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第一章:パーティー追放

6、運命の分かれ道

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「……嫌なこと思いだしちまった」

 パーティーを追い出された時点で俺は決めたのだ。過去のことは忘れると。もうあいつらは仲間でもなんでもないのだから……過去は振り返らないと決めたのに。
 全部ライドのせいだ。こいつがいらんこと聞いてくるから思い出してしまったんだ。

「ザンメンのバカヤロー!」
「なんで!?」

 腹いせに叫べば、ギョッと驚くライド。なんだ、ザンメンというあだ名を受け入れてるじゃねえか。

「んな叫んだら、魔物を呼び寄せるだろ」
「魔物が出たらライ……じゃない、ザンメンよろしく」
「なんでだよ! そしてライドと言いかけてわざわざ言い直すな!」

 なかなかいいツッコミするよな。ライドといると退屈しのぎにはなるな、なんて思ったその時。

「きゃあああ!?」

 洞窟内に悲鳴が響き渡った。

「なんだ!?」

 突然の事態にアタフタするライド。落ち着けよ、お前は初心者冒険者か。
 冒険者になって二年とか言ってたが、この程度で焦るとか、いかにまともな冒険をしてこなかったかがよく分かる。
 俺なんて、一年目からガッツリ冒険してたってのに。
 こういう時の対処法知ってるか?

「ライド、どっちから聞こえたか分かるか?」
「あん? 盗賊の俺の耳にわからねえもんなんてねえよ。左の道だ」

 そう言って、ライドは目の前の分かれ道の左を指差した。よし。

「じゃ、右行くか」
「ちょっと待たんかーい!」

 裏手刀でビシッと即座にツッコんでくるとか、こいつ相当ツッコミ慣れてるな。

「なんだよ、俺は急いでるんだ。早く稼がないと今夜どころか明日も野宿になる可能性が……」
「いやいや、お前勇者パーティーにいたんだよな? 正義の味方チームにいたんだよなあ!?」
「変なチーム名つけんな。別に誰彼かまわず助けてたわけじゃない。必要だと思われるときだけだ。そして今は必要じゃないと思われる」
「なんでだよ、今のどう考えても女性の悲鳴だぞ? 助けを求めてるだろうが」
「じゃあライド行ってこい。頑張れイケメン」
「いまだかつてこれほど頑張ろうと思えない応援があっただろうか」

 なんでゲンナリした顔してるんだよ。まあいい、俺は面倒ごとには巻き込まれたくないのだ。

「君子危うきに近寄らず。俺は右に行く」

 そう言って右に向かった直後。
 暗いな、明かりを用意しよう、と肩にかけた荷物に目をやった俺は、衝撃に見舞われる。

「むぎゅう!?」

 突如視界がふさがれ、ぶっ倒れた!

「な、なんふぁ? いっふぁいふぁひがふぉふぃふぁー!?(な、なんだ? 一体なにが起きたー!?」

 暴れて顔……いや、全身にのしかかる何かを払いのけようとするも、ふにふにしてうまくいかない。
 ひょっとしてピーカンデュか? と焦るも、この感触はあきらかに毛皮ではなく布。つまり人が俺の上にのしかかり、顔を占拠してるのだ。

「く、くるふぃ(く、苦し)……」
「わ~羨ますぅい~」

 バタバタ暴れて救いを求める俺に対し、ライドがかけた言葉はそれ。おま、後で覚えてろよ!?
 とにかくぶつかってきた人物を早いとこ退けねばならない。と、俺は両手で顔にかぶさるそれを掴んだのだが。

「きゃあああ!?」

 甲高い悲鳴。顔に乗ってたそれが退いたかと思ったら、頬に走る熱。

「何するんですか、この変態!」

 そしてなぜか変態呼ばわりされた。なんでだよ。
 俺のほうが被害者なはずなのに、理不尽にも変態と言われるのは気に入らない。ギロッと声の主を見た。
 俺の頬をビンタした存在。青く長い肩より長いストレートの髪を揺らし、緑の瞳に涙を浮かべる、白いローブに身を包んだ少女がが目の前に仁王立ちしていたのである。
 ──って、少女ぉ!?

「え、あんた、こんなとこでなにを……」
「それはこちらのセリフです! あなた今私に何をしたか分かってるんですか!? 返答次第では覚悟してください!」

 そう言って、少女は涙目で手に持ったロッドを構えた。

「待て待て、ちょっと待ってくれ、状況がつかめん!」

 混乱する俺に、だが妙に冷静なライドが、冷たい目で俺を睨みながら言った。

「お前にそこの嬢ちゃんがぶつかって~倒れて~その拍子にお胸が~お前の顔に~」
「お胸!?」
「乗っかりました~」
「いやあああ!」

 ライドの間延びする説明の最後に悲鳴が上がり、少女が拳を握り締めた。繰り出されたそれは、今度は俺の左頬をクリーンヒット。
 見事に少女の右ストレートが俺をとらえたのであった。チカチカと星が飛ぶ! 理不尽!
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