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第1章 最初のお客様

隼人の初仕事と初恋

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 俺は渡辺隼人、花森小学校5年生で趣味と特技はサッカー。こんな晴れた日曜の昼にはサッカーの自主練習に勤しむのが俺のルーティン…のはずなのに、どうして俺は今女子に囲まれてハンバーガー屋にいるんだろう。

 「えー!本当に彼氏連れてきたんだ!」
 「ごめん、見栄張ってるだけで本気にしてなかったわー!」
 初対面なのにやたらとテンションの高い女子二人。どちらも美姫の塾友達だ。反対にもじもじもごもごしている美姫、依頼人なんだからもう少し喋ってくれ。
 「ねね、二人はどっちから告白したのー?」
 ポニーテールの方、りんと自己紹介した方が質問してくる
 「あ…あう…」
 日本語になってないぞ美姫。仕方ないなあ。
 「あー俺から。まあちゃんとした言葉は言ってないけど、なあ?」
 俺の言葉に顔を真っ赤にしながらコクコク頷く美姫。なんかあれだ、父さんの出張土産で貰った赤い牛の置物みたいだ。
 「えー、でも隼人君モテるでしょ?魚住さんのどこが良かったのー?」
 ツインテールのヒラヒラした方、まりと自己紹介した方が聞いてくる。目がクリクリで服もピンクピンクしていかにも可愛い系だけど質問は可愛くないな、てか俺はこのタイプ苦手だ。
 「真面目で気遣いできるとこかな、あと顔も可愛いと思うよ。」
 なるべくサラっと答える俺。この時間苦痛すぎる…
 チラッと横目で美姫を見ると、さっきよりさらに顔を真っ赤にしながらコーラを飲んでいる。
 「ラブラブじゃん、良かったねえ魚住さん。」
 「えー、私はまだ信じられないなあ。」
 茶化してくるりんとぷうっと頬を膨らませるまり。なんだろう、こいつら本当に友達なのか…?

 「ちょ…ちょっとトイレ」
 席を立つ美姫。おいおい、このタイミングかよ。
 「あ、お母さんから電話だ!ちょっとまってて」 
 店の入口に向かうりん。マジか…一番苦手なタイプと二人っきりって…
 気まずくて目の前のポテトをひたすら食べる俺。
 もさもさもさもさ…
 「隼人くんってさあ…」
 まりが口を開く。
 「意外と女の子と話さないタイプ?」
 「へ…まあ普段はやっぱり遊ぶのは男ばっかだけど…」 
 純と奏の顔が頭をよぎる。
 「やっぱりー!隼人くんカッコイイのになんで魚住さんなんだろうと思ったんだよね!」
 何言ってるんだコイツ。
 「隼人くんはもっと周りの女の子に目を向けた方がいいよ!そうだ、ライン交換しようよ!ねっ」
 コイツは美姫の友達じゃないのか…女子マジで意味わからん…
 「おまたせ…」
 いいタイミングで美姫が戻ってきた。
 「ごめんごめん!お母さんが買い物行くから帰って来いって電話来ちゃった。」
 りんも慌ただしく戻ってくる。
 ぷうっとまりがまた頬を膨らませる。…可愛いのに可愛くない。
 「俺と美姫もこの後寄るとこあるから。」
 さっと目配せする俺。頷く美姫。物分りが良くて助かる。
 「じゃあ、また塾で…」
 席を立つ美姫と俺。
 「うん、またねー」
 あっけらかんとしたりんに不機嫌そうなまり。

 店を出て、家の方まで二人で歩く。
 「今日はありがとう…」
 うつむいてお礼をいう美姫
 「なんか…女子って大変だな…」
 独り言みたいに口から言葉が出た。
 「ふたりとも悪い子じゃないんだけど…私にも良く話しかけてくれるし…」
 「悪い子じゃない、か」
 いい子でもないだろう、という言葉を飲み込む。
 「まあ何か困ったらまた言ってよ、なるべく力になるからさ。」
 まりのキラキラというよりギラギ
ラとした目つきを思い浮かべる。純のキラキラした目とは大違いだ。
 「あ…あのさ…隼人くん…」
 「何?」
 美姫に目をむけると、真っ赤になって俯く美姫が言葉を続ける
 「は…隼人くんって好きな人…いるのかなあ…」
 好きな人…真っ先に純のキラキラした顔が浮かぶ。
 初めて、その感情が友情じゃないと気づいたのはいつだったか…。
 「一応いる、のかなあ…」
 独り言みたいにぽつりと呟く。
 「そっかあ…」
 そっぽを向いて応える美姫。表情は見えない。
 「私こっちだから…今日は本当にありがとう、じゃあ!」
 下を向いたまま走り出す美姫。
 「あ…ああ…」
 走り去る姿を見送る俺。

 「好きな人か…」
 なんだろう、純の顔が浮かんでは胸のあたりが苦しくなる。
 (帰ってリフティングでもやろう)
 サッカーの練習に集中すれば、きっと余計な事は忘れられる。
 俺は早足で家に向かった。
 
 
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