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第二章 イケメンスローライフ?

45.肉屋のリッパー

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 俺は今日も肉を抱えて歩いている。

 あれから毎日焼肉を食べさせてくれと冒険者達に頼まれるからだ。

 やはり獣人は肉が好きなんだろう。

 ちなみに草食系の半獣は肉より焼き野菜が好きらしい。

「気が重いな……」

 流石に毎回肉を運ぶのはかなり重労働だ。

 体もそこまで大きくないし、みんなの分を運ぶのには何度も往復しないといけない。

 その結果、全身が筋肉痛になっている。

 初めは手伝ってくれる人も多かったが、レトリバー同様になぜか逃げていく。

 そんなに肉屋の男が怖いのだろうか。

 気づいたときには肉を買うのは俺の仕事になっていた。

「また肉が売れていないのか?」

 荷物を置いてまた戻ると、肉はたくさん残っていた。

 肉屋の男はこくりと頷いていた。

 過去に出会った中でも無口で全く話さない。

「おい、リッパー声出さないとお客さん来ないだろう」

 静かなほど居心地が良いって言うけど、さすがに限度はあるだろう。

 ちなみに肉屋の男のことを冒険者ギルドで聞いたらリッパーという名前らしい。

 リッパーと言えば"切り裂きジャック"のジャック・ザ・リッパーを思い出す。

 確かに肉屋に合った名前だな。

「肉はどうだ……」

 頑張って声を出しているが全く聞こえていない。

 それにしてもリッパーの声を聞くと体がゾクゾクとする。

「俺の声はみんな嫌がるからな」 

「確かにその声だと耐えられないかな」

 声が低く響く感じが俺の耳が犯されている感じがする。

 聞こえないからと不意に近づくと、全身がゾクゾクとしてつい強引に迫られたいと思ってしまう。

「すまないな」

 あー、本当に勿体無いほどのセクシーな声をしているな。

「いや、俺は大丈夫だぞ? むしろ好きだし」
 
「好きなのか……?」

 俺の言葉に僅かに動く表情も今じゃお気に入りだ。

 なんとなく口元がピクピクしている姿も喜んでいるのだろう。

 その姿を見た子どもは泣き出すし、大人でも逃げていくがそれも面白い。

「そういえば、リッパーってドワーフなのか?」

 体の大きさと見た目からしてドワーフなのは間違いではないはず。

 ただ、その辺のドワーフよりはかなり体が大きい。

 感覚的には壁に近い。

「俺は怪人・・とドワーフのハーフだ」

「怪人?」

 新たに出てきた単語がリッパーという名前に合っていると感じた。

「そうだ。怪人は皆から嫌われている種族で体も大きくて見た目も悪いからな」

 リッパーは何を言っているのだろうか。

 見た目はただの無愛想なワイルドイケメンにしか見えない。

 まぁ、包丁を思いっきり振って肉を切ってるときは若干驚くけどな。

 そんなに切りにくい包丁使うぐらいなら新しいのを買えばいいのに……。

「そんなことはないけどな? 声に関しては向き不向きはあると思うし」

 そんな話をしているとどこからか知っている顔の男が歩いてきた。

「トモヤさんお久しぶりです。待ってても会いにこないから俺から来ましたよ」

 全身を舐め回すような視線に、リッパーとは違ったゾクゾクとする嫌な感じが襲ってくる。

 この人は何を言っているのかわからない。いや、言ってる意味はわかるがとにかく気持ち悪い。

「あいつは誰だ?」

 あまりの気持ち悪さにリッパーの後ろに隠れる。

 リッパーを壁にすれば、視線を感じないから頼りになる。

「おい、お前こそ誰だよ! トモヤさんに触れるなよ」

 いやいや、リッパーが触れているんじゃなくて俺が触れてるんだからな。

「門番のやつ」

 俺が言えるのは門番で働いているやつとしかわからない。

 あとは変態ドM男と同じ騎士ということだけだ。

「あっ、トモヤさんに自己紹介まだでしたね? 俺はサイコペス伯爵家の三男モブットです」

「……」

 あれ、サイコス伯爵家のモブってことか?

「トモヤどうする?」

 リッパーは俺を庇いながらもどうするか聞いてきた。

 やっぱサイコパスなのかモブなのかわからないやつより、絶対にリッパーの方がいいやつだ。

 正確に言えば俺がリッパーを持って盾にしているけどな。

「おい、お前今トモヤさんに触れただろ! 怪人のくせにお前がトモヤさんに触れて良いはずがないだろ!」

 ああ、こいつは本当に俺の性格を理解しているのかイライラすることばかり発言する。

 俺がリッパーになりそうだ。

「ほら、早く離れろよ! トモヤさんにお前みたいなやつが近くにいると汚れてしまうだろ。このゴミクズが!」

「てめぇー、リッパーに何言ってんだ! その口切り裂いてやろうか!」

 はい、俺のリッパーが出現しました。

 本当にこのモブ野郎にイライラする。

 獣人に対してもだが、人に対しての差別が酷すぎる。

 貴族はこういう人だからと言われたら仕方ない。

 だが、お世話になったウェンベルグ公爵家はそんなことを決して言わなかった。

 俺はリッパーから包丁を奪いモブ野郎に近づいた。

「はぁ……はぁ……」

 俺が近づくとモブ野郎の息は荒くなっていく。

 今頃状況が理解できたのか焦っているのだろう。

 俺が詰め寄るとモブ野郎は尻餅をつくように転んだ。

 そして騒ぎを聞きつけたのか、いつも視線があったおかげなのか人が集まってきていた。

「おい、トモヤやめろ!」

「俺が誰と居ようが勝手だろうが! リッパーのことを悪くいうならお前のチ◯コなんて使えないように剥ぎ取ってやる」

 リッパーが止めようとしていたが俺は止まらなかった。

 転んでいるモブ野郎の大事な股間の目の前に思いっきり包丁を突き刺した。

 地面には包丁が突き刺さっていた。

 俺もまさか包丁が刺さったことに驚いた。

 思ったよりもしっかりした包丁だった。

「はぁ……最高……」

 モブ野郎はビクビクと体を震わせると、涎を垂らしながら気絶した。

 怖かったのかズボンからは、少しシミができる程度に漏らしていた。

「おい、お前らそんなところで集まって何をやっている!」

 人混みを退けるように男が近づいてきた。

 この声はあいつだろうな……。

「金蹴り野郎!」

「女神様……」

 ドM野郎の騎士団長だ。

 俺に近づくと倒れているモブ野郎と俺を交互に見る。

 気づいたときには俺の手は紐で縛られていた。

「貴族法に基づき確保します」

「えっ……」

 どうやら俺はまた・・捕まったらしい。
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