愛恋の呪縛

サラ

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第134話

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 (何やってんだ、アイツら)



 日向は魁蓮の情報収集そっちのけで、怒声を上げ続ける男妖魔を見つめた。
 一体、何があったのか、怒声を浴びせられている子どもは怯えている。
 その近くでは、お菓子のようなものが落ちていた。
 恐らく、子どもが持っていたもの。



「テメェ、どこ見て歩いてんだ?あぁ?」

「ご、ごめんなさいっ……」



 圧に押され、子どもはすっかり小さくなっている。
 対して男妖魔たちは、4人がかりで子どもを責めている。
 理由はどうであれ、この状況はよくない。
 日向のいつもの正義感が動いた……その時。





「おい」

「「「「「っ!!!!!!」」」」」





 怒声が響くその場に加えられた、低い声。
 怒りの形相だった男妖魔たちは、その声に顔を上げると、ついさっき女妖魔に囲まれていたはずの魁蓮が、眉間に皺を寄せて立っていた。
 思わぬ人物の登場だったのか、怒りで熱が入っていた男妖魔たちは、まるで嘘だったかのように肝が冷えて青ざめている。
 子どもも、睨みつけるような表情を浮かべる魁蓮に、小さく体が震えていた。



「こ、これはっ……魁蓮様!じょ、城下町にいらしてたんですか!いやぁ!相変わらず美しっ」

「黙れ」

「へっ……?」

「誰が口を開いていいと言った、無礼者」

「っ!!」



 王の風格。
 それを大胆に見せびらかしながら、魁蓮はじとっと辺りを見渡し始める。
 舐めるように視線を泳がせると、魁蓮はある若い男妖魔に目が止まった。



「そこの者。状況説明を」

「っ!は、はいっ!」



 突然言い当てられた男妖魔は、少し戸惑いながらも、魁蓮の行動に納得したかのように口を開いた。



「その子どもは、お菓子を持って歩いていたんです。かなりの量を持っていたので、足取りはゆっくりで。それで、私が手助けに入ろうとした途端、その者たちがふざけながら走ってきたんです。
 そしたら、ドンッと後ろから子どもにぶつかって……」

「はぁ!?」



 若い男妖魔の説明に、怒声を上げていた男妖魔は、反論の声を上げた。



「テメェ!適当なこと言ってんじゃねえよ!コイツが道の真ん中を歩いてんのが悪ぃんだろうが!だいたいっ」



 そう、口にし始めたのが……引き金だった。





 ブワッ!!!!!!!!!!!!!





「「「「あああああっ!!!!!!!」」」」



 何が起こったのかと頭が混乱するほどの、一瞬の出来事。
 反論しようと若い男妖魔に近づいていた男妖魔たちは、突然足元の影から出てきた剣山のようなものに捕らえられていた。
 全身を無造作に貫かれ、反論していた男妖魔には特別に、喉に剣山が突き刺さっている。
 反論どころか、声を上げることもできない。
 その痛々しい光景、誰の仕業かは分かりきったこと。



「言ったはずだぞ?許可なく口を開くな、と……」



 その声は、まさに死の知らせ。
 周囲にいた妖魔たちの視線が、導かれるようにして集まっていく。
 そして視界に映ったのは……
 黒い長羽織で子どもの視界を塞ぐ魁蓮の姿。
 日向は、そんな魁蓮の姿に目を見開いた。



 (もしかして……見せないようにしてる?)



 どういう理由かは知らないが、魁蓮の行動は目の前で起きている悲惨な光景を、子どもに見せないようにしているような行動だった。
 当然、いきなり視界を塞がれた子どもは、何が起きているのか分からないまま、おろおろと慌てて震えている。
 そんな子どもに気づいたのか、魁蓮は腰を少し曲げて、子どもへと顔を寄せる。



「しばし、大人しくしていろ」

「えっ?」

「案ずるな、直ぐに終わる」



 小声で交わした声。
 魁蓮は子どもへの声掛けが終わると、ギリっと鋭い目を男妖魔たちに向けた。



「己がした不躾な行動を、まだ未熟な子に八つ当たりとは……貴様らは、愚かだなぁ。
 全く、黄泉に随分と痴れ者が増えたものだ。我がいなかった1000年、司雀はどういう管理をしていたのだ?ククッ……」



 だんだんと強まる、魁蓮の妖力の気配。
 こうなってしまっては、誰も止められない。
 いや、この状況、むしろ止める者はいないだろう。
 男妖魔たちがした行いは、手助けをする理由などないのだから。



「我の黄泉を汚すな、痴れ者が。死ね」



 魁蓮が囁くと、剣山に捕まっていた男妖魔たちは、バンっと激しく弾け飛んだ。
 破片が辺りに飛び散り、その場に血溜まりが起きる。
 息を飲むような光景だ。
 対して魁蓮は掃除感覚だったのか、男妖魔たちが居なくなった途端、ニヤリと口角を上げている。
 その姿に、先程魁蓮を囲っていた女妖魔たちは、キャーっと黄色い歓声を上げていた。



「さすが魁蓮様ぁ!」

「かっこいい!!!」

「どうしよ、本当に結婚したいっ……」



 だが、今の状況、魁蓮に釘付けなのは女妖魔たちだけでは無い。
 様子を伺っていた他の妖魔たちも、魁蓮の圧倒的な強さには、感心するばかり。
 もう、憧れの的だ。



「さて、と……」



 魁蓮は気を取り直すと、ずっと視界を塞いでいた子どもに向き直り、変わらず状況を見せないようにと気を配りながら、子どもの前に屈んだ。
 いきなり目の前に来た魁蓮に、子どもはビクッと肩を跳ね上がらせたが、魁蓮はいつもの冷静な表情を浮かべながら、首を傾げた。



「怪我は」

「えっ……」

「怪我は、あるのか、無いのか」

「な、ない」

「ならば良い。
 ところで、これは何だ?」 



 魁蓮は、子どもの近くに落ちていたお菓子を指さした。
 子どもが持っていたというお菓子は、落とした衝撃で粉々になり、もう食べられる状況ではない。
 そのお菓子を見た途端、子どもは涙目になりながら、口を開く。



「みんなに、お土産買ってたの……でも、落としちゃった……せっかく、お金貯めたのに」



 確かに、1人分にしては多い量だった。
 魁蓮はじっと、落ちて粉々になったお菓子を見つめる。
 一生懸命貯めたお金で買ったものなのに、こんな胸糞悪いことに巻き込まれ、今までの努力がパッと消えてしまった。
 思いやりでした行動が、こんなにも酷い結果に。
 一部始終を見ていた日向は、たとえ殺されたとしても、子どもを責めていた男妖魔たちが未だに許せなかった。
 そんな中、魁蓮は粉々になったお菓子から視線を外して、子どもへと向き直る。



「餓鬼。この菓子の店は、どこにある?」

「……えっ?」

「案内願いたい、良いな?」

「う、うん……いいよ?」



 子どもは、魁蓮の言葉にポカンとしていた。
 すると魁蓮は、男妖魔たちの破片が飛び散った現状を見せないようにしながら、案内してくれる子どもについて行った。
 日向も、見失わないようにと後を追いかける。





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





「ここだよ」

「ほう」



 城下町をしばらく歩いていた魁蓮と子どもは、ある小さな菓子屋にたどり着いた。
 少し古い建物の中からは、若者が好みそうな甘い香りが漂ってくる。
 甘ったるい香りに顔を顰めながらも、魁蓮は子どもを見下ろした。

 彼は、蓮蓉餡の饅頭以外の甘いものは基本苦手だ。



「餓鬼、中まで案内しろ」

「わ、分かった」



 甘いものを好まないはずなのに、魁蓮は続けて子どもに命令を下す。
 子どもは戸惑いながら、魁蓮と共に中へと入る。
 日向は魁蓮の行動に驚きながらも、中には入らず店の小窓から様子を伺った。
 すると、日向は息を飲んだ。



 (わぁっ……!お菓子いっぱいじゃん!)



 日向は、小窓から静かに目を輝かせる。
 お店の中は、たくさんのお菓子がずらりと並んでいて、お土産にはピッタリのものばかり。
 子どもが喜びそうな可愛い見た目のお菓子から、ご老人に優しい柔らかいお菓子もある。
 甘いものが好きな日向は、まるで天国のような店だ。
 お店の中には他の客もいて、日向と同じように目を輝かせている。

 が、そんな空気は、突如一変する。



「うぇぇ!?か、魁蓮様!」



 日向が色とりどりのお菓子に感動していると、お店の中から驚く声が聞こえてきた。
 日向がその声に視線を向けると、店主のような妖魔が、突然現れた魁蓮に驚愕している。
 続けて客としてきていた妖魔たちも、魁蓮の姿に開いた口が塞がらない。
 まあ、当然だろう。



「店主はお前か?」



 魁蓮は驚かれていることなど気にもせず、いつも通りの冷静さで、目の前にいる妖魔に声をかけた。



「は、はい!私が、店主です、けどっ……」

「丁度いい、少々用がある。
 この餓鬼が購入した菓子は、どれだ?」



 魁蓮はそう言いながら、隣にいる子どもの頭にポンっと手を置いた。
 すると店主は、子どもの姿を見るなり、首を傾げる。



「あれ?坊や、さっき買いに来てくれた子じゃないか。一体、どうしたんだい?さっきのお菓子は?」

「あ、あの、えっと……」



 子どもは、もじもじし始めた。
 きっと、言えないのだろう。
 せっかく買ったお菓子を、地面に落として無駄にしてしまったなど。
 申し訳ない気持ちと悔しい気持ちが高ぶってきたのか、子どもは罪悪感から目に涙が溜まる。

 ところが、そんな涙すら引っ込む言葉を、魁蓮は前触れなく発した。



「あいすまんな。先程、我がこの餓鬼とぶつかってしまい、その衝撃で菓子を落としてしまった」

「「っ!!!!!」」
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