18 / 48
第二章:新旧パーティーのクエスト
3、クエスト
しおりを挟む「おわあああ、追いかけてくんな、崩れた手を伸ばすな、俺に微笑みかけるなー!」
必死の形相でゾンビから逃げまどう男、盗賊ライド。
初クエストと意気込んでやってきた村跡で、ライドは必死に逃げ回っていた。その足は今日も今日とて早い。俺の能力分けたからね。
ライドの逃げ足は早いのだが、ゾンビもこれまた負けじと早い。なんなのあのゾンビ、生前は走り屋でもしてたのか?
「頑張れよ、ライド。それが最後のゾンビだ、少なくて良かったな」
「まるで他人事だな!?」
「他人事だ」
俺の能力を分けてる時点で他人事だと思ってないのだが、いかんせんそれを言うわけにもいかない。
なので冷たくあしらえば、「つめてええ!」と返答があった。なんだかんだで逃げれてるから、まあ大丈夫だろう。あんまり素早さ分けてしまうと、俺も危なくなる。なにせ今までと違って俺も前線に出ねばならないのだから。能力のほとんどを仲間に振り分ける、なんて出来ない。
「えーっと、あっちが村長の家……ああ、あの屋根しか残ってないのがそれかな。てことは、あっちが教会か。なんとなくそれっぽい残骸があるな」
俺は学者に渡されたかつての村の配置図を手に、指示のあった場所を探す。なんでもメインは教会跡地で、そこにお宝が眠ってる可能性大だとか。なので探索しやすいようにしておくのが俺の役目。
「うらめしや~」
「裏に飯屋なんてない」
お決まりの言葉で襲い来る幽霊に、ベタな返しと共に聖水かけて撃退。あんまり使わせるなよ、聖水はお高いんだぞ。
ルルティエラがお祈りすれば、ただの水も聖水になる。だが今彼女はそれどころではないので、仕方なく市販の聖水を使っている。
チラリと見れば、幽霊が彼女の前に列をなしていた。
──どうやら成仏の順番待ちらしい。なんとも礼儀正しい幽霊の様に苦笑する。
「もう疲れたから、早く成仏したいってか。ならもっと早くに来てやれば良かったな」
幽霊だっていつまでも幽霊でいたいわけではないのだろう。それより早く成仏して転生したいと思うくらいには、彼らはこの地に縛り付けられていたのか。
この村は何か特産があるわけでもなく、街道から離れてもいるし特筆したものがなかったという。それゆえ魔物の脅威にさらされても、国も誰も助けてくれなかったのだとか。
そして人知れず滅び、その悲しみと苦しみが村人を幽霊やらゾンビやらに変えた。
なんとも悲しい話だ。
「来世は幸せにな」
そう言って、俺はまた幽霊に聖水をかけた。
本来ならルルティエラのお祈りがもっとも効果的で、苦しみなく成仏させてやれる。
だがそれは穏やかな魂で、礼儀正しく順番守れるやつらだ。俺に襲い掛かって来るような乱暴な幽霊は聖水で充分。悲鳴上げて成仏しやがれ。
ちなみに今は普通の水かけてるんだけどな。
事前に買った聖水なんぞ、とっくに切れている。もともとそんなに買ってなかったし。ピーカンデュ売ったくらいで大金になるわけもなく、買える数など微々たるもの。
すぐに尽きた聖水の代わりに、今は飲み水を代用している。ルルティエラは相変わらず幽霊対応に忙しいので、俺が自分で聖水にした。
そう、勇者である俺は、僧侶のように聖水作ることだってできるのだ。僧侶のような清い心もってないんだけどな。勇者って不思議便利。
「まて、ちょっと待て、ちょっと休ませろ、小休止だ」
足の速さは俺が能力分けてどうにかなっても、分けてない体力はどうしようもなく、ゼーハー肩で息をつくライド。
なぜか律儀に立ち止まるゾンビ。
「いやお前、なかなかやるなあ。根性あるぜ」
なんでお前、ゾンビとなれなれしく会話してんのよ。もう口もきけないくせに、なんでゾンビ頷いてんの。なに「お前もな!」みたいに一部骨があらわになってる親指グッと立ててんだよ。
「どうだザクス、すげえだろ。俺は誰とでも仲良くなれるんだ!」
「”誰とでも”の中にゾンビが入ってるのはお前くらいだよ」
どこに自慢要素があるのか知らんが、誇らしげに言われてしまった。おいこら座り込んでゾンビと対話してんじゃねえよ。
まあライドは放っておけばいいかとルルティエラを見れば、こちらも順調に幽霊の数が減っていってる。
ルルティエラの肩にとまって興味津々な顔で幽霊見てるのはミュセル。
妖精の特殊能力なのか、不思議なことにミュセルを肩に乗せてると魔力が減らないとルルティエラは驚いていた。だから大量の幽霊を昇天させるのが可能なのだろう。
ミュセルの存在はバレないようにせねばな、と本気で思う。
まあそれはいいとして。
なんで俺だけ執拗に幽霊が襲ってくるのかしらんが、それももう残り少ない。これなら今日中に終わりそうだな。
幽霊とゾンビを片付けたら、あとは教会跡の瓦礫をある程度整理。依頼主である学者が探索しやすくして終了。
なんとも平穏に順調にクエストが終わりそうな状況に、俺は満足げに頷いた。
* * *
その頃の勇者一行。
「おいディルド、なにチンタラやってやがる! お得意のスピードで翻弄してバッサリ斬るって攻撃はどうしたよ!?」
クエストに出たはいいが、思った以上の魔物の数に苦戦を強いられていた。
だがそれでもいつもなら難なく撃退できるそれらを、思うようにいかない苛立ちからか戦士兼武闘家のモンジーが苛立たし気に叫ぶ。
「うるさい、今日はちょっと調子が悪いんだ! モンジーこそ何してる!? お前がある程度魔物を蹴散らして、残りを俺が狩るのがいつもだろうが!」
「俺も調子悪いんだよ! おいセハ、こいつら魔法でどうにかしろ!」
「こんな狭い洞窟でドッカン使えるわけないでしょ」
「ちっ、使えねえなあ!」
「なんですってえ!?」
「ふ、二人とも、落ち着いてくださいですう」
いつもトラブルなくクエストを終えていた勇者一行。
それはザクスという、真の勇者が裏で手引きしていたから。誰にも気づかれずに、彼らの動きがうまくいくように導いていたからにすぎない。
それに未だ気付かぬ彼ら。
能力が弱まってることを認めたくない彼らは、仲良しこよしのはずの仲間内で衝突を増やしていく。
「ちくしょおお!なんなんだよ、これは!?」
偽物勇者の怒声が洞窟内に響き渡る。
不協和音が強くなる。
0
お気に入りに追加
1,075
あなたにおすすめの小説
異世界でハズレスキル【安全地帯】を得た俺が最強になるまで〜俺だけにしか出来ない体重操作でモテ期が来た件〜
KeyBow
ファンタジー
突然の異世界召喚。
クラス全体が異世界に召喚されたことにより、平凡な日常を失った山田三郎。召喚直後、いち早く立ち直った山田は、悟られることなく異常状態耐性を取得した。それにより、本来召喚者が備わっている体重操作の能力を封印されずに済んだ。しかし、他のクラスメイトたちは違った。召喚の混乱から立ち直るのに時間がかかり、その間に封印と精神侵略を受けた。いち早く立ち直れたか否かが運命を分け、山田だけが間に合った。
山田が得たのはハズレギフトの【安全地帯】。メイドを強姦しようとしたことにされ、冤罪により放逐される山田。本当の理由は無能と精神支配の失敗だった。その後、2人のクラスメイトと共に過酷な運命に立ち向かうことになる。クラスメイトのカナエとミカは、それぞれの心に深い傷を抱えながらも、生き残るためにこの新たな世界で強くなろうと誓う。
魔物が潜む危険な森の中で、山田たちは力を合わせて戦い抜くが、彼らを待ち受けるのは仲間と思っていたクラスメイトたちの裏切りだった。彼らはミカとカナエを捕らえ、自分たちの支配下に置こうと狙っていたのだ。
山田は2人を守るため、そして自分自身の信念を貫くために逃避行を決意する。カナエの魔法、ミカの空手とトンファー、そして山田の冷静な判断が試される中、彼らは次第にチームとしての強さを見つけ出していく。
しかし、過去の恐怖が彼らを追い詰め、さらに大きな脅威が迫る。この異世界で生き延びるためには、ただ力を振るうだけではなく、信じ合い、支え合う心が必要だった。果たして彼らは、この異世界で真の強さを手に入れることができるのか――。
友情、裏切り、そしてサバイバルを描いた、異世界ファンタジーの新たな物語が幕を開ける。
隣国に売られるように渡った王女
まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。
「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。
リヴィアの不遇はいつまで続くのか。
Copyright©︎2024-まるねこ
【完結】悪役令嬢とは何をすればいいのでしょうか?
白キツネ
恋愛
公爵令嬢であるソフィア・ローズは不服ながら第一王子との婚約が決められており、王妃となるために努力していた。けれども、ある少女があらわれたことで日常は崩れてしまう。
悪役令嬢?そうおっしゃるのであれば、悪役令嬢らしくしてあげましょう!
けれど、悪役令嬢って何をすればいいんでしょうか?
「お、お父様、私、そこまで言ってませんから!」
「お母様!笑っておられないで、お父様を止めてください!」
カクヨムにも掲載しております。
神様のいない冬
詩方夢那
ライト文芸
ロクな事の無かったミュージシャン達が、またクリスマス・パーティーを開こうというお話。
『パーティー会場は密室だった』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/835588464/597445029)の流れにあるお話ですが、これだけでも楽しめます。
そして、こちらにもヘヴィメタルが好きな方にはちょっと分かるかもしれないネタが混ぜ込まれております。前作と同じく、本格的な文芸作品でもないので、さくっとお楽しみいただければと思います。
原案執筆:令和元年十二月。完成:令和二年十二月。
突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます
ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
秘書のわたし 番外編
ふとん
恋愛
書籍化していただきました『秘書のわたし』の番外編です。
世の中は得てして不公平だ。
毎日事務作業に勤しむ私にはラブストーリーなんて小説の中だけ。
そんな私に突然降ってわいた辞令は、秘書課に移動!?
しがない庶務課に何を期待してるんですか?
――これは私が秘書になるまでを描いた汗と涙の奮闘と、周りの人々と出会うまでのお話。
キャラ別番外編ですが本編読まなくてもたぶん大丈夫です。
※「小説家になろう」にも掲載中。
マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜
かむら
ファンタジー
身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。
そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。
これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる