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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち

3、ライドの過去

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「また変な輩にからまれましたわねえ」
「申し訳ない」

 呆れた顔で俺らを見て、溜め息をつくルルティエラ。その冷たい視線を前に、俺とライドは委縮する。って、なぜ俺まで小さくならねばならんのだ。

「ライド、あいつの口から聞いた話を信じるつもりはない。正直に全て話せ」

 ジトッと横に座るライドを見てから、俺はスープに口をつけた。今日もルルティエラの飯はうまい。

「ホッポと俺はとあるド田舎の村で一緒に育った幼馴染だ」
「それは本当だったんだな」

 知らないと言ったのはやはり嘘だった。

「10歳になる頃にはあいつは村の中では突出して剣技の才があった。木こりの家に生まれたからだと思ってたんだが、天賦の才ってやつだったんだろうな」
「うんうん。あ、ルルティエラ塩とって」
「味が薄かったですか?」
「そうじゃないけど、俺の好みとしてはもうちょい塩味が欲しいかな。あ、ちゃんと美味いよ、この煮込み肉」
「それは良かったですわ」
「二人とも、俺の話聞いてる?」

 ちゃんと聞いてるから心配するな。腹が減っては話も耳に入らない。
 みぞおちを殴られたライドは食欲ないのかと思いきや、俺らの様子に溜め息をついてから固いパンにかじりついていた。

「ふぉんふぇふぁおふぇふぁふぁ」
「食べながらしゃべるな。話し終えてから食え」
「行儀悪いですわよ、ライド」
「んぐんぐごくり。……食べてるお前らがそれ言う!?」

 納得いかないようだが、自分の話を聞いてもらうのだからと、不満げな顔でパンを置いてライドは話を続けた。

「そんで俺らが15歳の時に冒険者になろうと決めたんだ。田舎に居ても退屈だかんな」
「まあどこの村でも、子供なら一度は憧れるよな、冒険者」
「そうそう。幸い俺には盗賊の適性があって、ホッポはもちろん戦士。まさか勇者にまで上り詰めるとはなあ」
「感心してる場合か」

 ジロッと睨んで言えば、ポリポリと頬を掻くライド。

「冒険者資格がとれたのが16歳。最初はギャアギャア言いながらスライム倒してた」

 超初心者御用達のスライム。俺にもそんな時期があったよなと思い出に浸り、すぐに兄貴の顔が浮かんだので記憶の彼方に追いやった。

「あれはたしか、ドラゴンの塔と呼ばれるダンジョンに挑戦した時のことだ」
「ドラゴンがいるのか?」
「当時19歳だった俺らはそこそこ経験を積んで強くなってたとはいえ、さすがにドラゴンを相手にできるほどじゃあなかった。そこはかつてドラゴンが守ってたとか言い伝えがあるだけで、普通の塔だ。俺らにとっては大して強くない魔物が住んでるレベル」
「そんな塔が手つかずであったのか?」
「そこなんだよな」

 俺の疑問に、ピッと人差し指をさしてくるライド。

「依頼という形のクエストじゃなく、噂を聞いて自発的にその塔に向かったんだけどよ。一番いい宝は無くても、そこそこの宝はないかと行ったわけ。したら出たの」
「なにが」
「ドラゴンが」
「いないんじゃなかったのか?」
「それがなあ、戻ってきたのか新種が住み付いたのか。わかんねーけど確かに本物のドラゴンが現れたわけよ」

 ドラゴン。魔王討伐と同じくらい、冒険者が憧れてやまない敵である。ただ、本当にドラゴンを倒した者は過去に数えるほどしかおらず、冒険職の中で最強の勇者すら、数多ドラゴンの前に敗れたと聞く。
 そんなドラゴンを、いち冒険者が倒せるわけもない。

「あの黒々とした鱗……いまだに忘れられねえよ」
「それで、どうしたんですの?」

 食べ終えたルルティエラが、ナプキンで口を拭きながら先を促す。

「どうもしなかった。倒せるわけないんだ、逃げたに決まってる」
「それで?」
「それで終わり」
「なんだよそれ」

 肝心の部分が抜けてるではないか。

「ホッポの大怪我を放置って話は?」
「そこなんだよなあ、俺、本当にその辺は覚えてないの」
「というと?」
「ドラゴンが出て、大慌てで俺ら塔を飛び出して逃げたわけよ。その時、確かにホッポは俺の横にいたはず。なのに気付けば俺一人で森を彷徨ってた」

 それは別におかしなことではない。パニック時の記憶ほど、曖昧なものはないだろうから。

「慌てて塔に引き返したらドラゴンの姿は既になく、ホッポが血まみれで倒れてた」
「ドラゴンに?」
「だろうな。あいつの背には今もドラゴンの爪痕が残ってるだろうよ」
「そのあとどうしたんだ?」
「どうも何も、必死でホッポを背負って逃げて、一番近くの村にいた医者に診せた。ホッポは一命をとりとめたんだが……意識が戻ってからずっと俺のことを責めるんだ。よくも見捨てて逃げたなって」

 ホッポもまた、記憶が曖昧だったのだろう。
 戦士と盗賊では当然盗賊のほうが逃げ足は早い。ホッポの目には、自分を置いて逃げるライドの背が最後まで映っていたのだろうな。

「そりゃ恨まれるわ」
「……だよなあ」

 俺の言葉に、天井を仰ぎ見て溜め息をつくライド。

「不可抗力とはいえ、ライドはそのホッポさんを放って行ったのですね」
「う、うん、まあ……」
「でもちゃんと助けに戻りましたわよね」
「そうなんだけど、ホッポにしたら関係ないんだろうな。あいつの中では、俺が見捨てた、そのせいであいつは大怪我をした、それだけなんだろう」

 ホッポの中ではライドへの恨みだけが大きくなり、ずっと怨嗟の言葉を投げかけていたと。
 それに嫌気がさして、ライドはやつとのパーティーを解消した。そこから街に引きこもり、21歳でめでたく俺にスリを働いたわけである。

「ホッポとお前の二人でパーティーやってたのか?」

 二人ならパーティーっつーよりコンビだよな。

「いや。他に白魔導士の女が一人」
「その白魔導士はどうしてたんだ?」
「あいつはあの日、体調崩して宿屋で待機してた」
「なんで体調戻るの待たなかったんだよ。補助魔法の白魔導士は必須だろ」
「ドラゴンがいるなんて思ってなかったからな。大丈夫だってホッポが強引に行ったんだよ」
「じゃあホッポのせいじゃないか」
「いやまあ、そうなのかもしれんが」

 完全な逆恨みってやつだな。

「どうしたい?」

 テーブルに肘をつき、指に顎を乗せて俺はライドを見る。
 ホッポやあのザジズというやつがどう思おうと、何を言おうと気にしない。

「ライドが嫌なら……関わりたくないなら無視するけど?」

 俺の問いかけに、だがライドは首を横に振った。

「いや、このままじゃ俺も気持ち悪い。スッキリけじめつけるさ」
「そうか」

 ならば話は早い。早いとこ飯食って、寝るだけだ。明日に備えて、な。

「ライドがまとも、じゃと……?」
「俺はいつもまともでい」

 妖精の呟きに、ライドが裏手刀で答えた。
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