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第二章
閑話・秋休みに家族と
しおりを挟む久々に帰った家で、俺は家族にいろんな事を話した。
初めての同室者、優しい先輩、学園祭、関わってしまった事件……。
あまりにもあんまりな学園の事情は話せないけれど、父も母もニコニコと話を聞いてくれる。そして、一番本当のことを話せるのが今大学生の姉だった。
彼女は最近、大切な人を失った。ひどく落ち込んだけれど、今はそれを乗り越え明るく振る舞うことすらできる。強い人だ。
俺はこの姉が大好きだった。
「そんでさ、藤原全然副会長の好意に気が付かねぇの」
「あら、かわいそう。でもそんなものよね。だって藤原君ってノンケでしょ?」
「んー、多分? 考えたこともなさそうな……」
この人になら俺は何でも話せる。し、現状もメールでこまごま報告していた。
それに姉さんはいつでも的確なことを言ってくれる。たった数年早く生まれただけなのに俺はこの人に全幅の信頼を持っていた。
「親衛隊のことについても恋愛感情なんて欠片も考慮してないんでしょうね、藤原君は」
「そうかも……。俺はもう慣れちゃったけど、同性間の恋愛とか俺も前は考えもしなかったしなぁ」
「藤原君、これから大変でしょうね。見目が良いから親衛隊ができるのは時間の問題、副会長からは猛アタックされていて、だからこその嫉妬心も受けなくちゃいけない……」
同情したような口調の中に姉は懐かしそうな色を浮かべていた。もしかしたら何か経験があったのかもしれない。
「でも、親衛隊ができたら少しは楽になると思うんだけど」
「そうかもしれないわね。でも、注意しておくに越したことは無いわ。人気ってのは怖いものよ、恋心なんて更にね」
「そうなの?」
「今回の事件でわかったでしょ? 盲目に誰かを好きになった人たちの集まりで藤原君は危うくリンチにあいかけた」
確かにそうだ。
もしあの時間に合わなかったらと思うと俺は背筋が寒くなる。
「誠も、生徒会の誰だかに殴り掛かられたんでしょ? その生徒会の子は藤原君が好きだったんでしょ?」
姉さんの言葉にハッとした。
もし、あの場にいたのが俺じゃなかったら殴られていたのは村上だった。それどころか校長によって村上は退学させられていたかもしれない。
藤原を好きな人物によって。
恋、とは違うだろうと思うが好意で人の人生が滅茶苦茶になりかけていたのだ。
俺はあらためて自分の行動を褒めてやりたい気分になった。
「人のためって思いながら結局自分のしたいようにしてるのね。人のためなんて口上は免罪符にしかならない。本人もきっと気付いていないだろうけど」
「怖い、な」
誰かを想っているつもりでいつの間にか好きな人を免罪符にしている……。
どちらも救われない。
「救われないのは当事者2人だけじゃないわ。誠だってそんなのに巻き込まれてるのよ?」
巻き込まれてる……。
そう言われてしまえばそうかもしれない。今のところ何か不利益をこうむっていないから気にしていなかったけれど。
「それに、誠の場合は他に問題があるんじゃない?」
「他に?」
「狐面」
「あ」
実家に帰ってきた安心感で忘れていたアレ。
しっかりと俺のサブバックの中に入っている……。というか、出すと存在感がヤバいからしまいっぱなしにしていた。
「先輩に借りただけって言ってたけどそれだけじゃすまなそうよね。それに、目撃者はいっぱいいるだろうし」
「あー……」
確かにこのままで済むとはさすがに俺も思えない。
ジン先輩も便利だからって理由だけであんなものを俺に渡さないだろう。きっと何か企みがあるに違いない、とは思うが何なのかは予想すらたてられないが。
「あと、話は戻るけど藤原君の反対勢力はまだ消えたワケじゃないでしょ? きっとまた藤原君は攻撃される。誠は友達思いだから藤原君を助けるだろうし、そうなくても巻き込まれる可能性は大ね。前例作っちゃったから」
さすがお姉さま。
よく分かっていらっしゃる。
結局俺はこの喜劇から逃れられないのだ。
「喜劇なら良いのよ。大事なのは悲劇にしないこと。そのために誠は動くんでしょう?」
「……うん」
ポンポンと頭を撫でる手が心地いい。
そのまま姉さんは俺を抱きしめた。
「こうやってね、全身預けられるような相手がいると楽だよ。先輩でも同級生でも、先生でもいいから信頼できる人を見つけな。そしたらきっと何があっても頑張れるから」
「……うん」
俺にそんな人ができるだろうか?
先輩、同級生、友達はいっぱいいる。
先生だって頼れる。
けれど、全身預けられるような人って……。
誰かの特別。
俺の特別。
いったい誰だろう?
End
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