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第一章

16 二日目

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公演も終わりまた1人でフラフラと校内を歩きまわる。

そーいえばクラスメイトの参加してるクラブ展に見に来てと誘われていたし、それに行ってみようかと文化部のクラブ棟へと足を向けていた。
階段を下りて露店の売り文句を聞き流しつつ渡り廊下を歩く。階段からの合流に気をつけつつ角を曲がる。

「いたっ……!」

しまった、階段からの合流に気をつけてたらまさかの前からの人影に気づかなかった。

「すみません……」
「いえ、こちらこそ。大丈夫ですか?」

尻餅をついた相手に手を差し伸べるとその人は苦笑いしながら俺の手を取った。
その顔はどこか見覚えがあり思わずじっと見てしまった。

「あれ、どこかでお会いしたことが……」

我ながらヘタなナンパみたいな台詞だが他に表現しようがないので不審者扱い覚悟で聞いてみる。

「あ、倉科くんだよね? 1-Aの」
「あの、そうなんですが……えーと」
「僕は2-Bの図書委員でよくカウンターにいるから、それで見覚えがあるんじゃないかな?」

パシパシと制服をはたきながら先輩はヘラリと笑った。
その柔らかい笑みに何んとなく俺もそーだったんですか、と笑い返した。

「あ、じゃあホントぶつかってしまいすみませんでした」
「いえ、俺も前をちゃんと見てませんでしたから。おあいこです」

どうやら先輩は急いでいたらしくまたパタパタと走って行った。
なんだかよくは分からないけど癒し系な人だなぁ……と見送る。もし今度図書館で見かけたら話しかけてみようかと考えながら俺もまたクラブ棟へと歩き出した。
今度は気をつけながら角を曲がりしばらく歩くとクラブ棟についた。どこに呼ばれていたか思い出しながらまたフラフラと部室を廊下から覗いてると一つの部室が目に入った。

[フリーオーケストラ]

フリーオーケストラ、本家オーケストラ部とはまた違う音楽系のクラブだ。
弦でも吹奏でもなんでもありな楽器で思い思いにセッションするという自由なクラブ。軽音部に近い気もするがバンドを組んでいるというワケでもないらしい。ローズガーデンクラブやパル部と同じく私学特有の弱小趣味クラブだ。
ここに所属しているクラスメイトの上山によると今は先輩がアレンジしたのを皆で弾くのが流行ってるらしい。

で、今回は音楽喫茶で参加してるらしい。

「上山いる~?」
「あ、委員長!!」

顔を出すと上山は小走りで走ってきたちなみに手にはカスタネット。

「来てくれたんだ。今、次の曲との間だからちょうどよかった。聞いてってよ」

即席カウンター席に案内され上山はマスターっぽい人に「アレ出してください」と言ってステージに上がっていった。マジでギリギリに入ってしまったらしい。
アレってなんだアレって……。

「ウエルカムドリンクだよ、君はお呼ばれだからタダみたいな」

ッフ、と笑いながらオレンジ色の飲み物をグラスでだしたのは身長が180はありそうなイケメンだった。たぶん先輩。

「君が噂の倉科くん?」
「あ、はい……そうですけど、噂のって?」
「あぁ、よく上山が有能な学級委員がいるって話してくれるからさ……」

上山の奴何勝手によく分かんない宣伝言いふらしてんだよ……。
恥ずかしいじゃねえか……。

「えっと、先輩もフリオケの……」
「部長だよ。三年三年」

話をそらそうとしたらまさかの事態2。部長さんでしたか。

「アレンジには自信があるから楽しんできなよ、上山の友達ならサービスするよ」
「はい」
「ちなみにソレはカシスとオレンジのソーダ」

ストローに口をつけると絶妙な甘みと酸味がした。
見た目も色鮮やかで爽やか。女子みたいだと姉に揶揄されるが実はこの手のモノが好みのドンピシャだったりする。

「コレ、おいしいです」
「そうか。おかわり欲しかったら言ってくれ、つぐから」
「ありがとうございます」

ヘラリと笑うとだんだんと証明が落ちた。
そしてステージがライトアップされラフな衣装の部員が位置につく。

ドラムがリズムを作りピアノがメロディをたどる。
パーカッションが全体を盛り上げる。
ベース、ギターはフラメンコだろうか……。
サックスは多分テナー?

どこの国の民族楽器だ、ってのも混ざっていて楽器の種類はかなり多彩。なのに、全体はしっかりとまとまっていてアレンジした人のハイセンスさがうかがえる。
生憎知らない曲で、失礼だと思いつつ原曲にはほとんど興味がわかなかった。出来れば同じ人のアレンジをもっと聞きたい感じ。

「この曲……先輩が?」
「あぁ、気合い入れて作ったせいで原曲薄くなったがな。まぁそこはご愛敬ってことで」

部長さんはちゃめっけたっぷりにウインクしてまたステージを見た。
俺もそれに習いステージに目をやる。ちなみにさっきカスタネットを持っていた上山はパーカッションで色々な打楽器を操っていた。

「パーカッションもかっこいいだろ?」
「はい、凄いです……」

始まってまだ数分しかたっていないが完全に俺はフリオケの演奏に魅せられていた。

「全体的に良いデキだが今年のパーカッションはかなり多彩だからいろんな楽器任せたんだよ、無茶ぶりしすぎたかと思ったが上山の奴完全にモノにしやがった。アイツはすげぇよ、まさかバイロンまで使いこなすとはな……」

バイロン……アイリッシュ音楽とかの太鼓だっけ? 名前しか知らないけど。
誇らしげに話す部長に俺もクラスメイトとして嬉しくなった。

「で、話は変わるが」
「はい?」
「お前、王様やってた?」

バレた。
あの短いラスト数分の台詞で……。どうせバレねぇと思って名前伏せてたのに早速バレた。

「……よく、わかりましたね」
「あぁ、やっぱりか。何となく聞き覚えのある声だとは思ったが……」

その何となくの聞き覚えで当てられてしまうなんて……。
問題はねぇけど部長すげぇ。

「倉科結構良い声してるよな、今度カラオケいかねぇか?」
「えー……ナンパですか?」
「そ、で、歌上手かったらフリオケに勧誘に変わる。今のところはお近づきにこれをもらっといてくれ」

そう言って渡されたのは部長さんの名刺。
とりあえずソレは胸ポケットにしまって話を続ける。

「はぁ、でも俺はPK・FKの部員なんで鞍替えはしませんよ?」
「あぁ、ジンのとこのか」
「……」

何であの人の名前は大概の先輩に通じるんだ……。
別にこの学校じゃ留学生くらい珍しくも何ともないだろ……?

顔か、顔が良いからなのか……。

「ジンのとこの後輩じゃ仕方ねぇか。まぁそれはそれで連絡はしろよ?」
「はーい」

素直に答えると頭をクシャってされた。
年上って何故かコレやりたがるよな。



・・・

学祭二日目。

一応教室に集まってSHRはしたが10時の公演までは自由であり俺も特に約束などがあるワケではなくフリー。藤原はまた生徒会の方でにいるらしくで、またそこら辺をフラついていようかと教室を出ようとした所を今日は田中に声をかけられた。

田中も午前はフリーという事で俺に声をかけたとの事で。
どうやら俺は周りから暇人だと思われているらしい。まぁ間違っては無いんだけど……。

「で、何処か行きたいとこある?」
「実は今日寝坊しちゃって……せっかくの学祭だけど模擬店で話でもしない?」
「了解、もし時間があったらどっか回ればいいし。無かったら無かったで田中と喋ってるのは楽しいから問題はないよ」

こうして適当な模擬店に入って朝食をとる事にした。
俺はもともと朝はあまり食べないほうだったがそのせいか目大体三時限目にはお腹が減っている。別に食べられないワケではなくめんどくさいという理由なので俺も軽食のメニューから注文するものを考える。

「田中、決めた?」
「んー、フレンチトーストとホットケーキで悩み中なんだけど……」
「あ、じゃあ俺がフレンチトーストにするから田中ホットケーキにする? そうすりゃ両方食べれるぜ?」
「あ、それ良いね。でも良いの?」
「俺はもともとフレンチトーストにするつもりだったから。ホットケーキも好きだし」

会計をすませ番号札を受け取り手近なテーブルに座る。

「そういえばさ、昨日の公演は大成功だったね」
「あぁ、中島にあわせた照明のアドリブとかも上手かったしな」
「それもそうだけど結構役者人気があったんだよね。王子の原田くんとかは勿論だけど今回ので雪華くんの人気も上がったみたい。親衛隊が出来るのも時間の問題じゃないかな」

親衛隊、その言葉を受けて俺はやっぱりと思う。
藤原はもともとそういう素質を持っていた。ただ入りが悪かっただけだ。

親衛隊が出来てもきっと藤原は変わらない。
それは人として好ましいけど同室としては懸念の対象だ。

「穏健派だと良いな」
「そーだねー。まぁ雪華くんなら何か大丈夫そうだけど」

多分俺の考えてることとは違うことを田中は考えているのだろうけまぁ同じ事を考えていたことにしよう。
田中が心配しているのは藤原のこと。対して俺が心配しているのは自分自身のこと。
こういうトコで本当の人の良さが出るよな。

「あ、実は雪華くんだけじゃなくて委員長も人気あったんだよ?」
「俺?」
「うん、最後の声はいったい誰なんだ、って波紋を呼んでるの。まぁまだ委員長だって特定はされてないけど」
「出来れば一生特定されないでくれ」

あ、フリオケの部長にバレてんだった。

「まぁ委員長も何かあっても大丈夫そうだよね」
「あぁ、まぁそうだな」

弱くはないと自負しているつもりだ。
田中が藤原に心配していたような事は俺には適用しないだろう。
そんなことを考えていると注文したものが運ばれてきた。

「フレンチトーストとホットケーキ、紅茶2つです。ご注文は以上でしょうか?」
「はい」
「あ、あとこちらはサービスです」

そうして出されたのは二枚のクッキー。
運んできた生徒は田中にニッコリ微笑んで戻っていった。

「おー、良かったな」
「うん」

多分彼は田中のファンなのだろう。

「そういやお前も親衛隊持ちだったよな」
「ん、一応ね。問題はないし僕は大丈夫だよ。ときどき助けてくれるし。荷物運んでる時とか」

ホットケーキを口に運びながら田中が答える。田中みたいな美少年タイプは意外と親衛隊の恩恵を受けていたりする。ファンが集まることによって互いに牽制しあいむしろ危険を遠ざけているのだ。

「まぁ出来たら本人に報告するだろうし大丈夫じゃない?」
「それもそうか」

とりあえずは様子見。
結局、現段階で出来ることなんて無いに等しいのだ。






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