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第一章

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「(さて、どうしようか)」

今、俺の前には同い年と思われる小柄な少年がいる。そいつは目をキラキラさせてやけに慣れなれしく自己紹介をし、俺によろしくと言って手を差し出した。

「(うーん……)」

できればよろしくしたくはないタイプだ。
しかし、自室のドアをノックされ、出た先に大荷物を持っていた同年代の少年という事は昨日聞いた同室者というやつなんだろう。
これから一年付き合うことになる奴を無下にするのも気が引ける。

本当にどうしようか。

まず、こんな事になった事の発端はアレだ。あぁ、今思い出しても頭にくる……。



・・・



夏休みが明け自宅からこの学園に帰ってきた俺は担任の先生から呼び出しをくらった。
俺は別に何か悪いことをした記憶は無い。呼び出しをくらう理由が思いつかなかった。
仕方が無いのでとりあえずその担任の先生のいる教員室へ向かう。その担任について説明したいところだがその前にまず、ウチの学校について説明をしようか。

俺が通っている高校、私立藤咲学園はお坊ちゃま校として有名な男子校だ。小、中、高プラス大学まであるエスカレータ式になっていて、ある程度の高水準の教育を受けられる。小学校の受験にさえ成功すれば後は比較的楽な学校であるが、それ故に学力としてはピンからキリまで。しかしそのピンの方には有名企業の社長令息なんかも在籍しているためそれなりに有名といった所か。
立地はギリギリ都内であるが外れに位置し、山一つ分の広い土地を贅沢に使った全寮制。自分で外に出ようとしない限りはこの学校の中だけで全ての生活が完結してしまう。下手をすると卒業する頃には生粋の世間知らずの誕生、という事にすらなるので入学はある種の博打にも近いかもしれない、と俺は思っている。

前述のとおり、小学校からあるため内部生が多いが中には中学や高校からの編入生もそれなりにいたりする。

たとえば……俺だ。

俺はこの学校の特待制度を目当てにココへきた。まぁ、一般的に難関校と呼ばれるこの学校の編入試験は確かに難しかった。しかし、その分それさえどうにかなればワリは良い。
学費はとりあえず免除だし、授業は分かりやすいから成績はキープできるし、寮は豪華だ。少しめんどくさい学級委員とかもやらされてしまっているがそんなことは些細な問題だった。
ほかの編入生といえば芸術・スポーツ特待生だ。何か一芸に秀でた者が一般の中学・高校から引き抜かれる。ウチのクラス、A組にも一人いる。

まぁ、表向きの特徴はそんなところか。しかし、入ってみて知った衝撃的な特徴があった。
ソレは同性愛者が異様に多いという事だ。学内の生徒の中にはクラスの、学園のマドンナの様なポジションの男子生徒が何人かおり、アイドルの様に崇められ、親衛隊なんて物まで存在する。

しかし、よくよく考えてみれば分かる事だったかもしれない。
思春期真っ只中な中高時代に同性しか周りにいなかったらどうなるか。

つまりまぁ、この学校はそういう所があった。

美形至上主義。生徒会選挙なんてほとんどただの人気投票だ。
そんな中、この平凡な俺がクラス委員になったのは例の担任のせいだったりする。


・・・


高校初日、入学式も終わりクラス活動で役員決めをする時、教室に入って来たのは素敵なネクタイの眠そうな美形だった。髪は茶髪でワックスで遊ばせていて、一応スーツ。しかしそのネクタイは世界の子供達が民族衣装を身に纏い手を繋いで笑っているというもの。

何処で買ったのソレ?

新学期一番にクラスの心が一つになった瞬間だった。

「担任の東藤だ。一年間このクラスを受け持つ事になった。テメェ等、面倒事だけは起こすな。以上」

ソレだけ言うと東藤先生は教壇の上に何かのプリントを置き、教室の窓際の教員用のイスにドカッと座り沈黙する。一般的に新年度最初のホームルームというのはこれからのカリキュラムの流れを説明したり、一人ずつ自己紹介をしたりするものだろう。実際、事前に配られていたプリントには役員決めと書かれていたハズだ。しかし、東藤先生は何もしない。
どうしようもなくなった教室は軽い無法地帯となって騒ぎだす。

ざわざわざわざわ

「……」

ざわざわざわざわざわざわざわざわ

「……」

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ

「~~~~~~っ!!」

あまり煩いのが得意ではない俺には我慢出来ない程の空間。
苛立った俺はつい、前に出た。

「えーと、新参者が仕切って悪いんですけど、担任が機能しないようなので役員決めをしたいと思います」

その時のクラスメイト達の顔は面白い程にポカンとしていた。しかし、ざわつきが収まるにつれてだんだんと事態を把握したようだった。
俺は頃合いを見計らってクラス全体を見ながら口を開いた。

「ちなみに俺は外部からの新入生の倉科誠です。以後よろしくお願いします」

真面目くさった顔でそう言えば何人かの生徒が納得した表情を見せる。恐らく「誰だコイツ」と思っていたのだろう。ほとんどが内部生なのだからきっと見知った顔でない俺はそこそこ不審者だったのだろう。
丁度、クラスのまとめ役がいなかったらしく、誰からも不満が出ないまま、俺が進行を務め、粛々と役員決めが始まる。想像していた通り、教団の上に置かれたプリントには必要な事はだいたい書いてあった。この学校特有の制度などは多くは無いが、分からない事は適当に誰かに聞けば答えてくれた。

「では、最後に学級委員を決めたいと思います。誰か立候補、推薦ありますか?」

特に問題もなく最終項目にまで行き着いた。が、ココが難関だ。
学級委員というのは他学年との関わりも無ければコレといった得点があるワケでもない。多少内申が良くなるかもしれないが、割に合わないクラスの雑用係だ。いくら教員が格好良かろうとそんなものやりたがるハズなんて……。

「はい!」
「はい!!」
「僕がやります!」
「俺、俺っ!!」


あった。この学校を嘗めてた。
まさかの事態だが、嬉しい誤算ってヤツだった。
俺は手を上げた奴の名前を黒板に書いていく、一通り書き終えた所で前を向いたのだが……。

「先生……教員は役員にはなれませんよ?」
「馬鹿か、んな事わかってるわ。推薦だ推薦」
「あぁ、そうでしたか。で、誰ですか?」

先生の推薦なんてほとんど決定な気もするが……。

「倉科、お前やれ」

推薦どころか指名ですか。大変ですね、倉科さん。御愁傷様です……って、あれ?

「どこの倉科さんですか?」
「このクラスに倉科はテメェしかいねぇだろ。倉科誠」

……ですよねー。

嗚呼、今年一年は先生のパシりか。
やりたがってた奴、悪いな。何なら今すぐ変わってやりてぇよ……。





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