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第一章
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しおりを挟む「雪華がイジメを受けただとっ!?」
藤原に大した怪我はなく、沢村先輩と話をつけこの事件を終わりにしようとしたのに生徒会経由で、この事件は校長に伝わり俺達関係者は全員校長室へと呼び出された。言わずもがな沢村先輩のせいだ。
校長は藤原の無事を確認すると村上へと鋭い視線を向けた。
ま、叔父としては大事な預かりものである甥に手を出されたんじゃ怒るわな。
村上はビクリと身を堅くしたがすぐに真っ直ぐに校長を見返した。
「(覚悟は出来てるといった表情だな……)」
全く、カッコいいクラスメイトだ。
「君が主犯かね」
校長の鋭い視線が村上を射抜く。
「はい、僕が一人でやりました」
「っおい!」
「藤原君、黙ってくれ」
村上の言葉に異を唱えようと藤原が声を荒げたが村上はソレを遮った。
「僕が、一人でやりました」
同じ言葉を繰り返す。
彼は仲間の罪も一人で被ろうとしているのだ。ソレが、“親衛隊”という組織。憧れの誰かへの想いだけではない、組織への忠誠心の様なものがあるようだ。
「ほう? 一人で? 本当に一人か? 仲間がいたのだろう?」
「いえ、僕が一人で全てやりました」
校長の言及にも村上は怯まずに答える。
俺は何も言わずにただ黙ってその様子を見ていた。
藤原が騒ぐのを美姫弥先輩が止めて室内は嫌な沈黙に包まれる。
「……。そうか、一人でやったのか」
そう呟くと校長はニヤリと笑った。
嫌な笑いだ。
「今回は生徒会や同室の者のお陰で事なきを得たが、そうでなければ大事になっていただろう。君はその罰を一人で受けるというのだね」
「はい」
「なら、責任を取って君は退学という事に……」
「叔父さんっ!!」
校長の言葉にとうとう藤原が口を出した。酷く焦った声音だ。
「そんなっ……モガッ」
その藤原の口を美姫弥先輩が無理矢理ふさいだ。
「校長、どうぞ続けて下さい」
「……そうか」
先輩は藤原に「アイツの覚悟を無駄にするな」と囁く。藤原は悔しそうに顔を歪めたがソレ以上は何も出来ないようだった。
「村上くん、君は退学だ」
校長の声が無慈悲に響く。
村上と藤原、そして美姫弥先輩が辛そうに顔を歪めた。
「……」
全く、こういうのは俺のガラじゃないんだけどな……。
「校長先生、少しよろしいでしょうか」
俺は軽く手を挙げ真っ直ぐ校長を見た。
ロマンスグレーの講堂のステージ上に立つ威厳ある校長はソコにはおらず、身内可愛さに正しさを失った醜悪な男がそこにいた。
俺の突然の行動は室内の誰にも予想されていなかったらしい。
全員が驚いた表情で俺を見た。
「何だね、倉科くん」
「先生は今、イジメの責任をとらせるため村上くんに退学を宣告しましたね?」
「そうだが?」
「それは不可能では無いでしょうか?」
「っ!」
はっきりとそう言った俺に校長の目が軽く見開かれる。
村上が焦って俺に何か言おうとしたが俺はヘラリと笑って口許に指を当て黙っていてとジェスチャーした。
「僕はこの学園で既に何人か退学になっている事は知っています。しかし、ソレは今までイジメられていた側だったと聞いています」
「……」
「校長先生、先生は今までイジメた側を罰した事がありますか? イジメられた側に何らかのケアや、対策を講じましたか?」
「……」
俺の言及に校長は何も言わない。当然だ。実際にイジメに対してやってきたことなど無いのだから。そして、俺は特待生だった。
俺への融資の管轄は校長ではなく理事長。村上にした様な有無を言わせずに退学、などという対応はできない。一族経営であるため校長と理事長に大きな権限の違いがあるかと言えばそうでも無いだろうが、現場の指揮官である校長の不正を理事長にタレ込むこと程度ならできる。理事長がどう判断するかは分からないが、校長の顔色があまり良くない辺りそこまで仲が良いというワケでもないのだろう。
さっきまでの村上への高圧的な態度は子ども一人どうとでもできるという所だろうか。特に村上は実家が大きいとか、寄付金が多いとかそういう枠の生徒でもないのだろう。
せめて実家が大きい生徒会の誰かが学校法人に働きかけてくれたら事態が変わると思うがそこまでする気はないのだろう。まぁ所詮は他人事だし、藤原を虐めようとしたヤツが成敗されるのだから順当と思っているのだろう。
多少嫌そうな美姫弥先輩にも村上だけを助ける義理は無い。
「答えられませんか。何もしてこなかった、と受け取ってもよろしいでしょうか?」
「……」
「肯定と受け取ります」
不安そうな表情の村上と藤原、真剣な表情の美姫弥先輩。先輩は俺がどうするつもりなのか見ているのだろう。
皆の視線は俺と校長に突き刺さり事の成り行きを見守る。
「だとしたら何だね? まさか罰せられるべき罪人を野放しにしろと?」
注目を浴びる中、校長が俺を睨みながら口元だけ嘲る様に笑う。
「(罪人ね。演技がかったクサい言い回しだ)」
俺はこの学園のこういう所が嫌いだ。
舞台か何かだとでも思っているのだろうか。俺達生徒は此処で生きて生活している個であるのに、生徒会役員だの御三家だの、罪人だの。そういう“役”の肩書ばかり並べ立てて鬱陶しい。
「そうは言っていません。確かに村上は罰を受けるべき“生徒”ですが、退学になるべきではありません」
そちらが“役柄”を押し通すならば、ソレに合わせてやる。
しかし、それは“罪人”なんて非現実的で空虚なものではないハズだ。
「彼を退学にするなら今までイジメを行ってきた全ての生徒も退学になるべきですし、この先誰かをイジメた誰かもそうされるべきです」
“生徒”を強調して言う。
校長が校長である限り生徒の事を“罪人”だなんて言うべきじゃない。個人をふわふわとした世界観の奇妙なキャラクターに落とし込むなんて許さない。
それに今まで何かやらかしてきたであろう親衛隊に大企業の御曹司がいただなんて珍しい話でも無いだろう。そんな生徒達を校長がちゃんと罰するかなんてかなり怪しい。
「……」
俺の質問に校長は全て沈黙で答える。
全く、校長ともあろう人がたかが一学生に言い負かされるなよ。
「出来ないなら、今回の件だけを大きく取り上げ村上くんを退学にするべきでは無いと思います。いち生徒でしかない僕が“先生”に口を出すのは烏滸がましいのですが、“校長”として“先生”が取るべき行動は怒りに任せ彼を退学にする事ではなく、“校長”として以後この様な事件を無くすために尽力する事ではないでしょうか?」
相手が悪かった。自分の立場が弱かった。
そんな理由で、人ひとりの人生が左右されるなど堪ったもんじゃない。俺達は十代の学生なのだ。弱いから、と蹂躙されるのを良しとしたら何もかもを奪われたって文句が言えなくなってしまう。
公平性を欠いた上の立場の奴に好き勝手などされて堪るか。
「可愛い甥っ子が巻き込まれて怒る気持ちはわかりますが、“教員”という仕事をしている以上、身内へのみの特別な待遇はいかがなものかと思います。今一度、村上くんへの処罰を考え直して下さい。たかが一生徒に“校長先生”が言われるまでも無い事ですが……」
うはー……疲れた。
こんなマシンガントークもう二度としたくないわ。
「(つか、“校長”と“先生”何回入れたっけ?)」
クラスメイトを雑に罪人なんて言われてムカついたから仕方が無いのだけども。
「叔父さん……、返事、しねぇの?」
「藤原、校長先生が“校長”として俺達をここに呼んだ以上、身内の名で呼んじゃダメだよ」
「え……あ、うん。分かった。校長先生、返事はなさらないのですか?」
え、何故に謙譲語?
フツーに敬語で良いと思うけど……。
「……はぁ。そうだな、確かに私は怒りに我を忘れていた」
深く溜め息を吐いて校長は自嘲の笑みを浮かべた。
「冷静な判断をありがとう」
「では、村上くんを退学にはしないのですね?」
「あぁ。今までの処罰を参考に、規則に則った対応をしよう」
その言葉に俺は村上を見て微笑んだ。
村上は泣き出しそうな表情で俺を見たけどプライドの高い彼は涙が溢れる前に俯き目許を拭う。
「委員長、ありがとう……」
「まぁ気にすんな? 不正に我慢出来なかった俺の独断たから」
「うん……」
俺より背の低い村上の頭をポンポンと撫でると村上は照れた様に笑った。
ガラじゃないけどこういう風に笑ってもらえるなら、こういうのも悪くない。
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