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 熱を帯びた頬に手を添える。そこはジンジンと熱かった。

 ぶたれたのだ。いきなり私は、メレディア公爵令嬢に頬をぶたれたのだ。いわゆるビンタ。

「どゆこと!?」

 思わず叫べば

「この泥棒ネコ!」

 と言い返された。

「ど、泥棒ですって!?私はこれまで清廉潔白を心情に生きてまいりましたのよ!?泥棒なんて心外ですわ!」

 負けじと言い返せば

「わたくしの愛しいデンタス様を奪ったじゃありませんか!」

 と言われてしまった。
 いや待って、よく考えて。

「デンタスは私の婚約者だったのですが?奪ったのはメレディア様であって……」
「あなたさえいなければ、デンタスは最初から私の婚約者だったのです!それを横からかっさらっておきながら、よくも……泥棒だから泥棒だと申したまでのこと!」

 まてい!ちょっと……いや、すごくまてーい!
 今なんかつじつま合わない無茶苦茶なこと言われた気がするんですけど!?

「メレディア様って、三年前まで婚約者がおられたんですよね?」
「そうですわ!大切な方でしたが……病で亡くなられ、最近ようやく立ち直ったところです!」
「じゃあデンタスが最初から婚約者とかないでしょ?」
「ですから、前の婚約者が亡くなって次の婚約者はデンタスと決まっていたのです!」

 う~ん、なに言ってるのかサッパリ分からない。どうもこのかた、ちょっとアイタタタな令嬢のようですね。高位なので言いませんが。

「デンタスと私は五歳の時に婚約しました。普通に行けば卒業と同時に結婚だったのです。それなのにメレディア様から奪ったと申されましても……」
「わたくしが婚約相手と決めたならばその時点で運命の相手!最初からわたくしと婚約し結婚することが決まっていたのです!」

 アイタタタ

「あなたはわたくしの登場と同時に退場のモブなのです!いいですか、脇役はさっさと退場なさいませ!」

 アイタタタ。あ、うん、もう、なんか。

「もういいや」

 なんか絡まれ損な気分。なぜ私が悪者扱いされねばならないのか分からない。
 とりあえず帰って大急ぎで手続きするかあ。

「私、帰ります。帰ってすぐに婚約解消の手続きしてまいりますわね」
「ですからわたくしの登場時点であなたは……!」

 せっかく帰ろうとしてるのに、望みのままに白紙にしようってのに、それをまだグダグダと言い続けるメレディア様。
 いい加減イラッときたというかなんというか。

「レノア、申し訳ないが俺はもうキミのことはなんとも思ってないんだ」

 そこへきて、デンタスがなんか火に油注ごうと発言してきたよ。

「俺を愛してるキミの気持ちは嬉しい!けれど俺のことはもうあきらめてくれ!浮気者のキミより俺は一途なメレディアを愛し……」
「もう黙れええええ!」
「ぶべ!?」

 デンタスを愛してるとか言われた時点で鳥肌立って。あきらめてくれとか言われて拳握って。
 浮気者と言われた時点で拳が天に突き上がったわ!デンタスの顎にクリーンヒットしたわ!!

 見事なまでの私のアッパーをくらったデンタスは綺麗に吹っ飛び、廊下に倒れ込んだ。

「きゃー!?デンタス、デンタース!」

 真っ青な顔でデンタスに駆け寄ろうとするメレディア様の前に立ちふさがる私。

「なにを!?」
「いいですか」

 ギッと睨む彼女の目線を華麗にスルーして、私はギロリと睨み返した。そんな私の気迫に押されて声を失うメレディア様。青ざめる彼女にグッと顔を近づけて、私は言った。

「今日、きちんと、早々に。婚約解消の手続きをしてまいります。こんな女をとっかえひっかえするような男、婚約者を浮気者呼ばわりする男に用はありません。ワンパンで終了です。ノシつけて差し上げます」
「わ、ワンパン?ノシ?え?」
「異国の言葉です。失礼ながら、もう少し勉強された方がよろしいかと。では失礼」

 目を白黒させる令嬢と、白目向いて倒れるデンタスをその場に残し、私はツカツカと立ち去るのであった。

 学友たちの拍手を背に受けて。
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