愛恋の呪縛

サラ

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第227話

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 その頃。



「魁蓮、魁蓮?どこにいらっしゃるのですか?」



 夕餉の準備前、司雀は魁蓮を探していた。
 キョロキョロと城の中を見渡しながら、長い廊下を歩いている。
 司雀が魁蓮を探すのはよくある事だが……この時既に、司雀は1時間ほど魁蓮を探し回っていた。



「魁蓮ー?」



 魁蓮はよく1人で行動することが多いため、肝心な時に限って居ないことが多い。
 そのため、司雀が魁蓮を探すのは日常茶飯事で、毎度の如く魁蓮の名前を呼びながら探している。
 探すのは司雀、探されるのは魁蓮、決まった組み合わせだった。
 だが、これには1つ問題がある。



「はぁ……これはまた、骨が折れそうですね」



 魁蓮の癖なのか分からないが、魁蓮はたとえ司雀が近くまで来ていたとしても、司雀の呼び声に応答することがほとんどない。
 つまり、魁蓮は探されている側だというのに、自分の居場所など一切の情報を与えないという鬼畜なことをする。
 たとえ司雀が間近を通り過ぎても、隣の部屋にいたとしても、魁蓮が「ここにいる」と返事をすることは絶対無い。
 むしろ、「この場から動かないから、ここまで来い」と言わんばかりに、魁蓮は司雀の声を無視する。
 探される側としては、実に非協力的な態度なのだ。
 これには司雀も、何度も悩まされている。



「全く、今度はどこへ行ったのでしょう」



 司雀はため息を吐きながら、各階の部屋を探し回る。
 この城は、黄泉の中で一番大きく広い建物の割に、住んでいる人数が極端に少ない。
 部屋数も多くて、人探しにはあまりにも不向き。
 加えて魁蓮を探すとなると、城の外まで探す範囲は広がる。
 そんなの、すぐ見つかるわけが無いのだ。



「もう、これから魁蓮には鈴をつけてもらいましょうかねぇ。音を頼りに探すのは、良い対処法です!」



 司雀はコクコクと頷いて、自分の意見を肯定した。
 何も文句を言わず、毎度こうして見つけるまで探してあげているのだ、むしろ感謝して欲しい。
 なんてことを考えながら、司雀は引き続き魁蓮を探し回る。

 そうして司雀が暫く探し回っていると…………



「……おや」



 廊下を歩いていた司雀は、ふとあるものに気づく。
 静かで、不穏な空気が漂う黄泉の城、その城に紛れ込む甘い匂い。
 その香りに集中して鼻を動かすと、馴染みのあるものだった。
 
 そう、蓮の花の香りだ。

 そしてその香りは、ある人物を意味する。
 司雀はその香りを頼りに、足を進めた。



「書物庫からですね」



 蓮の花の香りは、書物庫からだった。
 つまり目的の人物は、ここにいるということ。
 司雀は足早に近づいてノックもせず扉を開けると、書物庫の中は、1本のロウソクの火が明明と光っている。
 そしてそのロウソクの近くには、重みを感じる大きな巻物を読んでいる姿が1人。
 やっとの思いで見つけた魁蓮が、そこにいた。



「魁蓮、ここにいらしたのですね」



 司雀が声をかけると、巻物をじっと見つめていた魁蓮は、ゆっくりと顔を上げた。
 書物庫の中は、1本のロウソクが放つ弱々しい光しか無いにも関わらず、魁蓮の赤い瞳は暗がりでも禍々しく輝いている。
 そして何より、少し薄暗く感じる空間だろうと関係ないほど際立つ、魁蓮の美貌。
 本人は、自分がとんでもない美貌の持ち主だという自覚が無いようだが、彼の美貌はまさに国宝級だ。
 暗がりだろうと何だろうと、誰もが見蕩れるだろう。



「何だ」



 しかし、そんな美貌が勿体なく思うくらい、本人は冷たい態度をしている。
 現に魁蓮は、不機嫌そうに司雀を見つめていた。
 巻物を読んでいるのを邪魔されたのが、余程嫌だったのだろうか。
 だがそんなことより、司雀は魁蓮の返事と態度にムスッと頬を膨らませる。



 (やっぱり、返事をしてくれませんでしたね)



 司雀は、気づいていた。
 魁蓮のすました態度から見て、魁蓮はずっと司雀の探す声が聞こえていたのだろう。
 それに、先程司雀は、書物庫の近くを通りかかっている。
 なのに返事をしてくれなかったとは、尚更腹立たしい。
 「返事くらい、してくれてもいいのに」と思いながら、司雀は呆れた顔で近づく。



「何だ、ではありませんよ。仕事が終わり次第、自分の元に来いと言ったのは魁蓮ではありませんか」

「ん?……あぁ、そうだったな。ということは、仕事は終わったのか?」

「えぇ。そのために、ここに来てるんです」

「ほう?随分と早かったなぁ。成長したか?ククッ」

「馬鹿にしてますよね?全く、貴方って方は……」



 司雀の仕事の速さは魁蓮が一番分かっているというのに、魁蓮はいつもこんな言い方をする。
 貶しているのか、それとも純粋に驚いているだけなのか。
 どちらにせよ、司雀としては嫌な反応だ。



「それで?私に何か用ですか?」



 司雀が気を取り直して本題に戻すと、魁蓮は「あぁ」と声を漏らし、巻物に視線を戻しながら口を開いた。



「近々、新入りを招く。一式、準備をしておけ」

「えっ」



 淡々とした言葉だが、司雀には伝わった。
 意味は、「近いうちに新しい妖魔を招くから、家具や暮らしの必需品の全てを用意して欲しい」というもの。
 簡単に言えば、仲間が増えるということだ。
 しかし、司雀は慌てて口を開く。



「新入りって……もしかして、ですか?」

「あぁ。少しばかり、からな。慌てずとも、向こうが来るだろう」

「……つけて、おいた……?」



 司雀は魁蓮の遠回しな言い方に、顔があおざめる。



「ま、まさかっ……貴方っ、彼に自分の妖力をっ!?」



 司雀が尋ねると、魁蓮はニヤリと悪戯っぽく笑みを浮かべて、細めた目を司雀に向けた。



「あのは、確実に志柳へ行く。だが今、奴に志柳へ行かれると困るのでな。
 誰か一人でも我の気配を感じ取る者がいれば、あの虎を志柳へ招こうなどとは思わんだろう?部下か、下僕だと勘違いするはずだ」

「な、なんて酷い……今頃、困ってますよ!」

「ククッ、知ったことか。たとえ志柳から追い出されようと、こちらが招けば良い。優しいだろう?」

「全くもう……」



 あまりにも身勝手な魁蓮の行動に、司雀は頭を抱えた。
 だが、そんな司雀の反応を他所に、魁蓮は目を伏せる。



 (最も、あのが奴の味方をしなければの話だがな…………)





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 そして魁蓮の勝手な行動や考えは、見事虎珀にとっては悪い方向に当たっていた。



「おい!!!何者だ!?何しに来た!?」

「っ……はぁっ!?いきなり何をするんだ!!」

「とぼけるな!!テメェ、その纏ってる妖力…………

 の妖力だろうが!!!!!!!!」

「っ……!!!」



 魁蓮が虎珀につけた妖力に、志柳にいる妖魔が勘づいたのだ。
 虎珀は核心を突いてきた妖魔に、目を見開く。



 (コイツっ、なんで分かった……!?)



 妙な気配をまとっているのは、龍禅も気づいていたこと。
 しかし、龍禅はその妙な気配の正体までは分からなかった。
 だから安心して志柳へとやってきたのだが……



「っ……くっ……!」



 だが今は、それどころでは無い。
 世を騒がせる鬼の王の妖力を纏った、素性の知れない妖魔がやってきたことで、志柳の妖魔たちはてんやわんやだ。
 虎珀に攻撃を仕掛けたとはいえ、目の前から感じる鬼の王の妖力の気配というものは凄まじく、少しでも気を緩めれば恐怖に陥れられそうだった。



「答えろ!!!何が目的だ!?!?!?」



 妖魔たちは、怒りを含んだ声をあげる。
 何体もの妖魔の攻撃を、未完成の刀で受け止めている虎珀は、歯を食いしばっていた。
 運良く自分の体に攻撃が当たらなかったとはいえ、この状況をずっと続けられるわけではない。
 どうにかして言葉を発したいが、あまりにも妖魔たちの力が強く、言葉を話す余裕が無い。



 (まずいっ……このままじゃっ)



 そう思っていた時…………。





 キィィィン!!!!!!!





「「っ!!!!!」」



 虎珀の目の前から、武器がぶつかる甲高い音が鳴り響いた。
 それと同時に、虎珀にのしかかっていた妖魔たちの重い攻撃は、スっと消える。
 虎珀が何事かと顔を上げると、



「ほらほら皆~?ちょっと落ち着けって」



 虎珀の前には、妖力で作った剣を手に持ち、虎珀を守るようにして立ち塞がる龍禅がいた。
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