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第二章:新旧パーティーのクエスト

2、クエストへの心構え

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 街に着いた俺たちは、冒険者ギルドで正式にパーティー申請を済ませた。そして早速クエストをゲットしたのである。
 こういうのはかつての雑用で慣れてたから、俺がやった。ライドとルルティエラは面倒くさいとか、よくわからないとか言ってくるし。まあいいけど。
 なので、俺が勝手にクエストを選びましたよ。
 そして買い出しを終えて、場所は宿屋。とってもお財布に優しい、リーズナブルなボロ宿だ。

「さて、準備も済んだところでクエストの内容を説明したいと思います」
「よ、待ってました! 全然説明してくんねえんだもん、焦らすなよお」
「じゃあ焦らさずストレートに。今回のクエストは幽霊村の探索です」
「あ、俺、腹が痛くなったのでパス」

 わかりやすく逃げるな。
 俺の説明で瞬時に顔色を変えたライドは、「じゃ、そういうことで」と手を上げて去ろうとする。いや待てこら。
 慌ててその首根っこをつかまえようとしたら、俺より先にルルティエラの口が動いた。

「あらあら、怖いんですの?」

 その言葉に、ライドの動きが止まる。

「ライドは怖がりさんですわねえ」

 ルルティエラはそう言って、トドメとばかりにクスクス笑う。
 それで黙ってるライドではない。

「ななな、なに言ってるのかね、ルルちゃん! 俺が? 怖がり? ぜぜぜ全っ然怖くねえし、幽霊だろうがゾンビだろうがドンとこいってんだ!」

 などと強がるのであった。そのガクブルな足は見なかったことにしてやろう。

「じゃあゾンビはライド、幽霊は僧侶のルルティエラがよろしく。俺は聖水持って村を探索する」
「うんなんだって?」
「だから俺が村の探索を……」
「いやその前」
「ライドはゾンビ担当」
「なにそれ」
「なんかその村、大昔に滅んだらしいんだが、幽霊はもとよりゾンビも徘徊してるんだってさ。ゾンビ、ドンとこいなんだろ?」
「あ、今俺の足が骨折したわ」
「なんで」

 どんな足をしとるんだ。
 顔に『怖いです』と書いてあさっての方向を見てるので、強引にこっちを向かせた。グキッと変な音したが、まあ気にすまい。

「首が痛い」
「後でルルティエラに治してもらえ」
「魔力の無駄遣いですわ」
「じゃあミュセル」
 と妖精を見れば
「無駄遣いじゃ」
「だそうだ、痛みくらい気合いで飛ばせ」
「わ~見事な塩対応」

 妖精ミュセルはなんと回復魔法を使えるらしい。さすが妖精。だがライドに使うつもりはないそうです。
 ライドが遠い目をしてるところで、俺は話を続けた。

「それで、だ。村の探索を依頼してきたのはどこぞの学者で、その村には色々歴史的価値があるらしい。まあ大昔に滅んでから今まで手付かずだったからな。色々残ってる可能性が高いんだろ」
「じゃあその学者の護衛?」
「いや、魔物の殲滅。できれば成仏。平穏になってからじっくり調査したいんだって。なもんで僧侶のいるパーティー限定という縛りがあるおかげで、高額報酬にも関わらず残ってた」
「そうか、頑張れよルルちゃん」
 ポンとルルティエラの肩にライドが手を置けば、邪険にシッシッと払われる。
「お前も頑張れよ。ゾンビは首切りゃ完全に死んで成仏するから」
「いやだから俺は骨折を……」
「スックと立ちながらなに言ってやがる」

 怖くて仕方ないというように涙目のライドに苦笑する。
 それを見てたらやっぱり思い出しちゃうんだよな。


◆ ◆ ◆


「え、ゾンビの大量発生?」

 俺がとってきたクエスト内容を聞いて、兄貴である勇者ディルドは思いきり顔をしかめた。

「なんでそんな気持ち悪いクエストとってくんだよ」
「兄貴が一番高額報酬なのを選んでこいって言ったんだろ。ゾンビ発生場所が開放されたら、旅人も商人も行き来しやすくなるんだって。だからこんな辺鄙な街の依頼にしちゃ高額だったんだ。旅人や商人増えたらこの街も潤うんだろ」
「はあ、仕方ねえなあ。ま、ゾンビなら剣で倒せるからいいか」

 溜め息をつきつつも、やはり高額報酬を逃すのは嫌なのだろう。
 仕方なしと承諾する兄貴。
 だがあからさまにイヤそうな顔をした者がいる。セハとミユ、女性陣二人だ。

「私はイヤよ、ゾンビなんて気持ち悪いの。今回はパス」

 その言葉に兄貴の眉が吊り上がる。

「なに言ってんだ、お前の炎魔法で焼きつくせばいいだろ」
「前に一度ゾンビをそれで倒したけど、あの異臭はもうこりごり。鼻がひん曲がるかと思ったわ。1体であれだけクサイんだもの、敵全部がゾンビなんてゾッとするわ」

 顔をしかめたセハは手をヒラヒラさせて「あたしパース」と言って、ベッドに横になるのだった。
 それを見て、ミユも「わ、私もパスで」とか言い出すから始末が悪い。

「おいザクス! お前なあ、もっと吟味してクエスト選べよなあ! 仲間が嫌がるクエスト選んでどうするよ!? もういい、お前一人で行ってこい!」
「えええ!?」

 ブチ切れた兄に怒鳴られ宿屋を俺は追い出されたのだった。
 もしこのクエスト以外を選んでたとしたら、「高額報酬あるじゃねえか!」って絶対怒るくせに、身勝手きわまりない。
 結局依頼主である街の長に頭を下げて「メンバーが体調不良になった」と言って断ったっけ。
 かりにも勇者一行だってのに、気持ち悪いとかそんなんでクエスト断るってどうかと思う。しかもかなり困ってる様子だったのに。
 そんな勇者の一面を知ったら、幻滅されるだろう。
 だがイケメンの兄貴に、みんな騙されるのだった。


◆ ◆ ◆


「くそう、こうなったらヤケクソだ! ゾンビなんぞ俺の足で翻弄してやる! そして遠距離攻撃で倒してやらあ!」
「おーその意気。頑張れ頑張れ」
「もう少し気合い入れて応援しろよ」
「がんばれー」
「……もういいです」

 俺の心のこもらない応援をジトッと横目で見て、ガックリ肩を落とすライド。
 でもなんだかんだでやるんだよな、お前は。
 クエストはやりたくない、でも断れとは言わない。

 ルルティエラだって、僧侶でも恐いだろうし気持ち悪いだろう。なんとなく顔が引きつってるのに、それでも嫌だと言わずに受け入れてくれるんだから。

「ま、俺らが選んだクエストじゃないしな。ザクスに頼んだ俺の責任。やるしかねえか」
「そうですわね」

 そう言って、腹をくくる二人に微笑ましいものを感じるのだった。

「幽霊とかゾンビとか、それはなんじゃ?」

 妖精はそれらの存在を知らないようで、呑気に茶をすすってるが。
 さて、初めてのクエスト(洞窟のピーカンデュ狩りはクエストじゃないから)は、一体どうなることやら。
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