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第二章

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「改めて、久しぶりだね。倉科くん」
「えっと、はい。お久しぶりです」

結局、いたたまれない空気のまま俺達はソファの上で起き上がった。
上級生に囲まれたという緊張はもう無くなったが微妙に居心地の悪い気分だ。

「何だ、妙に馴れ馴れしいと思ったらのぶと誠は知り合いだったのか?」

のぶ……、聞きなれない名前はおそらくフリオケ部長のだろう。

「おー、学祭でうちの部活見に来てくれたんだよ」
「あぁ、軽音か。今年はお前の編曲だったか」
「正しくは軽音じゃねぇけどな。自分の学校の部活くらい覚えとけよ生徒会長」
「うるせぇ。軽音部もねぇんだから妙な名前付けずにスタンダードに軽音って付けとけよ」
「イメージが何か違うんだよ」

ヘラヘラと笑う推定ノブ先輩と対照的にまだ少し美姫弥先輩は不機嫌そうで、取りあえず俺はどうしようか悩みジン先輩に視線を送ったが何故か先輩はにやりと笑うだけだった。
……助けてくれないのか。

「確かに客受けは良かったみたいだがアレは改変しすぎだろう」
「まぁそこはご愛嬌だって。それでもヨかっただろ? 俺の」
「キショイ言い方すんな」

学祭で会った時は落ち着いた雰囲気の先輩だと思ったが、もしかしたらノブ先輩(仮)は結構ジン先輩寄りの性格なのかもしれない。美姫弥先輩が完全に遊ばれてるし。

「な、倉科くんもヨかっただろ?」
「そんな……俺の口からはとても……」

そして俺はジン先輩の愛弟子である。
うそ、部活の後輩である。もちろん性格は全然違うがノリだけは良いつもりだ。

「何だよ? あの時はあんな素直だったのに……もう俺のは嫌か?」
「ち、違います!! でも俺、あんなの初めてで……」
「ふぅん?」

ノリだけで演技し照れたように俯けば俺やジン先輩みたいななんちゃって体育会系なんかより少しだけゴツい、けれどしなやかに長い指が顎をすくって上を向かせる。

「!」

先輩をからかうためだけの演技だが予想よりも大分近い位置にあった顔に驚いた。

「で、どうだったの?」
「ひ、ぅ……ヨかったです」

そのまま近づいた唇が耳元で囁く。
背筋に何かがゾクゾクと走って若干声が変になったが、まぁ演技のうちたど思われただろう。むしろどうかそう思ってください。
そろそろ先輩からの突っ込みが入るかと横目で美姫弥先輩の方を見ると、先輩は何故かその場にしゃがみ込んで手で顔面を抑えていた。そしてその傍らには全力でニヤニヤするジン先輩。

え、何事?

「ちょ、先輩どうかしましたか?」
「あー、からかい過ぎたか」

俺から手を離してノブ先輩(仮)がソファから降りた。

「(あ、名前ちゃんと教えてもらわないと……)」

ノブ先輩(仮)は美姫弥先輩の傍まで歩いていくとしゃがみ込んで俺に聞こえない大きさの声で何かを囁いた。瞬間、美姫弥先輩は耳まで真っ赤になった顔でノブ先輩(仮)に殴り掛かった。しかし本気では無いらしくその動きは照れ隠し臭かった。

いったい俺が見てない間に美姫弥先輩とノブ先輩(仮)の間に何が起こったのか……。

「えーと、先輩大丈夫ですか?」
「どの?」

不意に空気だったジン先輩から声がかかる。
絶対に話の流れで分かるハズだがジン先輩を見ればニヤニヤしているのでまた何かからかわれているのだろう。

さしずめ、言いたいことは一人ひとりの名前をちゃんと呼んでみろと言ったところか……。
俺がまだノブ先輩(仮)の名前を知らないのだって知ってそうなのに……。意地悪な人だなぁ……。

するとノブ先輩(仮)は美姫弥先輩から離れて俺の方に向き直った。

「あ、そうか言って無かったか。俺は榛名信慈はるなのぶちか、知っての通りフリーオーケストラ部の部長。絶賛彼女募集中デス!」

バチコーンと擬音がしそうな、もしくは星でも飛んできそうな見事なウィンクで榛名先輩はキラキラと歯を見せて笑って自己紹介をした。
ここでやっと俺は先輩の名前を知ったのだった。

……今まで散々お話をしといてなんだが。

「あ、はい。俺は倉科誠、PK・FR部所属の1年生です。ちなみに彼女はいません」
「え、いないの?」
「あー……。此処に決まった時にフラれました」
「えー!」

榛名先輩が大げさなリアクションで驚く。
そんな以外だろうか……。

「俺からしてみると椎名先輩に彼女がいないことの方が意外なんですけど」
「俺と咲矢は幼稚舎から此処なんだぜ?」

ドカリとまた俺の隣に腰を下ろした椎名先輩に肩を組まれる。

「女の子とか親の仕事関係の奴しか会った事ねぇよ。やだやだ、あんないかにもお嬢様って風で俺達のことも御曹司ってレッテルでしか見れない奴ら」

肩を竦めていう先輩を不思議に思い、俺は何も考えずに思ったことを口にした。

「えー、先輩たちイケメンですし、そんなレッテルよりもカッコイイ男性って目でみられると思うんですけど……」
「……」
「……」
「……」

穴が開くかという程ジッと見られ、そろそろまた居心地が悪くなってきた頃、ようやく先輩が口を開いた。

「ジン、やっぱ俺もコレ欲しい」
「うん、あげない」

椎名先輩が何をどう思ったかは分からないがどうやら俺は気に入られたようだった。




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