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第一章
番外編『とある3人と前期の委員長』ss3本
しおりを挟む~ある日の図書館~
倉科誠。よくうちの図書館を利用する1年A組のクラス委員だ。
彼は今まで特に目立つ事もなく成績上位者の中でひっそりとしていた。
人柄も良く特定の友人はいないが誰とでも仲良く出来る優良生。
そんな彼に夏休みが終わって異変がおきた。いや、彼自身には何の変化も無いのかもしれない。彼を取り巻く環境が変わったのだ。
「何見てんだ?」
僕と同じ図書委員の山田が俺の視線に気付いたらしい。僕は視線だけで彼の質問に答えた。
「あぁ、倉科か」
「久しぶりに来てるなって思って」
「アハ、そりゃ夏休み後だしな」
特に綺麗というワケでは無いけど決して散らかってはいない顔。身長だって低くないしこんな学校にいなきゃそれなりにモテたんだろうな、と何度か見るうちに思う様になった。最初は特に気にならなかったのに、彼の人当たりの良さに触れているとただの受付図書委員と利用者の関係でしかないのに何だか親近感が湧いてしまう。
そんな彼に最近ルームメートができた。そのルームメート、明るく元気で可愛いらしいが、同時にとんだトラブルメーカーらしい。聞いた話じゃ倉科もそのトラブルに巻き込まれたらしいし、苦労してるなぁって思う。
なのに彼はそのルームメートともそれなりの付き合いをし、部活にも励み、こうして図書館で勉強もしている。
パワフルに性格では無いのは知ってるし目立ちたがりでも無い彼……。
何で彼はあんなにも誰にでも優しいんだろう……。
「ん?あいつ寝てねぇか?」
「え、マジで?」
山田に言われ彼を見ると確かに倉科は寝ていた。
さっきは気付かなかったが頬杖をついたまま穏やかな表情で彼は寝ている。
「彼、最近大変だしね、仕方ないよ」
「ん?何か知ってんの?」
山田が不思議そうに俺を見る。
「んー……まぁ、僕。倉科の隠れファンだし」
「は?アレの?」
僕の発言に山田はビックリして倉科を指差す。
ちょ、おま……寝てるとは言えマナーとしてソレはどうよ?
「親衛隊じゃ無いけどワリと地味にたくさんいるよ?」
「マジでか……」
「マジでだ。絶対に迷惑かけないが暗黙の了解で騒がれそうな奴と一緒にいたら意図的に注目させないようにするって規約。ちなみに他の親衛隊と掛け持ちも可」
「へー……」
山田は「アレにね~……」などと呟いて倉科を眺めた。
まぁ、倉科の魅力は分かる奴には分かるんだよ。
外見が綺麗なワケでもカッコいいワケでもない。
ただ、助けになりたい。彼が平穏であれ、と願ってしまう何かがあるんだ。
それは彼の人柄か、それとも……。
・・・
~放課後の出会い~
それは俺がこの学園に入って間もない5月の頃……。
6月の体育祭に向けてクラスから選抜された選手が放課後に残ってリレーの練習をしたり、応援合戦の衣装作りに奔走したりする中、俺も例に漏れず放課後クラス委員として体育祭実行委員会に提出する書類を作るために1のAの教室に残っていた。
「委員長ー、帽子できましたー!」
「おー…この紙に図付きで説明書いといてくれ」
「了か…『ピンポンパンポン♪間も無く生徒の下校門限の時刻です。教室に残っている生徒は…』あ、やべ…』
「しょうがないね、今日はここまで」
放送に従いクラスメイト達はガヤガヤと片付けを始めた。
全く、全寮制なんだから下校時間ぐらいどうにかなると思うんだけど……。ちなみに現在7時ちょい前くらい。だいたい、部活生はいつももっと遅くまでやっていると思うのだが……。
「委員長ー、寮まで一緒に行こー」
「あ、悪い。実行委員会に書類提出してくから先行っててー」
「分かったー」
・・・
そんなこんなで7時15分。
流石にこの時間となると外も暗く誰か一人くらいついて来てもらえば良かったかもなぁ、なんて思えてくる。ま、今更そんな事思ったってどうしようもないんだけれど…。
そんな時、ガサリと音がした。
「?」
いくら山奥の学校だからって動物なんかいるのか……?
いてもタヌキとかの小動物か………人間?
「誰かいるんですか?」
音がした方の茂みに歩み寄り覗き込んでみると……。
「っ!」
「ありゃ…これはまた…」
そこにいたのは赤い髪が印象的な少年で、誰かに殴られたように頬が赤く、所々に擦り傷や切り傷を作っていた。
さしずめ喧嘩に負けるかして寮にも帰るに帰れなくなったんだろう……。
「見せ物じゃねぇよ…失せろ」
「あー…えっと、先輩ですよね?」
彼の顔には見覚えが無いのでとりあえず他学年なんだろう。
「だから何だ?」
警戒心丸出しで威嚇してくる先輩に手負いの獣ってきっとこんなんなんだろうな……と俺は苦笑いをこぼした。
「打撲と切り傷、擦り傷ですねー…」
先輩を無視して俺は自分のカバンをゴソゴソ漁った。
「お前…何して…?」
「はい、消毒液とバンソーコーとガーゼとテープです」
「は…?」
「流石にちゃんと寮に帰って冷やして下さいね、発見しちゃった身としては後味が悪いので…」
そう言って踵を返そうとした俺に先輩が焦るのが分かった。
まぁ無視するが、俺は俺が出来る最善の行動をしたつもりだ。文句は言わせん。
「お前、何て言うんだ?」
「さぁ?名乗る程の人間じゃありませんよ」
後でお礼参りとかされても恐いしな。
「ちょ、ま……!」
何とか引き留めようとする先輩を無視して結局俺は寮に帰った。
以来、一度も赤い髪の少年を見たことは無かった。
・・・
~裏での動き~
「倉科誠。1年A組の学級委員でPK・FR部所属、高校からの外部生、誕生日5月23日、身長170cm、体重56kg、容姿は平凡だが人望あり……」
部室で一番豪華な椅子と机にふんぞり返り報告書を差し出した俺を見下す男……報道部部長はその傲慢さを隠す事もなく言い放った。
「お前バカか? こんなはした金にもならん様な情報じゃなくてもっと深い所探ってこいよ。弱みとか醜聞とか、話題の中心付近にいるクセに悪い噂がたたないワケとかさぁ」
「……はい」
そうして俺は何ら怨みは無いが報道部の部員として渦中の転入生の同室であり様々な事件に関わっているのに不自然なまでに名前の上がらない彼の情報を調べる事になったのだ。
報道部とは表の顔で、本業は情報屋みたいなモノだ。
一人で活動している学内の情報屋なんてものもいるがソレとは別モノ。
報道部全体が探偵社のようなモノで情報と交換で情報を売っている。まれに部長に身体で払ってる奴もいるらしいが詳細は知らない。そしてその中から取捨選択をし、部長の面白いと思ったモノを機関誌にして購買や昇降口に置いている。
部員である俺はその手駒というワケで部のためにこうしてせっせと蟻の如く働くのだ。
「(さて、どうしようか)」
倉科誠と言えば先程も上げたように顔が平凡という以外は全くケチの付けようが優良生だ。平凡にケチを付けるのも変な話だが。
他人に聞いても部長の喜ぶような情報は出ないだろう……なら、多少の危険を冒しても本人に接触した方が良いだろう。
彼のファンの一人である図書委員の友人に相談してみた所、あっさりこんな解答が返ってきた。
「“報道部の者だが取材させてくれないか?”って言ったらきっとその場で応じてくれるよ?」
ふぅん? とはその時の俺の反応で、そのアドバイスに従い俺は金曜の放課後に期待半分に彼がいるらしい図書館へて赴いた。
「はじめまして、倉科くん」
アポ無しで話しかけてみると彼は少し驚いたようだが爽やかな笑顔を返してくれた。
「突然で悪いんだけど、報道部の取材に答えてもらえないかな?」
「構いませんよ。此処じゃ他の利用者の邪魔になりますし場所を変えましょうか……」
何ともアッサリと承諾され拍子抜けだが本当の仕事はココからだ……。
場所を変え、図書館の三階にある個室の一つに入った。
「インタビューなんて初めてだからちょっと緊張します。部の取材ですか?」
ニコニコしながらとぼけるこの一年生はイマイチ考えが読めない。
「(いくら外部生でも報道部の実態を知らないワケでは無いだろう……。本当に疚しい所が無いのか、かわす自信があるのか……)」
「で、何を知りたいんですか?」
「全て」
「はい?」
「貴方の全てが知りたい」
こちらのペースへ持ち込むためににわざと意味深な台詞を吐く。
少しでも相手が動揺したらもう此方のモノ。
顔がイイのは自負している。ツラで馬鹿なネコを騙すなんてお手の物、常套手段だ。
しかし、中々目論見通りにははいかない。
倉科は少し苦笑いしただけだった。
「あはは、俺の情報なんて大したことありませんよ」
「それでも仕事ですから」
そう、仕事だ。
仕事じゃなきゃこんな悪趣味かつめんどくさい事はしない。
「基本的な情報はこちらで既に調べてありますから省きます。質問するので簡単に答えて下さい」
「はい」
正直、この一年生の余裕な態度が気に食わなかった。
……一通りの質問を終え、俺はますます苛ついた。
「……ほんと、嫌味なくらい優等生ですね」
成績は常に上位、50m走は6秒代、学級委員で人望がある。
事前の調査と寸分の違いもない。
「そんなことありませんよ。先輩方に比べたらまだまだ若輩者ですし、考えが足りない事も多々あります」
「……そーいう対応がそうなんだよ」
side 倉科
突然、先輩の雰囲気が変わった。
それまでの事務的な態度が崩れいっきにめんどくさそうな表情に変わった。
「実の所を言うとですねぇ、部長にあんたの弱味を掴んでこいとか言われて来たんですよ」
「それはまた……大変そうですね」
お疲れさまです、と声をかけると先輩は不機嫌に俺を睨んだ。
「動揺くらいしろよ」
「そんなこと言われましても……弱味なんてすぐに思い付きませんし」
「変な性癖とかねぇの?」
「ノンケですから」
30分以上話して収穫が0だったせいか先輩は疲れた顔で態度も投げやりになった。
これが素なのか警戒を解く演技なのかは分からないが……。しかし、報道部に刺客を送られるなんて……藤原効果だろうか。
「じゃあさ、同室の藤原くんとはただのトモダチ?」
「まぁ、クラスメイトで友人ですね」
「ふぅん? お前さ、実は生徒会長と仲良しだろ」
食堂で話してたんだろ、と言われてしまえばヘタな否定はできない。
美姫弥先輩と話をする仲なのは確かだ。
「まぁ、お話をした事はありますよ。藤原が生徒会と仲が良いのは周知ですよね、その関係です」
当たり障りのない解答はこんなものだろうか。
正直、友人関係は騒がれると痛い所が多いから聞かれたくない。イチイチかわすのも面倒なのだ。
「同室が嫌な意味で有名人って大変じゃない?」
「まぁ、そうですね……。でも藤原は悪い奴じゃないので嫌じゃありませんよ」
「本当に?」
疑いの眼差しを向けてくる先輩に笑い返す。
俺に疚し気持ちが無いのは確かだ。
「はい、それに藤原は多分大丈夫だと思ってますし」
「それは?」
「今は親衛隊に目を付けられてる段階ですけど、藤原って元々この学園にウケそうな顔してるじゃないですか、性格も悪くないしそのうち馴染む思いますよ。実際、クラスじゃ上手くやってますし。そのうち藤原の親衛隊も出来るんじゃないですか?」
説明してみると先輩は藤原の顔を思い出しているのか少し目をつむった。
睫毛長いなぁ……とか思ってると先輩は目を開けて話し出した。
「確かに、顔はイイな」
「何とかなると思うんですよねー」
世間話のように言えることを伝える。
言え無いことさえ言わなければ良いのだ。
ウソさえつかなければ粗は出ない……。
そうして適当に近況等を話しているといつの間にか図書館の閉館時刻になった。
「インタビューはこんなものでいいですか?」
「あぁ。時間を採らせたな」
「いえ、大丈夫です」
ドアを開け先に先輩を通すと手を突っ込んだポケットの中で何かを操作しているのが見えた。どうやら、今の会話は全て録音されていたらしい。
先輩と別れてから俺はため息をついた。
大丈夫、ボロは出してない。
誰かに不利な情報は一切言ってないハズ……。
夕飯に間に合うために、俺は小走りで食堂へ向かった。
END
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