7 / 48
第一章:パーティー追放
7、僧侶ルルティエラ
しおりを挟む「わたくしの名前はルルティエラ。冒険職は僧侶でございます」
「はあ、さようでございますか」
左頬にくらった拳のせいで、まだ頭がくらくらする。痛みに頬を押さえてたら、なぜか自己紹介されてしまった。そんなのどうでもいいから、僧侶なら治療してくれよ。
「ザクス、お前足は俺より早いくせに、攻撃回避能力は低いのな」
その言葉が同情を込めて言われたのならいいだろう。だがニヤニヤしてるその目は、どう見ても面白がっている。
俺はギロッとライドを睨んでから、はあと溜め息をついた。
「まだ能力が戻ってないんだよ。足が一番最初に戻ったけど、それ以外はまだ……」
「は? なんの話だ?」
説明してから、しまったと思って慌てて口を閉じる。
誰にも話したことない、かつての仲間すらも知らない俺の能力を、思わずベラベラしゃべってしまうところだった。危ない。
「なんでもない、こっちの話。それよりルルティエラだっけか?僧侶ならこの頬を治してくれ」
「嫌ですわ、その痛みは必要な痛みなのです。噛みしめてくださいませ」
「理不尽!」
言い方はバカ丁寧だが、内容は厳しい。
理不尽だと叫んでブスッとしてたら、ライドが俺の肩に腕を乗せてきた。なんだお前、大概なれなれしいな。
「それでルルちゃんは、どうしてこんな洞窟に一人で?」
「わたくしまだ冒険者になったばかりですの。経験のために、初心者向けと聞いたこの洞窟に入ったのでございます」
「僧侶一人で?そりゃまた随分勇気のあることで」
僧侶ってのは援護の後衛が基本だ。攻撃力なんて冒険者の中では最も期待できない存在だろう。
まず一人で冒険しないものなんだが。
「仲間、いないの?」
「わたくしは一人でも充分強いので、いりません」
まあたまにこういう例外もいる。さっきのビンタ、なかなか強烈だったぜ。
「武闘派の僧侶か。てことは、モンクか?」
「いいえ、僧侶です。わたくし、か弱い僧侶です。か弱いんです」
なぜ二回言うのか分からんが、今[か弱い]に随分力込めたよな。
「充分強いんだろ?」
俺が突っ込めば
「強いですが、か弱いです」
とか意味分からんこと言われた。
なんだこれ、女として強いことはアピールしたくないってか?
なんのプライドだそれは、とちょっと呆れる俺に対し、なにごとも気にしないがモットーなのだろう、ライドがヘラヘラ笑いながら、俺の肩から腕をのけた。肩の埃、払っておくか。
「そうかそうか、ルルちゃんは可愛い顔して強くて弱いのな~、いいねいいねえ」
どこぞのセクハラ親父かお前は。ライドの言葉に彼女はドン引きだ。俺も引くわ。
まあライドの鼻の下が伸びるのも分からないでもない。ルルティエラという女は、確かに可愛いというか美人だった。かつて仲間だったセハやミユよりも大人びた雰囲気のある、清楚な美人。やってることは全然可愛くないけどな。
「で、さっきの悲鳴はなんだったの?こわ~いモンスターでも出た?お兄さんが倒してやろうか」
「誰がお兄さんだ、お前オッサンだろ」
「俺は21歳! お兄さんだ!」
なんだ、結構若いのな。勇者な兄貴の1コ上なだけか。
言ってることがオッサンくさいからもっと上かと思ったわ。
「わたくしは18歳ですわ」
誰も聞いてないのにルルティエラは自分から年齢を教えてくれた。こっちも思ったより若い。セハ達が17歳とか18歳とかだから、もっと上かと思ってたんだがな。18歳てことらセハと同じではないか。
「へえ、若いねえ。その割になかなか立派にお胸が……ごぼおっ!!」
けしてゴボウがあるわけではない。ルルティエラの立派なお胸をオッサンライドが見た瞬間、顎にアッパーくらっただけのこと。やっぱルルティエラはモンクだろ。目が肥えてる盗賊がかわせない攻撃ってなに。
「悲鳴は、ネズミが出て思わず出ただけですわ」
「ふうん、やっぱ女の子だな。可愛いもんだ」
ネズミが出たくらいで悲鳴とか、いかにも初心者冒険者あるあるではないか。初々しいなという意味で言ったのだが、なぜか彼女の顔が真っ赤に。
「な! べ、別に褒めたって何も出ませんからね! ち、治療くらいはしてあげてもいいですけど」
「? よくわからんが、治してくれるなら頼む」
言ってまだヒリヒリしてる頬を差し出したら、温かい光を感じてすぐに痛みが引いた。やれやれ。
ホッとしてルルティエラを見たら、まだ顔を赤くしたままそっぽを向いていた。なんなのだ、一体。
そんな俺達を見て、顎をさすりながらライドが
「ツンデレ属性、だと……?」
と呟いてたことを俺は知らない。
10
お気に入りに追加
1,075
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
追放された最強剣士〜役立たずと追放された雑用係は最強の美少女達と一緒に再スタートします。奴隷としてならパーティに戻してやる?お断りです〜
妄想屋さん
ファンタジー
「出ていけ!お前はもうここにいる資格はない!」
有名パーティで奴隷のようにこき使われていた主人公(アーリス)は、ある日あらぬ誤解を受けてパーティを追放されてしまう。
寒空の中、途方に暮れていたアーリスだったかが、剣士育成学校に所属していた時の同級生であり、現在、騎士団で最強ランクの実力を持つ(エルミス)と再開する。
エルミスは自信を無くしてしまったアーリスをなんとか立ち直らせようと決闘を申し込み、わざと負けようとしていたのだが――
「早くなってるし、威力も上がってるけど、その動きはもう、初めて君と剣を混じえた時に学習済みだ!」
アーリスはエルミスの予想を遥かに超える天才だった。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
4月3日
1章、2章のタイトルを変更致しました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
天才ですが何か?~異世界召喚された俺、クラスが勇者じゃないからハズレと放逐されてしまう~いずれ彼らは知るだろう。逃がした魚が竜だった事を
榊与一
ファンタジー
俺の名は御剣那由多(みつるぎなゆた)。
16歳。
ある日目覚めたらそこは異世界で、しかも召喚した奴らは俺のクラスが勇者じゃないからとハズレ扱いしてきた。
しかも元の世界に戻す事無く、小銭だけ渡して異世界に適当に放棄されるしまつ。
まったくふざけた話である。
まあだが別にいいさ。
何故なら――
俺は超学習能力が高い天才だから。
異世界だろうが何だろうが、この才能で適応して生き延びてやる。
そして自分の力で元の世界に帰ってやろうじゃないか。
これはハズレ召喚だと思われた御剣那由多が、持ち前の才能を生かして異世界で無双する物語。
姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ハーレム学園に勇者として召喚されたけど、Eランク判定で見事にボッチです~なんか色々絡まれるけど、揉め事は全て暴力で解決~
榊与一
ファンタジー
墓地無双(ぼちむそう)16歳。
神の手違いによる両親の死亡事故の補填としてチート能力を貰った彼は、それとは完全に別件で異世界へと召喚される。
召喚された先は、優秀な能力を次世代に取り込む事を目的とされた女性だらけの学園だった。
そこで一緒に呼び出された他の6人の勇者達と共にハーレムを築く様求められたが、能力判定はE、しかも他の勇者と比べて顔の造りがあまり良くなかった墓地無双(ぼちむそう)は、女生徒に全く相手にされない状態に。
こいつはダメだ。
そう学園の理事長に判断された彼は、言いがかりで終身刑を言い放たれる。
「喧嘩売ってんの?なら買うよ」
これは異世界の勇者を種馬とするハーレムを目的とされたピンク色の学園で、墓地無双が1人赤色のバイオレンスを繰り広げる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる