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Ⅱ 専属メイド
ギスギス 2
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「あ、そうだ。わたしちょっと行かないといけないところがあったんだ!」
わたしが立ち上がると、リオナが首を傾げた。
「慌ただしいな。どうしたんだよ?」
「ソフィアのとこ! 専属メイドってどうやってなったら良いんだろうって思って」
わたしの言葉を聞いて、リオナが困惑したような声を出す。
「専属メイドって……、お前、自分の大きさ覚えてんのか? あたしらはアリシアの膝くらいの高さしかないような家に住んでんだぞ? 一体何をお世話するつもりだよ?」
「それは……」
わたしが戸惑っていると、ノックの音が鳴る。
入るわよ、といって入ってきたのはベイリーだった。反射的にわたしは少し身を強張らせてしまう。
「騒がしいけれど、何かあったのかしら?」
アリシアお嬢様の専属メイドになるということは、この屋敷の外のことを詳しく知ることに繋がってしまう。それはきっとベイリーに怒られてしまいかねないこと。だから、どうやって誤魔化そうかと思っていたのに、リオナが呑気に話し出す。
「なあ、ベイリー。カロリーナがアリシアの専属メイドになりたいって言い出すんだよ」
ほんの一瞬、ベイリーの眉間がピクッと動いたことをわたしは見逃さなかった。リオナのせいで怒られそうだ。わたしは慌ててリオナの後ろに回って身を隠しながら、背伸びをしてリオナの口を手のひらで塞いだ。
「おい、何すんだよ」
口止めをしようと思ったのに、わたしの力ではリオナには勝てず、すぐに手を退けられてしまった。わたしがリオナを盾にして、ベイリーの出方を伺っていると、ベイリーが頬に手を当てながら、呆れたようにため息をついた。
「カロリーナちゃんは、一体アリシアお嬢様のことをどうやって面倒見るつもりなのかしら?」
「それは……」
「たとえば、アリシアお嬢様の周りに悪意を持って接触しようとする人物が現れたとして、カロリーナちゃんはどうやって守ってあげられるの?」
ベイリーが冷たい声で質問をしながら、一歩ずつわたしの方に近づいてくる。
「カロリーナちゃんは嫌いかもしれないけれど、エミリアちゃんなんかはとても身軽だし、気配を消すのも上手いから、護衛に向いているわね。今は専属メイドのいないアリシアお嬢様のために用心棒のようなことをしているけれど、あなたが専属メイドになるのなら、もうレジーナお嬢様が用心棒を外してしまうかもしれないわね。そうなったら、カロリーナちゃんが守れるのかしら? 夢に出てきたわたしにもかなり怯えてしまったみたいだけれど、そんなことで、本物の暴漢が現れたりして、無事に守れるのかしら?」
気付けばわたしの目の前に来ていたベイリーを見上げていた。彼女はリオナの次に背が高いから、近づかれると見上げてしまう。あの夢の中で巨人となっていた時とは違って、わたしと同じ手のひらサイズのはずなのに、威圧感があって、なんだか怖かった。
「そ、それでも……。わたしはアリシアお嬢様の助けになってあげたいんです……」
ふうん、とベイリーがわたしのことを値踏みするみたいにジッと見下ろしている。
「あなたはまだ屋敷に来て早々だけれど、何か企んでいるのかしら?」
ベイリーが見開いた瞳をわたしの顔に近づけてくる。
「お、おい、ベイリー。何か今日のベイリー怖えんだけど……。そこまで怖がらせなくても良いんじゃねえか? あたしは冗談で言っただけなんだから……」
リオナが恐る恐る止めに入る。キャンディとメロディも不安そうにこちらを見ていた。
「わたしは、先輩メイドとして後輩メイドのカロリーナちゃんの認識を誤らせないように修正する義務があるの。だから、これが仕事」
ベイリーがまた静かに暗いトーンで伝えた瞬間に、開け放されていたドアの外から声がした。
「ふんっ、何が仕事ですか。あなたの腹黒さにカロリーナさんを巻き込まないであげてください」
開けっ放しになっていた部屋の入り口の辺りで、苛立った様子のソフィアが腕組みをして立っていた。
わたしが立ち上がると、リオナが首を傾げた。
「慌ただしいな。どうしたんだよ?」
「ソフィアのとこ! 専属メイドってどうやってなったら良いんだろうって思って」
わたしの言葉を聞いて、リオナが困惑したような声を出す。
「専属メイドって……、お前、自分の大きさ覚えてんのか? あたしらはアリシアの膝くらいの高さしかないような家に住んでんだぞ? 一体何をお世話するつもりだよ?」
「それは……」
わたしが戸惑っていると、ノックの音が鳴る。
入るわよ、といって入ってきたのはベイリーだった。反射的にわたしは少し身を強張らせてしまう。
「騒がしいけれど、何かあったのかしら?」
アリシアお嬢様の専属メイドになるということは、この屋敷の外のことを詳しく知ることに繋がってしまう。それはきっとベイリーに怒られてしまいかねないこと。だから、どうやって誤魔化そうかと思っていたのに、リオナが呑気に話し出す。
「なあ、ベイリー。カロリーナがアリシアの専属メイドになりたいって言い出すんだよ」
ほんの一瞬、ベイリーの眉間がピクッと動いたことをわたしは見逃さなかった。リオナのせいで怒られそうだ。わたしは慌ててリオナの後ろに回って身を隠しながら、背伸びをしてリオナの口を手のひらで塞いだ。
「おい、何すんだよ」
口止めをしようと思ったのに、わたしの力ではリオナには勝てず、すぐに手を退けられてしまった。わたしがリオナを盾にして、ベイリーの出方を伺っていると、ベイリーが頬に手を当てながら、呆れたようにため息をついた。
「カロリーナちゃんは、一体アリシアお嬢様のことをどうやって面倒見るつもりなのかしら?」
「それは……」
「たとえば、アリシアお嬢様の周りに悪意を持って接触しようとする人物が現れたとして、カロリーナちゃんはどうやって守ってあげられるの?」
ベイリーが冷たい声で質問をしながら、一歩ずつわたしの方に近づいてくる。
「カロリーナちゃんは嫌いかもしれないけれど、エミリアちゃんなんかはとても身軽だし、気配を消すのも上手いから、護衛に向いているわね。今は専属メイドのいないアリシアお嬢様のために用心棒のようなことをしているけれど、あなたが専属メイドになるのなら、もうレジーナお嬢様が用心棒を外してしまうかもしれないわね。そうなったら、カロリーナちゃんが守れるのかしら? 夢に出てきたわたしにもかなり怯えてしまったみたいだけれど、そんなことで、本物の暴漢が現れたりして、無事に守れるのかしら?」
気付けばわたしの目の前に来ていたベイリーを見上げていた。彼女はリオナの次に背が高いから、近づかれると見上げてしまう。あの夢の中で巨人となっていた時とは違って、わたしと同じ手のひらサイズのはずなのに、威圧感があって、なんだか怖かった。
「そ、それでも……。わたしはアリシアお嬢様の助けになってあげたいんです……」
ふうん、とベイリーがわたしのことを値踏みするみたいにジッと見下ろしている。
「あなたはまだ屋敷に来て早々だけれど、何か企んでいるのかしら?」
ベイリーが見開いた瞳をわたしの顔に近づけてくる。
「お、おい、ベイリー。何か今日のベイリー怖えんだけど……。そこまで怖がらせなくても良いんじゃねえか? あたしは冗談で言っただけなんだから……」
リオナが恐る恐る止めに入る。キャンディとメロディも不安そうにこちらを見ていた。
「わたしは、先輩メイドとして後輩メイドのカロリーナちゃんの認識を誤らせないように修正する義務があるの。だから、これが仕事」
ベイリーがまた静かに暗いトーンで伝えた瞬間に、開け放されていたドアの外から声がした。
「ふんっ、何が仕事ですか。あなたの腹黒さにカロリーナさんを巻き込まないであげてください」
開けっ放しになっていた部屋の入り口の辺りで、苛立った様子のソフィアが腕組みをして立っていた。
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