男とか女とか

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「町宮、理々子……」
(は?何でいる?)

 翌朝も早めに登校し教室へと向かうと東が待ち伏せていた。
想定外すぎて突っ込みが追いつかない。
昨日言った通りに遠回りして五組側から来たのだが、三組の前で待ち伏せられてはどうにもならない。
無視しようにもドアの前に立たれてはそれもかなわず呆然と東を見据える。
その頬が徐々に色付いていくのに気付き、瞬時に顔を逸らし踵を返す。

「離して……ください」

 東が何故こんな真似をするのか理解に苦しむ。
本能が求めているのだとはわかってはいる。
でもそれを抑えられる理性がないわけではないだろう。
振り向かない私の腕を掴む東の手は微かに震えている。
今日は家を出る前に予め抑制剤を飲んできてはいるが、それでもこの程度しか抑えられない。
昨日よりはマシであっても通常のままでいられないことに変わりはない。
私もまた東から漂う匂いに早くも酔いそうになっていた。

(コイツ……抑制剤飲んでるの?)

 マシになったとは思えない。昨日と大差ない強烈な匂いに思わず顔が歪む。
正気を保つため、唇を強く噛み締め自身に痛みを与え続ける。
自分はこんな状態であるというのに、同じくフェロモンにあてられているはずの東の手は外れない。
いっそ蹴り飛ばしてしまおうかと正常な判断ができなくなりそうになっていたが、誰かの足音が耳に届き我に返った。

「屋上、行こう」
「……わかった」

 顔は合わせぬまま提案すると意外にもすんなり通った。
東もこんな状態の自分を晒していたくはないだろう。何より自分が嫌だった。
東と一緒にいるだけでも厄介なのに、その上コレではいい見世物だ。
掴まれている腕はそのままに屋上へと足早に引き連れていく。
屋上は鍵が壊れ立入禁止になっているが、そのぶん人目を気にすることはない。
早朝であるから当然外は身の凍る寒さだ。だが今はそれがありがたい。
気休め程度だが、近くに置いてあったボロボロな椅子を扉前に置いたところで東の手を無理矢理振りほどいた。

「手短にお願いします」
「……理々子」
「は?」

 早口で捲し立てた言葉は見事にスルーされ唐突に名前を呼ばれた。
意味がわからず顔を見れば、その顔は苦悶に染まっていた。
ああ、コイツもやっぱり本能に従うだけの馬鹿ではないのだとわかる。
私とは同じでなくとも、東もまた複雑な想いを抱いているのだろう。
だからといって呼び捨てにされても嬉しくはない。むしろ不愉快だ。

「名前で呼ばないでください」
「何で?俺が呼んでやってんのに……お前も本当は嬉しいんだろ?」
「何様だコイツ……やっぱり馬鹿だ」
「何か言ったか?」
「いいえ」

 噂で聞いた以上に自分本意な東に自然と溜息がもれる。
東に聞いていたのでは話が進まないと理解し、嫌々こちらから話しかけることにした。

「私に何か用があって来たんじゃないんですか」
「いや……別に何も」
「はぁあ?」

 用がないならここに来るまでに言えよ、という言葉は何とか飲み込んだ。
しきりに私をチラチラ見ては頬を染める東はより異星人にしか見えなかった。
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