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Ⅰ 手乗りサイズの新米メイド
現実 1
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「やっと起きたか」
目を開けたときにわたしの様子を見守ってくれていたのは、またもやリオナだった。
「ねえ、わたしたちって、やっぱり小さいの?」
「さっき散々見てきただろ?」
リオナが呆れたように言うから、うん……、と小さく頷いた。
広がっていた巨大な世界の中で測った身長は、たった77ミリだった。わたしたちは間違いなく小さくなっている。だから、巨大なアリシアお嬢様に仕えるのが怖くて、大きな屋敷から逃げたとしても、結局外の世界は巨大なものだらけなのだ。
大きな屋敷の外に出たら、野良犬や野良猫どころか、下手をすると、カエルやネズミの餌になってしまうかもしれない。結局、わたしに逃げ場は無いのだ。
「なんで黙ってたの……?」
何度も不穏な言葉は聞いたけれど、実際に小さくなっているという話は何も言われなかった。
「ベイリーから口止めされてたんだよ。いきなり小さくなったなんて言われたらビビるだろうからって」
「まあ、そりゃ……」
今回はまだ事前にある程度嫌な予感くらいはしていたからマシだったかもしれないけれど、いきなり外に出て巨人の世界に立っていたら、そのまま卒倒していたかもしれない。
「実際その通りだったな。さっきだって『ショックで気を失ったのかもしれません』って言ってソフィアがお前のこと連れてきたんだから」
恥ずかしながら、ベイリーの予想は当たったようだった。ベイリーの反対を押し切って外に出たのに、結果ショックで気を失って帰ってくるなんて、なんとも困ったものだ。
「でも、ソフィアさんがどうやってわたしのことをここまで運んだんですかね?」
ソフィアが小さな体でわたしをおんぶしながら、ここまで梯子や縄をつたったり、絨毯の大草原を大移動してきたと言うことだろうか、と考えたけど、それは多分無理がある。ソフィアがアリシアお嬢様にわたしを運んでなんて頼むわけもないし。首を傾げていると、リオナが答えてくれる。
「どうやってって、そりゃどう考えてもエミリアが運んできたに決まってんだろ」
「えぇ……、でもあの人わたしに冷たいよ? わたしのためになることしてくれるとは思えないけど……」
エミリアなら気を失ったわたしのことをそのままゴミ箱にでも捨ててしまいそうな怖さがある。なんと言っても、いきなり無言で巨大な靴で蹴ってくるヤバい人なのだから。
「お前のためじゃねえんだろうな。どうせソフィアが指示したんだろ。お前のこと運べって。あいつ、あたしらのことは視界に入っても見てないふりをするのに、ソフィアやベイリーの言うことは素直に聞くからよ」
へえ、とわたしは相槌を打ちながら、さっきのことを思い出す。確かに、意に介さなかったわたしと違って、ソフィアに対してはとても優しく振る舞っていた。
「それに、あいつが冷たいのはお前だけじゃねえよ。あたしにも、キャンディとメロディにさえも冷てえよ」
「キャンディとメロディにも冷たいって……。まさかと思うけど蹴ったりしてるんじゃ……」
「さすがにそれはねえけど、掃除の邪魔したら容赦しねえからなぁ……。あいつらがベッドの上で走り回っているときにベッドメイクに来て吹っ飛ばしたこともあるしな」
リオナが明らかに苛立ちながら言う。
「まあ、一応着地もベッドの上だったから、あいつらは巨大トランポリンくらいにしか思ってなかったみたいで、なんならちょっと楽しそうにしてたけど、それでも一歩間違ったら事故になってたかもしれねえんだから」
「わたしも蹴っ飛ばされたり逆さ吊りにされたりしたよ」
思い出しただけでゾッとする。痛みが体に蘇るみたいだった。
「なんだよそれ!」
わたしの被害を聞いて、リオナがまた怒っていた。
「ほんっとにムカつくやつだな! あたしが小さくされてなかったら、あんなやつ一発でぶっ飛ばしてやるのに!」
「リオナ、落ち着いてって。物騒なこと言わないでよ!」
「物騒なのはあいつのほうだろうがよ! だいたいお前蹴飛ばされたって、あの馬車よりもでけえ靴で大丈夫だったのかよ?」
「ソフィアさんが言うにはわたしたち体が丈夫だから大丈夫らしいですよ」
「ほんとかよ。ソフィアのやつもあんまり信用できねえんだよな」
一応、そうだね、と話は合わせておいた。リオナはソフィアからよく細かいことを注意されているから苦手にしていた。けれど、わたしはそこまでソフィアに嫌な印象はなかった。先ほどの謎の大冒険の時にはかなりわたしのことを助けてくれたし。まあ、その謎の大冒険をさせられたのはソフィアのせいなのだけれど。
目を開けたときにわたしの様子を見守ってくれていたのは、またもやリオナだった。
「ねえ、わたしたちって、やっぱり小さいの?」
「さっき散々見てきただろ?」
リオナが呆れたように言うから、うん……、と小さく頷いた。
広がっていた巨大な世界の中で測った身長は、たった77ミリだった。わたしたちは間違いなく小さくなっている。だから、巨大なアリシアお嬢様に仕えるのが怖くて、大きな屋敷から逃げたとしても、結局外の世界は巨大なものだらけなのだ。
大きな屋敷の外に出たら、野良犬や野良猫どころか、下手をすると、カエルやネズミの餌になってしまうかもしれない。結局、わたしに逃げ場は無いのだ。
「なんで黙ってたの……?」
何度も不穏な言葉は聞いたけれど、実際に小さくなっているという話は何も言われなかった。
「ベイリーから口止めされてたんだよ。いきなり小さくなったなんて言われたらビビるだろうからって」
「まあ、そりゃ……」
今回はまだ事前にある程度嫌な予感くらいはしていたからマシだったかもしれないけれど、いきなり外に出て巨人の世界に立っていたら、そのまま卒倒していたかもしれない。
「実際その通りだったな。さっきだって『ショックで気を失ったのかもしれません』って言ってソフィアがお前のこと連れてきたんだから」
恥ずかしながら、ベイリーの予想は当たったようだった。ベイリーの反対を押し切って外に出たのに、結果ショックで気を失って帰ってくるなんて、なんとも困ったものだ。
「でも、ソフィアさんがどうやってわたしのことをここまで運んだんですかね?」
ソフィアが小さな体でわたしをおんぶしながら、ここまで梯子や縄をつたったり、絨毯の大草原を大移動してきたと言うことだろうか、と考えたけど、それは多分無理がある。ソフィアがアリシアお嬢様にわたしを運んでなんて頼むわけもないし。首を傾げていると、リオナが答えてくれる。
「どうやってって、そりゃどう考えてもエミリアが運んできたに決まってんだろ」
「えぇ……、でもあの人わたしに冷たいよ? わたしのためになることしてくれるとは思えないけど……」
エミリアなら気を失ったわたしのことをそのままゴミ箱にでも捨ててしまいそうな怖さがある。なんと言っても、いきなり無言で巨大な靴で蹴ってくるヤバい人なのだから。
「お前のためじゃねえんだろうな。どうせソフィアが指示したんだろ。お前のこと運べって。あいつ、あたしらのことは視界に入っても見てないふりをするのに、ソフィアやベイリーの言うことは素直に聞くからよ」
へえ、とわたしは相槌を打ちながら、さっきのことを思い出す。確かに、意に介さなかったわたしと違って、ソフィアに対してはとても優しく振る舞っていた。
「それに、あいつが冷たいのはお前だけじゃねえよ。あたしにも、キャンディとメロディにさえも冷てえよ」
「キャンディとメロディにも冷たいって……。まさかと思うけど蹴ったりしてるんじゃ……」
「さすがにそれはねえけど、掃除の邪魔したら容赦しねえからなぁ……。あいつらがベッドの上で走り回っているときにベッドメイクに来て吹っ飛ばしたこともあるしな」
リオナが明らかに苛立ちながら言う。
「まあ、一応着地もベッドの上だったから、あいつらは巨大トランポリンくらいにしか思ってなかったみたいで、なんならちょっと楽しそうにしてたけど、それでも一歩間違ったら事故になってたかもしれねえんだから」
「わたしも蹴っ飛ばされたり逆さ吊りにされたりしたよ」
思い出しただけでゾッとする。痛みが体に蘇るみたいだった。
「なんだよそれ!」
わたしの被害を聞いて、リオナがまた怒っていた。
「ほんっとにムカつくやつだな! あたしが小さくされてなかったら、あんなやつ一発でぶっ飛ばしてやるのに!」
「リオナ、落ち着いてって。物騒なこと言わないでよ!」
「物騒なのはあいつのほうだろうがよ! だいたいお前蹴飛ばされたって、あの馬車よりもでけえ靴で大丈夫だったのかよ?」
「ソフィアさんが言うにはわたしたち体が丈夫だから大丈夫らしいですよ」
「ほんとかよ。ソフィアのやつもあんまり信用できねえんだよな」
一応、そうだね、と話は合わせておいた。リオナはソフィアからよく細かいことを注意されているから苦手にしていた。けれど、わたしはそこまでソフィアに嫌な印象はなかった。先ほどの謎の大冒険の時にはかなりわたしのことを助けてくれたし。まあ、その謎の大冒険をさせられたのはソフィアのせいなのだけれど。
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