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第二章 イケメンスローライフ?

60.消えた大事な人 ※ニャンタ視点

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「おい、トモヤはみつかったか?」

「いや……」

 風に当たりに行くと言ったきり、トモヤは帰ってこなかった。

 リッパーやクジャにも聞いてみたが、戻ってきていないと知り異変を感じた。

 その後、みんなに確認するが誰も見つけることが出来ず、冒険者ギルドにも姿はなかった。

 トモヤは突然姿を消した。

「どこ行ったんだよ……」

 いつも笑顔で優しく頭を撫でてくれたトモヤが、いつのまにか消えてしまった。

 その悲しみに俺はただただ後悔するばかりだ。

 あの時あいつの手を引き止めていたら、こんなことにはならなかった。

 いなくならないように、ずっと手を繋いでいればよかった。

 小さな体はスルッと俺の手から消えてしまう。

「おい、めそめそしてんな」

 そんな俺を怪人であるリッパーは慰めてくれた。

 ただ、力が強い怪人の慰めはほぼ暴力に近い。

 怪人の力は獣人よりも強いからな……。

「すまんな」

「いや、俺も悪かった」

 後悔しているのは俺だけではないとわかっている。

 いつのまにかこいつともトモヤを取り合う中で仲良くなっていた。

 全く関わろうとしなかった人達を繋ぎ合わせていたのもトモヤだ。

 あいつは差別も気にせず、誰に対しても同じように接する。

 そんなやつを誘拐したいと思うやつはいくらでもいるだろう。

 そんな中、お店の扉が軽く開いた。

「トモヤか!?」

 振り返るとそこにはローブを着た男が立っていた。

 雰囲気と禍々しい魔力がその男の正体を表している。

 ひょっとしたら目の前の男は俺よりも強いだろう。

「魔族がなんのようだ」

 リッパーは魔族の男を知っているのか警戒していた。

「あいつならあそこの屋敷にいる」

 魔族の男が指をさしていたのは貴族区域だった。

 あそこにはたくさんの貴族が住んでいる。

 どうやら王都から出て行ったわけではないようだ。

 ただ、魔族の男を本当に信用しても良いのだろうか。

 魔族といったら獣人よりも良い噂を聞かない。

 それでも今はそれに縋らないといけないのだろう。

 それにトモヤなら魔族とも知らずに仲良くなっていそうだからな。

 むしろそっちの方が俺は気に食わないぞ。

 あいつはすぐに尻尾を振って男に近づいていく。

 みんなが下心を持って見ていることにそろそろ気づかないといけない。

「それは本当か?」

「ああ」

「そうか……」

 魔族の男は頷いた。

 どうやら本当に貴族区域にいるようだ。

「おい、どうするんだ?」

「貴族相手だと俺達はどうすることもできないぞ」

 さすがに貴族が関わっているとなれば、俺達下民と呼ばれている者は何もできることはない。

 ここで諦めるしかないのだろうか。

「本当にそれでいいのかよ」

 リッパーは俺の顔面を強く叩いた。

「バカでもそれぐらいわかってる!」

 さすがの痛みに俺はリッパーに掴みかかると、いつのまにか殴り合いになっていた。

 段々と痛みに頭の中は冷静になってくる。

「まずは貴族達に声をかけるとこから始めるか」

「トモヤと関わりがあるやつ……あの騎士団長はどうだ?」

「「それだ!」」

 クジャの一言で俺達はあるところに向かった。

 本来はそこには絶対に近づきたくない。

 だが、唯一お店に来てはトモヤをキラキラした目で見ていた男がいたからな。

 俺達は急いでお店から飛び出し、変わり者の男がいるところに向かった。

 その男と会えるのはこの王都の門だけだ。

「おい、冒険者! そんなに急いでどうしたんだ?」

 トモヤのおかげで門番からは獣人と呼ばれることはなくなった。

 そのかわり定着したのは冒険者という呼び名だ。

 言葉としても獣人よりは気に入っている。

「騎士団長はいるか?」

「今は門にはいないぞ? たぶん城に集まってるんじゃないか?」

 どうやら騎士団長は城にいるようだ。

 定期的に騎士団長同士で集まって会議をしているらしい。

「そうか……」

「なんかあったのか?」

 どうやらこの門番は獣人に対して差別意識が少ないらしい。

「実は焼肉店の店主が消え――」

「トモヤさんが何かあったんか?」

 この食いつきからして、門番もトモヤに好意があったのだろう。

 あいつは本当に愛想ばかり振り撒いている。

 戻ってきたら一回叱らないといけないな。

「この間のパーティーの途中から行方不明になってるんだ」

「パーティーって一昨日だよな? どこにもいないのか?」

「ああ。それで騎士団――」

「よし、今から団長にも連絡を伝えるのと騎士団にも声をかけておく」

 意外にこの男は仕事ができるのかもしれない。

「おい、少し門番変わってもらってもいいか?」

 門番は近くにいた他の騎士に説明すると、すぐに交代していた。

 きっとあいつもトモヤに心を奪われた一人だろう。

 ここでもトモヤが好かれていたことにモヤモヤする。

 たま、獣人の俺の話を文句も言わずに聞いてもらえたことに感謝しかない。

 しばらくすると騎士は戻ってきていた。

「今、騎士団長に連絡をしたからすぐに伝わると思う。他の騎士も捜索に手伝ってくれることになったから騎士団長が来るまで待ってくれ」

「こんな俺のために助かる」

 俺は騎士に頭を下げたが騎士は笑っていた。

「あん? お前のためではないぞ? トモヤさんのためだ」

 やっぱりトモヤのためだったか。

「みんなトモヤさんに良い格好したら嫁になってくれるかもなって張り切ってたぞ。お前も頑張れよ」

 門番は自身の手に指輪が付いていることを俺に見せ自慢するように笑っていた。

 確かに英雄のように登場したら、あの鈍感なトモヤでも惚れてしまうかもしれない。

「おい、俺を呼んでいた冒険者はお前か?」

「ああ」

 そんな中声をかけてきたのは騎士団長だった。

 急いで来たのか息が荒れている。

「トモヤになんかあったのか?」

 俺はパーティーであったことを順番に話しを伝える。

 どうやら騎士団からは誰もパーティーに参加しておらず、トモヤが消えたことは今まで知らなかったようだ。

 トモヤの居場所については、魔族が街の中にいることを話すと問題になる。

 だから、トモヤが貴族街に連れて行かれたのを見た人がいると伝えた。

「それでトモヤは貴族街にいるから探したいってことか?」

 騎士団長の言葉に頷くと、難しい顔をしていた。

「貴族街に入ることは可能だが、それから探すってなると流石に難しいだろう。騎士団も管轄が違うと無闇に動き回れないからな?」

 どうやら騎士団長でも難しいようだ。

「ははは、そんなに落ち込むなよ。それは普通の騎士だったらの話しだけどな」

 俺はわかりやすいぐらい落ち込んでいたのか、その姿を見て騎士団長は笑っていた。

「どういうことだ?」

「これでも俺って有名貴族の次男だからな? 騎士としては動けないがブルムント公爵家としてだったら大丈夫だろう」

「ブ……ブルムント公爵家!?」

「そうだ」

 ブルムント公爵家と言ったら、血筋に王族がいるぐらい由緒ある公爵家として有名だ。

 貴族嫌いの獣人でもそれぐらいは知っている。

 いや、獣人でもないトモヤなら知らないか。

「今までの態度申し訳ない」

 俺は急いで頭を下げた。

 貴族に何かしらの迷惑をかけると死罪になる可能性もあるからな。

「ははは、その辺は気にしていないぞ? それで今すぐに貴族街に探しに行くか?」

「ああ」

 すぐに返事をすると騎士団長は門の隣にある部屋に入って行く。

 そのまま着いていくと扉の鍵が突然閉められた。

「おい、何をする気だ?」

 騎士団長はゆっくりと俺に近寄り服に手をかける。

「おっ……おれはお前に興味はないぞ!?」

 俺の言葉は聞こえていないのか、騎士団長は優しく微笑み服を脱がした。

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