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第二章

16風紀の勧誘

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「おーい、倉科ぁ! 何かB組の奴が呼んでるぜ?」
「…? おー」

いつもの様に学校が終わって部活に行こうと支度をしている時、廊下側の席の生徒に呼ばれた。

「(はて、B組に知り合いなんていただろうか……)」

呼ばれた方を見れば1年生にしては大柄な生徒がクラスメイトと話している。
見覚えは、無い。
俺は帰り支度を済ませて、廊下に向かった。

「倉科は俺だけど、何?」
「あ……」

大柄なB組の生徒は俺が声を掛けると、一瞬だけ驚いた顔をして、次の瞬間頬を真っ赤に染めて勢いよく何かを突き出しながらお辞儀をして叫んだ。

「俺とペアを組んで下さい!!」
「は……?」

差し出されたモノは花束で、統一感のある丸い白とピンクの花が咲いていた。
菊か何かの一種だろうか……?
花束を見て現実逃避にそんな事を考えてしまったが、まぁこの生徒をそのままにもしていられない。何よりもかなり大きな声で叫んだため人目を集めている。

「えーと、ペアってのは生徒会企画の? 悪いけど俺はもう……」
「あ! いえ!! 違います!!」

バッと頭を上げてB組くんが否定した。

「ま、まず自己紹介させて下さい! 俺は一年B組の國井奏クニイカナデって言います」
「お、おう。俺は一年A組の倉科誠だよ」

知ってるだろうけど……。

「えーと、その、俺、風紀委員で……」

とても言い辛そうにしどろもどろになりつつ國井君が言った言葉で俺は全てを理解した。
園田先輩か田口先輩の差し金だ。

「あぁ、なるほど。風紀の勧誘がついに来たって事か。口分田先輩と田町先輩が来るって聞いていたんだけど」
「あ、ソレは中止になりました。喧嘩になって終わるからって、田口先輩が」

ソレは良い判断で……。
恐らく、あの二人が来たら口分田先輩に怒鳴られて俺がムカついて部活に行って終わるだろう。

「で、俺は今の所風紀になるつもりは無いけど?」
「はい、俺もそんな簡単になってもらえるとも思ってません。でも、俺も倉科さんには風紀になって欲しいと思っているので……。顔だけでも覚えてもらおうと」
「ふぅん……この花束は?」

受け取らずに指でさして聞いていると國井君の表情が輝いた。

「お近づきの印に受け取ってもらえると嬉しいです!」
「これ、高くね? というか、花って一本でもやたら高いイメージあるんだけど……」

それが束となるとコレはいったいいくらするものなのか……。
いくら本気で勧誘しているとしてもお金を掛けられるとこちらとしても辛いものがある。

「あ、コレは俺が育てたものなので安心してください!」
「え? 君が……?」
「はい! 俺、園芸部なんです。風紀をやりながらも部活は継続できるって証明になればと思って……」

あぁ、なるほど。
ただの気障な趣味で花束を持ってきたワケでも無いのか。というか、そういう気障な行動をするタイプには見えない。
率直で真面目な風紀らしい風紀とでもいうべきか……。大男がガーデニングをしているのはギャップを感じるが、逆に花を育ててもおかしくない様な心優しそうなで雰囲気もこの男にはある。

「これって菊?」
「あ、はい! ポンポン菊って種類です。本当はガーベラも入れようと思ったんですけど、育てたのからだといまいち色が疎らになってしまって……四苦八苦してみたんですけど結局ソレだけになっちゃいました」
「なるほど……」

この大男が花束と花鋏を持って四苦八苦しているのを想像して少し微笑ましい気分になる。
ガタイの良い男と花やお菓子等はとてもいい感じのギャップを生み出していて少しずるいと思う。映画やゲームにおける傭兵と幼女の組み合わせとか完全に客をオとしに来ている。

「まぁ、コレはありがたくもらっとくわ。フツ―に花瓶に入れときゃいい?」
「はい!」

この國井君もイケメンでは無いのに爽やかで羨ましい。
俺もフツメンだがやっぱ雰囲気イケメンくらいにはなってみたい気がする。大学生になるまでに雰囲気イケメンのなり方を身に付けたいものだ……。

注目を集めたまま立ち話をするのもナンなので俺と國井君は部室に向かって歩きだした。先輩がいるだろうからすぐ活動を始めるし、その前に聞けることは聞いておこう。

「あ、そういえばペアって何?」

生徒会企画のでは無いとすると風紀にそんな制度があるのかもしれない。

「あ、はい。風紀委員での活動は基本的に二人一組になって行います。一年次は幹部でも他の幹部じゃない風紀委員とペアを組むんですけど、二年から園田先輩と田口先輩や、口分田先輩と田町先輩みたいに固定のペアになるんです」

あ、だから一年だけ幹部が一人なのか。
そして幹部じゃない一般の風紀委員が隔年に何人かいる、と。

「園田先輩もそのつもりで倉科さんに勧誘を掛けたんだと思います」
「……」

二年から風紀の幹部に、ねぇ……。
でもソレって……。

「それさ、國井君は賛成なの?」
「え……?」
「だって、現風紀の一年幹部は君なんだよ? 相方の決定権だって君にあるだろうし、何よりも今、君が幹部であるのにその立場を無視して俺に声が掛かる事に対する不満は? もちろん俺が君の代わりになると思われてるとは思わないけれど」

國井君の面子というモノもあるだろう。
現役員を無視して俺に声が掛かるなんて気分は良くないんじゃあないかと、思うんだけれど……。

「俺は……」
「本音を言ってくれるとありがたいんだけど」

ここで國井君が反対派となってくれれば俺も断りやすい。
それに此処が曖昧なまま、万が一風紀になってしまったら確実にあと二年が辛くなるのは確かだ。

「俺は倉科さんとペアを組みたいです」
「……」
「そりゃあこの半年くらい頑張ってきた現風紀委員としては悔しくないと言えば嘘になります。俺はこの半年間、貴方を見てきました。何をやってるのか、どれ程の力があるのか、分かっているつもりです」

ジッと國井君が俺の目を見つめた。

「ソレが俺よりも学園に必要とされてるとは俺も思いません。でも、貴方と来年からペアを組めるとしたらソレは別問題です。一緒に頑張る事が出来るなら貴方以上の人はいないと思います。勿論、覚えてもらう事もたくさんありますし、他の一年と比べると出遅れてることにはなりますが、倉科さんならすぐに追いつけると思います」
「その根拠は?」
「だって、倉科さんA組ですし」

何だそのA組に対する絶対的信頼は。

「今の二年のペアの口分田先輩も今年が初めての風紀委員だったんです。去年までは何もしていなかったんですけれど田町先輩に誘われて入りました。口分田先輩はB組ですけどすぐに風紀の仕事を覚えちゃいましたから」
「B組……」

そういえばこの國井くんもB組だったか……。

「自分のクラス卑下し過ぎじゃあないの?」
「いえ、AとBではかなり変わりますよ。勿論成績順ですからピンからキリまでいますし、Aの最下位とBの一位で比べたら学力はそんな変わらないかもしれませんが、少なくともAとBを平均化するとやっぱりAの方が優れている事は確かです。その平均して上位の集まりですので考え方とか素行にも差が出てきます」
「あー、なるほど」

平均として優れてる方の組織にいたらいい方に感化されるって事か……。

「実際、考え方とかそういうのはA組はもう高校一年生のソレでは無いんじゃないかなってくらい思ってます。ソレは倉科さんもそうですけど」
「フツ―の高校一年はもっと馬鹿だ、と?」
「まぁ、そうですね。言ってしまえばC、DやEが普通というのに近いと思います」

まぁ確かに、半年くらいA組を見てきたけど中学の頃のと比べて統率がとれてるとは思う。
最初に俺が前に出て引っ張ったとしてもそっから素直に綺麗になれたのは学習力の高さ故だろう。

「そのAの中で一定の地位を確立しつつ成績を上位に保ってる倉科さんなら、風紀でやってくのにそんな苦労は無いと思います」
「で、そこに行きつくんだな……」
「俺は本気で貴方と仕事がしたいので」

うーん……買い被りじゃねぇのかなぁと思うんだけど。
というか俺、今日初めて國井君とあったんだし。

「信用はまだ出来ないかなぁ」
「今はソレでいいです。でも、これからしょっちゅう勧誘には行くつもりなので覚悟しててください」
「えー……」

めんどくさいんだよなぁ……。

「あ……」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないわ。もう部室着いたしお話はここまでな」
「あ、はい。では、また今度来ますね」
「おー、来なくていいよー」

くるりと回れ右してどこかへ向かう國井くんの背中を見送って溜息をついた。

何時の間にか風紀への警戒心を解かれさていた。
今まで風紀とか生徒会とかと関わる時は一定の緊張感を持って相手のペースに持ってかれない様にしていたのに。國井君は自分のペースに持ってく事無く俺に合わせてくれた。

そこがいけなかったんだろう。
同級生だから敬語はいらないと思って砕けた口調で話したし。
俺が風紀に入りたくないのはめんどくさいという理由だけじゃ無かったハズだ。ソレを忘れてしまっていたのはフツ―の友達みたいに接したから……。

「もしくは花束渡された時点で相手のペースに持ってかれてたのかもなぁ……」

大きな独り言で微妙な気分を消化してると部室から見慣れた金髪が出てきた。

「あれ、ピンポンマムだ」
「先輩知ってるんですか?」
「おー、よくウェディングブーケとかに使われてるしな。何だっけ、花言葉は真実、高貴、高潔……」

なんか意図したのか意図せずか風紀っぽい花言葉だ。
というか、何でジン先輩花言葉なんて知ってるんだ。情報屋だからなのか……?

「君を愛する、だったな」
「マジですか」
「何だ、お前モテ期か?」
「かもしれませんねぇ……」

國井君がどんな意味で渡したのかは知らないけど、何も知らずに渡したって事にして気付かなかった事にしよう。
園芸部とは言え男が花言葉に詳しいかなんてわかんねぇし。

「(あー、めんどくさい)」




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