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第一章

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Side雪華

「ん、む……?」
「起きた?」
「……?」

気が付くとオレは薄暗い教室にいた。しかも縛られて。

「(これはいったいどういう事だろ……)」

少し思いだそう。
今日の放課後、オレはまたいつものように親衛隊に呼び出されて……。

「あぁ、殴られたのか」

道理で頭の後ろ辺りがズキズキ痛むハズだ。
金持ちのお坊っちゃんの嫌がらせだと甘く見てた。やられた。

「藤原、僕らちゃんと警告したよね? もう生徒会の方達に近付かないでって」

室内には今まで水を掛けてきたりイチャモンをつけて来たタイプの小柄な少年たち。動けないオレは声を掛けて来た中心格の少年を睨み付けるだけだった。
とりあえず何とかして縄を解かないと……。

「ふふ……縄さえ解ければとか思ってる? 縄が解けた所で君に逃げ場なんて無いんだよ?」
「どういう事だ?」

中心格の少年とは違う、聞き覚えのある声にオレはそっちを向いた。

「外には見張りがいるんだよ、しかもガタイの良い運動部生がね」
「……っ!」

薄暗くてよくは見えないがそこには見覚えのある少年がいた。

「お前……」
「1年A組37番村上雅士だよ、藤原雪華くん」

ニッコリと笑う彼、言われるまで名前は思い出せなかったが確かにクラスメイトだ。
クラスメイトなのに何で……?

「ふふ……クラスメイトなのに僕の名前も分かんないの?」
「っ……!」
「そーだよねぇ、君は転入生で可愛くて……。御三家や生徒会の方々のような方としか付き合わないだもんね」
「な、に言って……」

村上が何を言っているのか分からない。オレはクラスメイトのこんな表情、知らない。
だっていつもクラスの皆はオレを受け入れてくれていた。楽しそうに笑って、雑談だってしていた。なのに……。

「ムカつくんだよ、藤原」

悲しそうに顔を歪ませて村上は憎しみのこもった瞳でオレを睨む。
その表情にオレはハッとした。

今までオレは何かと言ってくる親衛隊に悪い感情だけを持って接して来た。しかしどうだ? 親衛隊が言うことは確かに嫉妬に駆られためちゃくちゃなものだったがソレへのオレ対応は正しかったか?
生徒会の奴等や原田や田中達と仲良くするなって言われたらムリだけどソレと同じくらいクラスメイト達と接していたか?

オレは、大きなミスを犯したんだ。
なら、オレのするべき事は……。

「ねぇ、聞いてるの?」
「あぁ」
「だったらさぁ、謝ってよ。そして誓って? “もう金輪際生徒会の方々に近付きません”って」

オレに欠けていたのはこいつらへの思い遣り。
こいつらだって、蒼劉達が好きなだけなんだ。

「悪かった……」
「そう思うなら……っ」
「でも、蒼劉達は友達だ近付かないだなんて誓えない」
「……結局、君は何にも分かってくれないんだ」

続けたオレの言葉に、村上が失望した様な表情を見せる。
確かにオレは分かっていなかった。

「オレが怠ったのは、アイツ等と同じくらいクラスや学年の皆とも仲良くする事だ。突然出てきた新参者が憧れの人の輪の中に入っていったら怒るのも当然だよな……」
「っ!」
「お前に言われるまで気付けなかったオレが悪い。でも、だからこそこれからはもっとオレ頑張るから! お前達に認めて貰えるように……!」

オレがそう言うと村上がたじろいだ。多分、どう返して良いのかわからなかったんだと思う。少しかもしれないけれど、オレの言葉が届いた様に感じた。
しかし、不意に後ろから、野太い、今までの親衛隊の奴とは違う声がかけられる。

「そんなんで良いと思ってんのかよ……?」

振り返ると入り口に、多分体育系の部活から連れて来られたと思われるガタイの良い男子がいた。

「高木……!?」

中心格の少年が驚いたように声を上げる。
まさか雇っただけの男がこの場面でしゃしゃり出てくるとは思わなかったのだろう。

「お前が生徒会、延いては人気のある先生に媚びる事でどんだけの人間に迷惑掛けてると思ってんだ!?」
「っ……!」

高木と呼ばれた男が俺に掴みかかった。
襟首が締まり、息苦しさを感じる。

「ど、いう……事だよ……?」
「分かんねぇのかよ……。例えば、ここにいる奴等、同室の倉科、一般の生徒」
「ちょっと待てよ! 倉科には迷惑なんか」
「掛けてないって言えるのか?」

ギロリと高木がオレを睨む。
何なんだよ……。

「例えば今お前が友達だとか言った副会長だが、分かりやすく倉科の事嫌ってたじゃねぇか。同室として沢山心配を掛けただろう! 何も知らない奴に白い目で見られたんじゃないのか!?」
「そ、んな……」

高木の言った事を否定したいのに否定しきれない。
確かに、最初に食堂に行った時には妙な事に巻き込んでしまった。しかし、その後は自分の悪口ばかりが目立ち倉科に迷惑をかけたという感覚は少なかった。
村上たちへの配慮が欠けた様に、倉科に対しても何かミスを犯していた可能性は否定できない。俺がショックを受けるのはお門違いだと思いつつも、ショックと混乱で頭がグラグラする。どうする、どう挽回すればいい。

答えが出ないまま、何かを言おうと口だけ開いたその時、勢い良く入口のドアが開かれた。

「隊長! 奴が……オズのドロシーがココに向かって来てます!!」
「何っ!? 見張りはどうした!?」
「全員一撃でのされました!!」
「クソッ……!」

飛び込んできた親衛隊員。
彼が言った台詞で状況が一変した。

オズ、オレだって名前くらいは聞いたことがある。
何かしらの事件に必ず現れる自称義勇団。

しかし奴等が手を出した事件は必ず酷い惨状に終わり、何人も病院送りにされているという……。何でそんな奴等が……。

「隊長っ! 皆を連れて逃げて下さい!!」
「村上!?」
「親衛隊はこんなところで潰れてはいけないんです! 今なら僕を主犯という事にして逃げられます! だから逃げて下さい!!」
「……」

中心角の少年は唇を引き結んだ後舌打ちをして叫んだ。

「撤収!! 総員待避だ!!」

色々な事がいっきに起きて、オレが混乱しているうちに、村上たち親衛隊はすぐさま判断を下す。こういう判断の早さが親衛隊が解体されずに生き残っている理由の一つなのだろう。
そして、隊員1人1人の忠誠心と自己犠牲精神も。

「良いのかよ……」

オレは村上に声をかける。
オレへの制裁は失敗した。しかも最悪な結末で。
村上は何も成せないまま、犠牲になるのを選んだ。

「どうせドロシーが出た時点で何かしら犠牲は必要だったんだ。だったら、僕だけでいい……」
「それは良い覚悟だな」
「っ!」

ガラリ、と教室のドアが開けられ、狐面を被った生徒が現れる。
その生徒の声は柔らかくて優しくて、オレの大好きな彼のものだった。

「だけど、その覚悟。残念だけど無駄になったな」

シュルシュルと狐面の紐を解く。
ゆっくりとした動作で行われるソレにオレは自分の目を塞ぎたくなる。

「ここには狐面、ドロシーはいない。俺はの人じゃなく、ただの2年A組の学級委員。倉科誠だからな」
「委、員長……?」

うっすらと笑みを浮かべる倉科がそこにいた。

「おう。たっく、手間掛けさせんなよな。まぁ、生徒会の奴等より先にここに来れたから良いけど」
「委員長が、オズ……?」
「いや、コレは借りただけ、誰にとは聞かないでくれよ。さて、藤原。帰るぞ、村上も生徒会が来る前に逃げろ」

倉科がすぐに狐面を隠し、オレの手を引く。
どういう事なのか状況が掴めない。

「面倒事はごめんだぞ……」
「ゆきかぁぁぁぁぁああっ!!!」
「チッ」

勢い良くドアが開く。
そこには、生徒会会計の沢村先輩がいた。

沢村先輩はオレを見ると突然倉科に殴り掛かった。

「倉科! テメェ雪華に何て事してやがる!!」
「……違いますよ」

ヒョイヒョイと倉科は先輩のパンチを避けた。
身のこなしが軽いし、動体視力が良いのだろう。倉科はソレを完全に見切っていた。

「何が違うんだ!? テメェが雪華をこんな目に……!!」
「誤解です」

先輩の攻撃の手は緩まない。
オレはまだ縛られたままだし、どうすれば……。

「待って下さい!!」

オレが混乱で上手く動けないうちに、突然、村上が間に割って入った。

「今回の事件の主犯は僕です!」

あぁ、せっかく倉科が丸く納めようとしたのに……。
悪い事になる予感がする。




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