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第一章
13:学園祭1日目
しおりを挟む親衛隊と藤原の事件も無事解決し、とうとう俺達は学園祭当日を迎えた。
浮き足立った雰囲気と模擬店・バザーのテントが校門から校舎にかけての道に設営されているので生徒も教員も学園祭という雰囲気にのまれていた。
かく言う俺もこの日は楽しみにしていたし、あの事件の憂鬱さも吹っ切れて学園祭を楽しもうと考えていた。
俺達のクラスの劇は講堂にて2時から一回きりだしそれまでは自由行動だからジン先輩と他HRや模擬店を巡ろうと計画している。ただ、ジン先輩を誘った時にジン先輩がやけにニヤニヤと笑っていた事がやたら気になる。いったいあの人は何を企んでいるのか……。
まぁ、あの人の思考を俺が読むなんて一生出来ない事の一つだろうから気にしないけどね。
「(さて、待ち合わせ場所に行こうか……)」
待ち合わせ場所であるローズガーデン倶楽部の薔薇園。いったい男子校でこの倶楽部はどれほどの需要があるのか甚だ疑問だが、園芸部の顧問の趣味だろう。所属人数はうちの部よりは遥かに多い。薔薇園につくとそこにジン先輩はいなかった。
そして代わりにいたのは……。
「美姫弥先輩……?」
彼の生徒会長だった。
何故彼が此処にいるのだろうか。
学園祭当日なんて生徒会も忙しいだろうに……。
「あぁ、来たな。悪いがジンの奴から伝言だ。“わり、用事できた(汗)”だそうだ」
「それはまた、はた迷惑な……。忙しいでしょうに(汗)まで伝えて下さりありがとうございます」
呆れた顔で俺がそう言うと美姫弥先輩は苦笑いして自分の座っていたベンチの隣を叩いた。とりあえず座れという事だろう。
「確かに忙しいが、迷惑じゃあなかったぜ?」
「?」
「この時間帯は俺が本日唯一自由行動を言い渡されてる時間だからな」
うわ、それじゃジン先輩は忙しい美姫弥先輩の数少ない自由時間を奪ったのか……。
何て人だ。
「……。重ね重ね本当に申し訳ありません、今度ジン先輩に謝りに行かせます」
「ばーか、早とちりしてんじゃねぇよ。数少ない自由時間だからこそお前と会えて良かったんだよ」
「え……」
「どーせお前とは表だって学園祭なんか参加できねぇんだからこういう時にぐらいしか会えねぇだろ」
うわぁ……。
美姫弥先輩なんて男前発言してるんだろ。
俺じゃなくてどこぞのお嬢さん方に言えば一発でオトせそう。
「あと30分」
「?」
「……いや、あと一時間だけ此処にいろ。そしたら俺は仕事に戻るから……」
「はい」
どうやら美姫弥先輩は相当お疲れらしいコトンと俺の肩にもたれ掛かるとすぐに目を閉じてしまった。まぁ50分後には起こしてあげよう。
その後はどうしようかなぁ……。
・・・
美姫弥視点
「ん……。おぅ…?」
誠と薔薇園で逢い引きをし、そのまま誠の肩で仮眠を取ったのだがどうやらかなりぐっすり眠れたらしく目を覚ますと頭が大分すっきりしていた。時計を見ると後10分で自由時間の終わりだった。
かなり良いタイミングで起きたな。
流石俺。と、考えてたのだが。
左肩に掛かる重み。どうやら誠も眠ってしまったようで俺に体重を預けている。何となく誠をずらして膝枕の形にしてみた。
こうまじまじと誠の顔を見るのは初めて会った時以来だろうか。
平凡なのは相変わらずだが散らかってはいない。
しかしこうして見ると睫毛は意外と長かったりもする。開いてる時より閉じてる時の方が長く見えるもんだと思いつつも俺は手を伸ばした。
さわさわと睫毛を触りそのまま誠の顔をペタペタと触ってみる。
ここまで勝手に触るのもどうかとも思ったがここまで勝手に触られて起きない誠も悪い。
そう決め付け見た目より大分サラサラした髪を撫でてそっと唇に触れてみた。
ふにふにと柔らかくそこは薄く色付いている。
「(……少しぐらいいいんじゃないか)」
なんて、邪な考えがよぎり俺は即座にソレを打ち消した。
全く、可愛い後輩相手に何を考えてるんだ俺は。しかしまぁ、親愛の印ぐらいなら良いだろう。
そうして軽いリップ音をたてて俺は誠の額の上にキスを落とした。
「ぅん………? せんぱ…?」
ゆっくりとキスを落としたばかりの瞼を上げ誠は二三度瞬きをした。
「そろそろ時間だから」
「あぁ、そうですね……失礼します」
まだ眠いのかふらふらとした足取りで誠は薔薇園を後にした。
大丈夫だろうか……。こけたりしないか心配だけれど、誠だってPK・FR部の部員なんだしまぁ大丈夫だろう……。
「で、お前はいつまでソコにいるんだ?」
「あ、バレてました?」
薔薇の垣根の裏から出てきたのは誠のクラスメイトで1年御三家の一人、中島幸樹だった。
「当たり前だ。覗きとはイイ趣味してんじゃねぇか」
「そーっスか?でも、今時白雪姫ごっこもどうかと思いますよ?」
「ハッ、てめえは小姑かよ」
「ははっ、まぁ継母ですね。まぁ委員長は姫じゃなくて副監督だし、姫ってガラでもありませんけどねー」
飄々とした様子でニヤニヤと笑う中島。
特に役職や役割があるワケではないため何をするのも自由なのだろう。その上で、人望があるのだからこの学園に置いてはかなり動きやすい立場だ。
学園祭の日に自分のクラスの委員長と生徒会長をストーカーできる程度には。
そんなに心配か、とかお前はアイツの何なんだとか言いたいことは色々あるが口数を増やしてやるのも癪だった。
「委員長泣かせたら、俺達が許しませんから。なんだかんだで俺達クラス一同、委員長の事大好きなんで」
「ハッ、上等だ」
泣かせる気なんて更々ねぇよ。
砂吐く程可愛がって大事に大事に融けるほど甘やかして、最後は俺で窒息死させたいぐらいなんだ。
「男の嫉妬は醜いぜ?」
「……知ってます」
そう吐き捨てると中島は踵を返し誠の後を追った。
さて、俺も仕事に戻るか。
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