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第二章
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しおりを挟むSide 東堂時隆
すっかり暗くなった外と、冷たくなったコーヒーがまさに今の自分の心境を表しているようだった。
自分に隠れて何かをしているとは知っていた。
というか、教師が生徒がしている事を全て把握しているワケじゃあない。知られたくないことは誰でも隠すし、そうでなくともわざわざ教師に自分のやっている事を話すような奴もいない。
教師と生徒。
所詮はそれだけの関係でしかない。
俺がどんなに誠を愛しく思おうとも、道徳的にも、社会的にも何でも無いのだ。
それでも、守りたいと思ってしまう。個人の感情などどうしようも無い。
そして、誠は俺の守れない場所にいるのだと、今回の事で分かってしまった。
今までだって、大したことはできてはいなかった。
アイツに関わる情報を集めて、不利になりそうな事は否定する。OZの件だってどうだった。
PK・FKの部員がOZ。そんな訳はない。
ジンも誠も良い子だ。
ジンに関しては多少性格が歪んでいるような気がしなくもないが、人を貶めるような事は絶対にしない。
馬鹿の噂話を信じるのは何も子どもだけじゃあない。教師だって気にする。人間である以上は無償の愛なんて無いし聖職者なんかじゃ無いからだ。そんな奴等の言う事を、少しでも耳にすればすぐさま否定する。
もっともな言い分を口にすれば大人はそれもそうかと納得する。
わざわざそんな事をしなくても、誠を知れば馬鹿な噂話なんて信じないだろう。
それでも、小さな火の粉くらいなら振り払ってやりたい。
教師にあるまじき邪な感情は殺せない。それでも、ソレに付随する愛情だけをどうにか表に出してきた。
本音を言うなら、誠との接点は一つたりとも無くしたくない。
部をやめても俺はアイツの担任の先生だ。だが、今年だけだ。
うまく三年間持ち上がればいいがどうなるかは上の決める事だ。
担任でなければ、一年もすればきっと俺と誠の仲など簡単に離れてしまう。だったら、顧問の先生として三年間つかず離れずいた方がまだ良いだろう。
「(でも、俺ではアイツを守れない)」
俺だって一教師でしかない。
風紀という組織と社会科教師の俺では前者の方が誠を守ることが出来る。
人を助ける事はアイツの美点ではある。
しかし、この学校ではかなり危険な行動だ。
アイツのすることは何でも肯定してやりたい。
でも、危険は冒してほしくない。
相反する二つの感情に答えは出せない。
決めるのはアイツだ。
だから、俺は肯定する事に決めた。
誠がこの手を離して人を助けたいと思うのなら、俺は迷いなく風紀に渡そう。
今回は二つ返事で断った。
誠もまだ決心は着かないだろう。
まだ悩んでいて欲しい。
一緒に居られる時間は刻々と少なくなっている。
たった三年。
それしか時間が無いのは分かっている。それすら少なくなることを恐れていて、俺はアイツが卒業したらどうするつもりなのか……。
今日、珍しく誠はカップを洗って行かなかった。
動揺させてしまったのかもしれない。
それを申し訳なく思うと同時に、部を辞めたくないと思ってくれている事に安心する。
大事にすることも厳しくすることもできない優柔不断が情けない。
冷たいカップを二つ拾い上げてシンクへと置いた。
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