物みたいな舌で唇をペロリと舐めた。
「ねえ、冗談でしょ……。姉のことを食べるなんてふざけてるにも程があるわ!」
「お姉ちゃんがいけないんだよ。わたし、友達少ないの気にしてるんだから……」
「謝るわよ! さっきのは謝るわ。悪かったから許してよ……」
「ダメだよ。わたしを怒らせたらどうなるか、身をもって体感してもらうんだから!」
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