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第三章

70.図書館に行く

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 今日は今王都にある図書館に来ている。

 この間オーナーに聞いた渡人に対する扱いや常識を調べるためだ。

 ちなみに図書館は中心に存在しており、意外に人が多く集まっていた。
 
 中に入ると貴族も来るため、注意するようにと司書に強く言われた。

 基本的には本を読む場所ですら貴族街と貧民街で分かれている。

 入り口が別にあるため、よほどのことがない限りは大丈夫らしい。

「あのー、渡人についての本ってありますか?」

 司書に確認すると、何か魔道具に魔力を通すと関連書籍が板に表示された。

「ここから少し行ったところにあるぞ」

 板に表示されたところを見せてもらいそこに向かうことにした。

 ただ、問題なのは俺が方向音痴なところだ。

 図書館が貴族街と平民街に分かれているということはそれだけ図書館が大きい。

 すぐにあるという話だったが、一向に見つからなかった。

 どこが"少しあったところにあるぞ"だ。

 キメ顔で言われても……イケメンだから許すが、正直なところ近くまで来て欲しかった。

「どこにもないじゃん……」

 今の体力では本を探すのに激しい運動だ。

 正直なところ息切れがひどくて苦しい。

「君、大丈夫かい?」

 途中でしゃがみ込んでいると、声をかけてくれる人がいた。

「体力がないので……邪魔ですね。すみません」

 そのまま壁際に寄ると、声をかけた男は隙間を通り奥に歩いて行く。

 しばらく休憩していると、影が近づき俺の前で止まった。

 彼も走ったのか少し息切れをしている。

 その手には何かを持っていた。

「よかったら座ってください」

 どうやらしゃがみ込んでいるのが気になって、奥から椅子を持ってきてくれたようだ。

 めちゃくちゃ良いやつだ。

「ありがとうございます。助かりました」

 顔をあげると、そこにはまたもやイケメンの男がいた。

 本当にこの国にはイケメンしか存在しないのだろうか。

 どことなくウェンベルグ公爵家のロベルトに似ている。

 ただ、髪の色は黒く瞳の色も黄色に近い。

「うわ……やべぇ……」

 目が合うと男もジーッと俺の顔をみて固まっていた。

「ひょっとして疲れてますか?」

「いや……」 

「俺の体ってそんなに大きくないので大丈夫ですよ?」

 せっかくだから椅子を半分だけ座り、残りの部分に腰掛けてもらうことにした。

 元々椅子もこの世界の人に合わせているため、俺の体にしたらとにかく大きかった。

「じゃあ、遠慮なく……」

 遠慮なくと言っているが、どこか歯切れが悪い。

 俺と座りたくないのだろうか……。

 隣に座ったがどうやら話す雰囲気にならない。

 さっきまで紳士的に話しかけてきたのに今はリッパーのように無口だ。

「あのー、椅子ありがとうございます」

「ああ」

 常に話しかけてもこんな感じだ。

 ちゃんと答えやすい方がいいのだろうか。

「渡人についての本を探しているんですけど、どこにあるかわかりますか?」

「渡人ですか?」

 背を向けて座っているため彼の動きがわかりにくい。

 ただ、何か考えているような気がする。

「渡人なら平民街区域の方になりますが大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ」

 何に対して心配されているのかわからないが、とりあえず大丈夫と答えて置くことにした。

「ちなみにあっちですよ?」

 彼は俺が来た方を指差していた。

 どうやら俺は行き過ぎてしまったようだ。

「俺は先に行くので椅子を片付けてもらってもいいですか? 体力がないので片付けにいけなくてすみません」

 立ち上がろうとした手に衝撃が走った。

 振り返ると彼は俺の腕を掴んでいた。

「ちょっと待ってください!」

「何かありましたか?」

「あの……どこの紋章ヘラルドリーかだけでも教えて頂いてもいいですか?」

 馴染みのない言葉に俺は首を傾げた。

 ひょっとして貴族の名字みたいなものだろうか。

「すみません。平民なので間違えてここに来てしまったようで……」

 申し訳無さそうな顔で見ると彼は手を放した。

「こちらこそすみません。お話ができてよかったです。また、どこかで会ったら声をおかけしてもよろしいですか?」

 貴族と関わったらいけないというのが俺の認識だ。

 でも俺から何かしたわけでもないなら、問題はないだろう。

「いいですよ。では行きますね」

 来た道に戻るために歩き始めると、再び声をかけられた。

「お名前教えてください!」

 図書館でこんなに話してもいいのかと、疑問に思ったが俺は少し大きめに答えた。

「トモヤです!」

 軽く微笑むと、夕日が当たっていた彼の顔は少し赤く染まっていた。

 黄色の瞳の中には大きな花模様が描かれているような気がした。

 
 言われた通りに戻っていくと、歴史本コーナーを見つけた。

 どうやら司書が言っていたように、すぐに近くにあった。

 題名から目的の本を探すとらその中で一際目を引くタイトルがあった。

――渡人の生涯

 タイトルからして今の俺が読まなきゃいけない本だろう。

 本を手に取るとすぐ近くにあった読書スペースに移動する。

 どこか人の視線を感じるが、俺が見ると皆目を逸らして本を読んでいる。

 俺は本を開けると初めのページを読んで驚いた。

 この文がわかるということはあなたはきっと渡人という存在であろう。
 私は日本という国から突然マンホールのようなものに落ちてこの世界に来た。
 顔立ちばかり良い男が多く、女性が少ないこの世界で私のような女性は嬉しいと思った。
 だが、それはこの世界を知らなかった数日だけだった。
 後に女性が少ないことで起こる弊害が生きづらい世の中だと気づいた。
 それにストレートの男性なら尚更地獄に感じるかもしれない。
 そんな世界を渡人の視点から、この本を書いているため一度読んでみるといいだろう。
 一つ言えることは自身が渡人ということを信じた人しか話してはいけない。
 それだけは念頭に置いてこの本を読んでくれると助かる。

 内容から作者の渡人は女性だったのだろう。

 たしかに女性なら気軽に話せる同性はいないし、ストレートの男性なら恋愛対象である女性が少ないということだ。

 きっと彼女なりのメッセージなんだろう。

「俺が渡人って知ってるのはウェンベルグ公爵家の人達だけか」

 この世界で初めて会った人達に、すぐに渡人だとばれてしまっている。

 作者が日本から来ていたことに驚きながらもさらに本をめくっていく。

 著者の女性は渡人について、深く調べていた。

 過去にも渡人という人は存在していた。

 ただ、ほとんどの人が大事に幽閉されていることが多かった。

 その中でも有名な話は帝国の幽閉らしく、オーナーが言っていた話は概ね間違っていなかった。

 そんな彼女もこの国の貴族達に子どもを産む道具として、様々な被害にあっていたらしい。

 そんな彼女を助けたのが、その時の現国王だった。

 国王にはパートナーの男性がいたようだが、子どもができにくいこともあり、女性の保護と引き換えに二人の子どもを産むのを条件とした。

 幸いパートナーは女性を受け入れて生活が始まった。

 きっと女性は俺よりも辛い経験をしてきたのだろう。

 幸い三人の子どもに恵まれて、後にウェンベルグ公爵家とルーデンス公爵家が誕生した。

 だから、ウェンベルグ家の人達は俺に対して優しかったのかもしれない。

 他にも帝国の渡人について書かれていた。

 帝国の現場は見るに耐えられない内容だった。

 毎年貴族が変わる代わりに契約して、その間に子どもをたくさん産まされるらしい。

 魔法の力もあり、子どもの成長が早いらしく半年程度で出産できる。

 その分母子の体力は著しく消耗するだろう。

 十月十日かかる出産が半年で終わるぐらいに促進させられるからな。

 帝国に捕まったら"孕み袋"になるというのは当たり前の事実のようだ。

 そして、幽閉された渡人は突然の自殺で幕を閉じる。

 最後は生きることすら諦めるのだろう。

「絶対バレないようにしないとな」

 俺は改めて渡人ということを隠して生活しないといけないと実感した。
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