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第二章
10幕間
しおりを挟む授業終わりのチャイムが鳴って、俺の号令でクラスメイトが頭を下げて、瞬間に教室が騒がしくなる。
今日は特に課題も無く、部活も無し。
久しぶりに暇な放課後だった。
最近気の張る事が続いたからありがたいが課題すら無いと何をして良いのか迷ってしまう……。
「倉科くん!」
「んー?」
いつもの様にそそくさと教室を出て行かない俺に後ろから田中が話しかけてきた。
「今日は部活無いの?」
「あぁ、今日は何も無いよ。なさ過ぎて何をしようか迷うくらい」
「あはは、退職後のパパみたい」
ふんわりと笑う田中は可愛らしい。
癒しだなぁ……。すげぇ可愛い。
「どうかしたの……?」
つられて俺までふんわりと笑うと不思議そうな顔をされる。
そんな不審者な笑みだったつもりは無かったのだが……。
「え、そんな変な顔してた?」
「ううん、どちらかっていうと疲れた顔かなぁ。何かあったの?」
なるほど。
笑ったつもりがニヤついてるだけでキモかったとかじゃなくて良かった。人の良い田中にひかれたら流石に立ち直れない。
「まぁちょっと、色々な」
ヘラリと笑えば心配そうに顔を覗きこまれる。
「無理しちゃだめだよ?」
「大丈夫。もうしばらくは面倒事も起きないと思うし」
「何があったかは知らないけど、もし僕らに出来る事があったら言ってね。少なくともこのクラスの皆は倉科くんが困ってたら助けたいと思うよ?」
ホント良い子だなぁ。
毎日会ってはいるけどしっかり話したのは久しぶりかもしれない。腹を探らないで話せるのは本当に楽だ。
それにこのクラスの人たちには敵意が無い。仲間だ。
安心できる。
「そーだよ? 倉科ちゃん」
「のわっ!!」
田中に癒されてると不意に背中に衝撃があった。
ドシリと掛かる重みに潰れかけて何とか体勢を立て直す。
「俺たち倉科ちゃんの味方なんだからー」
「味方と言うなら後ろから潰すな」
顔は見えないが間延びした声色ですぐに誰かは分かる。
コイツはやたら伸し掛かってくるがクセか何かなんだろうか……。
「中島くん、疲れてる倉科くんにそーいう事しないの!」
「えー?」
「えー、じゃない!」
あー、ホント癒される。このクラス。
「でもホント倉科ちゃんはどうしたの? 何か変な虫にでも刺された?」
まぁあながち間違っても無いような……。
「生徒会?」
「あと最近ジン先輩関係で報道にも会った。うちの学校の機関あんなんで大丈夫なのかね……」
「うわっ、報道はやだよねー。流石に怖いもん」
中島の質問に付け加えると流石の田中も嫌そうな顔をした。
そこまで嫌がられるのか報道は……。まぁあの部長を思い出すとよく分かるけれど……。
「っていうか生徒会って生徒会企画イベントとかで打ち合わせでもあったの?」
「いや、ソレについてはまだ。ソレじゃなくて前期に起きた問題での詫びだった。何かくれるって言ってたけど何くれるんだろうなぁ……」
貰えるもんは貰うがいらない物は貰いたくない。
「ふーん、良い物だといいねぇ」
「生徒会との一日デート権とかだったりして?」
「本気でいらねぇ。しかも処理に困る」
田中が緩くまとめてくれたのに中島がいらない予想を立てて俺は眉間に皺を寄せた。
「売ったら高値つきそうじゃない?」
「貰った時点で多方向から制裁されそうじゃねぇか。怖くて貰った事公表できねぇよ」
しかし確かに売ったらそこそこ所じゃない値段になりそうだ。
「でも今までの生徒会企画イベントだと1位の景品はいつもソレだったよねぇ」
懐かしむようにしみじみとそう言う田中。
そういえば新入生歓迎会の景品は学園内の事なら願い事が叶う券だったなぁ……。あの時はまだ学園になれてなくて引いた記憶があるけど、もしかしたら中学の頃からずっとそんな感じだったのかもしれない。
そもそも、この当たり前の様に出て来た“生徒会企画イベント”というものだってこの学校に来て初めて出会った行事だ。
「次の生徒会企画って何だろね?」
「この時期だと持久走にはまだはやいしねぇ」
俺の背中に貼りついたまま疑問符を浮かべる中島に田中が答えるが、この学校で持久走とか盛り下がる事請け合いだろ……。
生徒会企画とは、年に数回、生徒会が学内で何かしらのイベントを開く読んで字のごとくの催しだ。過去にはお茶会をしたり、ドッジボール大会をしたりした事があるらしい。大会系は景品が出る事もあるのでやる気を見せる生徒も多い。
「鬼ごっこ系とは言ってたな……」
「やっぱ走るのかー」
「まぁ生徒会企画は新歓と違って全員強制参加じゃないから嫌なら参加しなきゃいんじゃね?」
前に美姫弥年輩に教えてもらった情報を提供すれば中島が嫌そうな顔をする。
「倉科ちゃんは参加するの?」
「まぁ一応な。もしかしたら部の宣伝になるかもしれないし」
今の所PK・FK部の部員は俺とジン先輩のみであとは幽霊部員だ。このままだと今年度で廃部になってしまう。
「移動の芸術だもんねー、時々練習してるの見るけどカッコイイし皆の前でやったら人気でそうだよね!」
「ただ見る専が多いよねー、俺も含め」
そうなのだ。
身一つで出来るお手軽スポーツのハズだがアクロバティックすぎて敷居が高いと思われてしまっている……。俺だって初めて半年くらいなのに……。
「せめて俺がイケメンだったら人を集められたのだろうか……」
「あはは、チワワ系集めても邪魔なだけじゃない?」
「顧問が東藤先生でもこれなんだからあんまり意味無いんじゃないかなぁ」
ありえない仮定をしてみたがその上で否定されてしまえばもう手立てが無い。
「イケメンでも釣れないならやっぱりスポーツとしての魅力をアピるしか無いよなぁ……。ジン先輩だってイケメンだし制裁もされずにあの人から手取り足取り運動を教えてもらえる部活なのに何故売れないんだ」
そういえばイケメンと一緒にいるのに俺は制裁されないよなぁ……部活ってすげぇ。
「あの先輩は怖いからじゃない? イケメンではあるけどOZだって噂もあるし、そうでなかったとして裏がありそう」
あー、やっぱOZだって思われてんのか。そうでなくても情報屋なんて怪しげな事してるし綺麗な薔薇には……てヤツか。
「先輩フツーに優しいし先生のファンにもちょっかい掛けられた事ねぇんだけどなぁ」
「そこは倉科ちゃんの人徳とかもあるんじゃない?」
「俺にそんなモン無いと思うけどなぁ……。フツメンだから気付かれてないだけか?」
中島の言い分に呆れつつ机に潰れれば何故か田中に頭を撫でられた。
「そーいやお前等も親衛隊持ちだったよな。フツ―こういうの制裁対象になんねぇの?」
「僕のとこは一応穏健派とかそーいうのだからね」
「俺のはよく分かんないけど役職もついてない一生徒の親衛隊ってそんな酷かないでしょー」
そーいうモノか。
藤原のアレはおそらく生徒会系の親衛隊だよなぁ……。しかし、村上は保険の矢沢先生のだったか……。もしかしたら過激派系の親衛隊同士って協力関係にあるのかもしれない。
「藤原の親衛隊っていつ出来るのかねぇ……。そしたら今の状況ももうチョイ何とかなりそうな気がするんだが」
「そんな動きは一応あるみたいだよー」
「雪華も顔可愛いし性格も明るいからねー」
解体とかの話も出てる中こーいうのは喜べばいいのか不安を覚えればいいのか……。
俺自体はこの親衛隊制度に文句は無いから良いんだけど、解体されるのかなぁ……。
まぁ解体したいって話もどうせ1年じゃあ無理だろうし、この話をしてるのは村海先輩とかそこらへんか……。今の2年生主導なら今から頑張って3年になって卒業するまでにって所だよなぁ。
でもあの先輩もイマイチ掴めない……。本気でこの学園を変える気があるのか。
地金が同性同士の恋愛好きらしいからなぁ……。
「くーらしーなちゃん!」
「!」
「まぁた怖い顔してるよ?」
「色々大変な事があるのかもしれないけど僕等といる時くらいそんな事横においとこうよ」
自分の思考に気を取られていると不意に中島に背中から伸し掛かられる。一度潰されてから顔を上げればふんわりと笑う田中とニヤニヤする中島……。
あー、やっぱこのクラス落ち着くし癒しだ……。
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