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前編

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「アンジュ、余命いくばくもない君との結婚生活は終わりにしたいと思う。後継ぎも産めないような君は侯爵夫人として失格だ」
「そうですか。では次の侯爵夫人はマシリアさんでしょうか?」
「!?どうしてそれを・・・!」

 私が17歳、夫ラシューが19歳の時に結婚してから早五年。最初こそは仲もよく愛し合っていた私達ですが、いつからか夫の心が離れて行くことに気付きました。

 私と過ごす時間が減り・・・気付いたら、肌を重ねる夜も無くなりました。
 お仕事が立て込んでいる、視察がある、と言っては帰らない日も増えました。
 何より私が彼に触れるのを顔をしかめて嫌がるようになったのです。

 本当にいつからだったか・・・ただ気付けばそうなっていたのです。

 そうして冷え切った関係が続いた中で、今日ラシューは久しぶりに帰宅していました。そして夕食の場で突然言われました。離縁を告げられたのです。
 私の病を理由に。

 それは原因不明の病で、治療不可能とまで言われてるのです。診断が下されてからのラシューの動きは早かった。診断三日で離縁を告げてきたのですから。
 お仕事もそれくらい素早く動かれると、この傾きつつある侯爵家も持ち直すと思うんですけどね。

 まあいいでしょう。元々冷え切っていた関係です。私も彼への情は皆無です。立場を考えて一緒に居たまでのこと。ですが彼が私を切り捨てるなら話は別です。私に断る理由はありません。

 ただ頭にきてのるもまた事実。どうして不貞をしてるラシューだけが幸せになるのでしょう?夫婦とは対等であるべきもの。片方だけが幸せになるなんて許されるものではありません。

 ですので、私はその苛立ちを解消すべく動きます。

「では旦那様、こちらをご覧ください」
「?なんだこれは」
「慰謝料の見積もりです」
「いしゃ・・・!?どうしてそんな物が用意されてるんだ!?」

 離縁を告げられたその場で用意が為されてるのですから、驚くのも無理からぬこと。ですがそろそろ離縁になってもおかしくないな、と思っていたのです。その時がいつ来ても良いように用意してても何らおかしくはありません。

「いざという時の為に用意しておりました。旦那様に想い人がおられることは存じておりましたので」
「そ、そうか・・・。え、なんだこの金額は!?」

 煩い男ですね、先ほどから叫んでばかりではありませんか。喉が痛くなりますよ?

 机に広げられた書類に私は手を伸ばしました。一つ一つ指さして説明をするために。

「こちらが世間一般の慰謝料の相場表になります。これに不貞の期間、お相手とどれだけ深い仲となっているのか・・・こちらはプロにお願いして撮影した密会写真がございます・・・そして私が受けた身体的苦痛、更にこの侯爵家の資産状況を加味した結果となります。異を唱えてもいいですけど、覆る事はありませんよ。ちゃんとした専門家に出していただいた金額です。異を唱えてゴタゴタになれば、離婚も再婚も遅くなります。それでも宜しいのであれば、正式な手順を踏まえて異を唱えてくださいな」
「う、うむう・・・いやしかしだな・・・」

 困ったように眉根を寄せるラシュー。まあそうでしょうね、かなりの金額ですから。ただラシューはこの侯爵家の現状をよく理解してないと思われます。なので以前の、それこそ亡くなった先代のイメージでもって侯爵家は問題無いと考えてることでしょう。

 きっと条件を呑むはずです。

「分かった、仕方ない・・・まあせいぜい残り少ない人生を謳歌するんだな」
「ええそうさせていただきます」

 おそらくは多分に嫌味も含まれていたのでしょう。ですが気にすることなく、私はニコリと微笑み返しました。それに面食らったように言葉を失うラシューを置いて、私は離縁の手続きを進めるべく、そして家を出る準備をするために席を立ちました。

 立ち去る私にかけられる声はありませんでした。
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