17 / 48
第二章:新旧パーティーのクエスト
2、クエストへの心構え
しおりを挟む街に着いた俺たちは、冒険者ギルドで正式にパーティー申請を済ませた。そして早速クエストをゲットしたのである。
こういうのはかつての雑用で慣れてたから、俺がやった。ライドとルルティエラは面倒くさいとか、よくわからないとか言ってくるし。まあいいけど。
なので、俺が勝手にクエストを選びましたよ。
そして買い出しを終えて、場所は宿屋。とってもお財布に優しい、リーズナブルなボロ宿だ。
「さて、準備も済んだところでクエストの内容を説明したいと思います」
「よ、待ってました! 全然説明してくんねえんだもん、焦らすなよお」
「じゃあ焦らさずストレートに。今回のクエストは幽霊村の探索です」
「あ、俺、腹が痛くなったのでパス」
わかりやすく逃げるな。
俺の説明で瞬時に顔色を変えたライドは、「じゃ、そういうことで」と手を上げて去ろうとする。いや待てこら。
慌ててその首根っこをつかまえようとしたら、俺より先にルルティエラの口が動いた。
「あらあら、怖いんですの?」
その言葉に、ライドの動きが止まる。
「ライドは怖がりさんですわねえ」
ルルティエラはそう言って、トドメとばかりにクスクス笑う。
それで黙ってるライドではない。
「ななな、なに言ってるのかね、ルルちゃん! 俺が? 怖がり? ぜぜぜ全っ然怖くねえし、幽霊だろうがゾンビだろうがドンとこいってんだ!」
などと強がるのであった。そのガクブルな足は見なかったことにしてやろう。
「じゃあゾンビはライド、幽霊は僧侶のルルティエラがよろしく。俺は聖水持って村を探索する」
「うんなんだって?」
「だから俺が村の探索を……」
「いやその前」
「ライドはゾンビ担当」
「なにそれ」
「なんかその村、大昔に滅んだらしいんだが、幽霊はもとよりゾンビも徘徊してるんだってさ。ゾンビ、ドンとこいなんだろ?」
「あ、今俺の足が骨折したわ」
「なんで」
どんな足をしとるんだ。
顔に『怖いです』と書いてあさっての方向を見てるので、強引にこっちを向かせた。グキッと変な音したが、まあ気にすまい。
「首が痛い」
「後でルルティエラに治してもらえ」
「魔力の無駄遣いですわ」
「じゃあミュセル」
と妖精を見れば
「無駄遣いじゃ」
「だそうだ、痛みくらい気合いで飛ばせ」
「わ~見事な塩対応」
妖精ミュセルはなんと回復魔法を使えるらしい。さすが妖精。だがライドに使うつもりはないそうです。
ライドが遠い目をしてるところで、俺は話を続けた。
「それで、だ。村の探索を依頼してきたのはどこぞの学者で、その村には色々歴史的価値があるらしい。まあ大昔に滅んでから今まで手付かずだったからな。色々残ってる可能性が高いんだろ」
「じゃあその学者の護衛?」
「いや、魔物の殲滅。できれば成仏。平穏になってからじっくり調査したいんだって。なもんで僧侶のいるパーティー限定という縛りがあるおかげで、高額報酬にも関わらず残ってた」
「そうか、頑張れよルルちゃん」
ポンとルルティエラの肩にライドが手を置けば、邪険にシッシッと払われる。
「お前も頑張れよ。ゾンビは首切りゃ完全に死んで成仏するから」
「いやだから俺は骨折を……」
「スックと立ちながらなに言ってやがる」
怖くて仕方ないというように涙目のライドに苦笑する。
それを見てたらやっぱり思い出しちゃうんだよな。
◆ ◆ ◆
「え、ゾンビの大量発生?」
俺がとってきたクエスト内容を聞いて、兄貴である勇者ディルドは思いきり顔をしかめた。
「なんでそんな気持ち悪いクエストとってくんだよ」
「兄貴が一番高額報酬なのを選んでこいって言ったんだろ。ゾンビ発生場所が開放されたら、旅人も商人も行き来しやすくなるんだって。だからこんな辺鄙な街の依頼にしちゃ高額だったんだ。旅人や商人増えたらこの街も潤うんだろ」
「はあ、仕方ねえなあ。ま、ゾンビなら剣で倒せるからいいか」
溜め息をつきつつも、やはり高額報酬を逃すのは嫌なのだろう。
仕方なしと承諾する兄貴。
だがあからさまにイヤそうな顔をした者がいる。セハとミユ、女性陣二人だ。
「私はイヤよ、ゾンビなんて気持ち悪いの。今回はパス」
その言葉に兄貴の眉が吊り上がる。
「なに言ってんだ、お前の炎魔法で焼きつくせばいいだろ」
「前に一度ゾンビをそれで倒したけど、あの異臭はもうこりごり。鼻がひん曲がるかと思ったわ。1体であれだけクサイんだもの、敵全部がゾンビなんてゾッとするわ」
顔をしかめたセハは手をヒラヒラさせて「あたしパース」と言って、ベッドに横になるのだった。
それを見て、ミユも「わ、私もパスで」とか言い出すから始末が悪い。
「おいザクス! お前なあ、もっと吟味してクエスト選べよなあ! 仲間が嫌がるクエスト選んでどうするよ!? もういい、お前一人で行ってこい!」
「えええ!?」
ブチ切れた兄に怒鳴られ宿屋を俺は追い出されたのだった。
もしこのクエスト以外を選んでたとしたら、「高額報酬あるじゃねえか!」って絶対怒るくせに、身勝手きわまりない。
結局依頼主である街の長に頭を下げて「メンバーが体調不良になった」と言って断ったっけ。
かりにも勇者一行だってのに、気持ち悪いとかそんなんでクエスト断るってどうかと思う。しかもかなり困ってる様子だったのに。
そんな勇者の一面を知ったら、幻滅されるだろう。
だがイケメンの兄貴に、みんな騙されるのだった。
◆ ◆ ◆
「くそう、こうなったらヤケクソだ! ゾンビなんぞ俺の足で翻弄してやる! そして遠距離攻撃で倒してやらあ!」
「おーその意気。頑張れ頑張れ」
「もう少し気合い入れて応援しろよ」
「がんばれー」
「……もういいです」
俺の心のこもらない応援をジトッと横目で見て、ガックリ肩を落とすライド。
でもなんだかんだでやるんだよな、お前は。
クエストはやりたくない、でも断れとは言わない。
ルルティエラだって、僧侶でも恐いだろうし気持ち悪いだろう。なんとなく顔が引きつってるのに、それでも嫌だと言わずに受け入れてくれるんだから。
「ま、俺らが選んだクエストじゃないしな。ザクスに頼んだ俺の責任。やるしかねえか」
「そうですわね」
そう言って、腹をくくる二人に微笑ましいものを感じるのだった。
「幽霊とかゾンビとか、それはなんじゃ?」
妖精はそれらの存在を知らないようで、呑気に茶をすすってるが。
さて、初めてのクエスト(洞窟のピーカンデュ狩りはクエストじゃないから)は、一体どうなることやら。
0
お気に入りに追加
1,081
あなたにおすすめの小説
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)
十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。
そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。
だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。
世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。
お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!?
これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。
この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる