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第一章

6.5

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side 美姫弥


倉科誠。
不思議な奴だ。

最初はただ、興味本意と副会長へのイヤガラセで近づいたんだ。

実際会ってみるとそいつは何の変哲もないただの平凡顔で、人に嫌われる要素なんてほとんど無い様な人種だった。話していても何の不快感もなく、島咲がこいつを嫌う理由が分からない。普段なら眼中にも入れないタイプだろう。

本人に聞いてみれば意味ありげな言葉を吐いた後のらりくらりとかわされちまった。

「(なのに、不快じゃない)」

ふと気付くといつもの鬱陶しい視線が消えていた。
皆各々に食事を取り此方の事なんか気にしない。普段なら生徒会メンバーが誰かと話してたらヒソヒソ声や中傷が酷いのに……。

「(何故だ?)」

俺は何もしていない……。
まさか、こいつが?

「(いや、誠にそんな事は出来ないだろうな……)」

まず、こいつはきっと周りの態度がどんなに悪くても気にしないタイプだろう。節々に見えるマイぺースさは会って間もない俺が感じ取れる程だ。

「(だったら、直接何かしなくても何となく周りからの注目を削ぐ何かをコイツがもってるのか?)」

本当に不思議な奴だ。
俺はコイツがこの後、制裁を受けようとどうでもいいと思って接触したのに、今となっては少しまずい事をしてしまったと罪悪感すらある。
しかも、その罪悪感など吹き飛ばす様に、この男は制裁は受けないのだろうという謎の確信があった。

誠は強者には見えない。
しかし、無能でも無いのだろうという何かがあった。ソレが何かはまだ分からない。

ただ一つ、分かるのは俺はこいつが嫌いじゃないって事くらいだった。見目麗しい外見をしているわけじゃあ無いし、特別何かあるわけじゃあ無い。

「(ただ、雰囲気が心地好い、気がする)」

例えば、島咲が自分を嫌っている事を知っていても誠は全く気にしない。この学園において、副会長から敵意を向けられるなど面倒で恐ろしい事である。自分の手を汚さずとも仕草一つで他人を意のままに操る程度ならやってのけられるのがこの学園の上位者だ。
そんな相手から敵意を向けられるなんて普通は恐ろしいハズだ。

なのに、どうしてか、誠はソレを気にしていない。
あくまでも“他人”から多少嫌われた程度の反応しか見せなかった。

ソレが何だか痛快な気分にさせられる。

あくまでも“人”として、“副会長”ではなく“親しくもない上級生”として、あの島咲を扱っているのだ。そして、きっとこいつは誰であろうと同じように受け入れてくれるのだろう。

「(俺が、生徒会長だろうと……)」

しっかりと視界に入り、個として存在を示せばちゃんと認識される。
ソレは当たり前の様で、俺達にはなかなか得られないものだ。

人に対して誠実なんだろう。
そしてそれを当たり前としているんだ。

「(……真面目なヤツ、なんだろう)」

今度人のいない所で会ってみようか?

きっとアイツは少し驚いた顔をした後、苦笑いで話に応じてくれるハズだ。




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