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第五章 冬の嵐
144.偽聖女、異世界版聴診器を使う
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外の陽も当たらない部屋でヒューヒューと風が通るような音だけが響いている。
「空気の入れ替えすら、ちゃんとしてないのね」
私は王太后の部屋に入ると、すぐにカーテンを開けて窓を開ける。
「何をやってるんですか! 呪いが外に――」
「むしろ、その呪いをこの部屋に留めておきたいの?」
私の言葉に使用人であろうメイドは口をつむぐ。
風が通るような音は窓を閉めていても聞こえていた。
王太后の気管や気管支が狭くなった呼吸音だ。
喘鳴で苦しい状況で、締め切った部屋に隔離されていた。
「誰かしら?」
暖炉の火に照らされていたのは王太后だ。
まだ話せるぐらいは意識がしっかりしているのだろう。
換気をしていない影響か、部屋の中も乾燥している。
「布を水に濡らして干してもらっても良いですか?」
「すぐに準備してきます」
メイドはすぐに布と水を取りに行った。
「初めまして、私は孤児院でママ先生をしているマミと申します」
「あなたは……聖女かしら?」
きっと見知らぬ女性が来たから聖女だと思ったのだろう。
聖女として召喚されたのは私ではなく、可愛らしい聖愛の方だ。
私は首を横に振ると、残念な顔をするかと思ったが優しく微笑んでいた。
「そう……こんな姿でちゃんと挨拶できなくて悪いわね」
苦しいはずなのに、一つ一つゆっくりと話すその声に力強さを感じた。
これがこの国を支えた王太后という存在なんだろうか。
「すみません、聴診器を借りても良いですか?」
「あっ、はい! 聴診魔導具のことですね」
うっかり聴診器と言ってしまったが、それでも彼には伝わった。
見た目は知っている聴診器と変化はないが、耳に入れるイヤーピースの部分に小さな宝石みたいな石がついていた。
早速耳に入れて、実際に音を音を聞いてみた。
「これは使う方で聞こえる音の高さが変わるという認識で合ってますか?」
聴診器にはチェストピースと呼ばれる体に押し当てている部分から音を拾ってきている。
どうやら形ははっきりしていないが、ダブル型の構造になっているようだ。
ダブル型はチェストピースが上下に二つくっついて付いており、音が聞き分けやすい構造になっている。
「そんなことまで知っているんですか!?」
どうやらよくある聴診器と聴診魔導具は、ほぼ作りが同じようだ。
呼吸音か心音かで使い分けたりする特徴があるが、この世界もそれは変わらない。
「すみません、胸の音を確認してもよろしいですか?」
王太后が頷いたため、ゆっくりとチェストピースを胸に押し当てる。
"ゴロゴロ"と水泡音が聞こえてきた。
「初期の肺炎ですね」
思ったよりも重症じゃなくてホッとした。
あれだけ医者達が喚いていたから、心配になってしまう。
「肺炎ってなんですか?」
そもそも肺自体を知っているのだろうか。
この国の医療を全部見直す必要があるのかもしれない。
「肺は息を吸う部分です。例えば、グラスが肺だとしてストロー……いや、小さな筒を入れます。そこに息を吹きかけると、グラスの中の水はブクブクしますよね?」
若い医者は必死に頭の中で想像しているようだ。
ストローがあれば説明しやすいが、あるのは容器に使っている大きめの竹のようなものだ。
「肺炎は体の中がそんな状態になっているんです。普通なら中に水が入ってなくて、ブクブクしないですしね」
私は聴診器を返すと、同じように王太后の胸の音を聞いていた。
肺炎は肺の中に水分が溜まった状態である。
よく耳にするお年寄りがなりやすい誤嚥性肺炎の方がわかりやすいだろう。
口から摂取した水分が間違って気管を流れていき、肺に入ることで起こってしまう。
普通であれば入らないように、咳き込んで吐き出すが、それが加齢によってできなくなる。
インフルエンザなどの細菌性肺炎の場合、菌が肺に入ってしまい炎症することで膿が出てしまう。
どちらも肺の中に空気以外のものが入って起きる肺が炎症する病気だ。
一般的には点滴や内服薬による治療をするが、この世界に薬は存在しない。
ほとんどが自分の免疫に頼った治療になるだろう。
「水と布を持ってきました」
私は使用人から受け取ると、早速布を濡らしていく。
軽く布を絞り、立ち上がって大きく広げる。
「よし、頑張ろう」
この世界にはまだまだ私のやらなければいけないことが、たくさんあるようだ。
あー、早く子ども達に会いたいな。
───────────────────
【あとがき】
ほとんど説明になってしまいすみません。
そこもこの作品の特徴ということにしておいてください笑
皆さんはインフルエンザにはなっていないでしょうか?
感染対策、たくさん食べてよく寝ましょう(*´꒳`*)
「空気の入れ替えすら、ちゃんとしてないのね」
私は王太后の部屋に入ると、すぐにカーテンを開けて窓を開ける。
「何をやってるんですか! 呪いが外に――」
「むしろ、その呪いをこの部屋に留めておきたいの?」
私の言葉に使用人であろうメイドは口をつむぐ。
風が通るような音は窓を閉めていても聞こえていた。
王太后の気管や気管支が狭くなった呼吸音だ。
喘鳴で苦しい状況で、締め切った部屋に隔離されていた。
「誰かしら?」
暖炉の火に照らされていたのは王太后だ。
まだ話せるぐらいは意識がしっかりしているのだろう。
換気をしていない影響か、部屋の中も乾燥している。
「布を水に濡らして干してもらっても良いですか?」
「すぐに準備してきます」
メイドはすぐに布と水を取りに行った。
「初めまして、私は孤児院でママ先生をしているマミと申します」
「あなたは……聖女かしら?」
きっと見知らぬ女性が来たから聖女だと思ったのだろう。
聖女として召喚されたのは私ではなく、可愛らしい聖愛の方だ。
私は首を横に振ると、残念な顔をするかと思ったが優しく微笑んでいた。
「そう……こんな姿でちゃんと挨拶できなくて悪いわね」
苦しいはずなのに、一つ一つゆっくりと話すその声に力強さを感じた。
これがこの国を支えた王太后という存在なんだろうか。
「すみません、聴診器を借りても良いですか?」
「あっ、はい! 聴診魔導具のことですね」
うっかり聴診器と言ってしまったが、それでも彼には伝わった。
見た目は知っている聴診器と変化はないが、耳に入れるイヤーピースの部分に小さな宝石みたいな石がついていた。
早速耳に入れて、実際に音を音を聞いてみた。
「これは使う方で聞こえる音の高さが変わるという認識で合ってますか?」
聴診器にはチェストピースと呼ばれる体に押し当てている部分から音を拾ってきている。
どうやら形ははっきりしていないが、ダブル型の構造になっているようだ。
ダブル型はチェストピースが上下に二つくっついて付いており、音が聞き分けやすい構造になっている。
「そんなことまで知っているんですか!?」
どうやらよくある聴診器と聴診魔導具は、ほぼ作りが同じようだ。
呼吸音か心音かで使い分けたりする特徴があるが、この世界もそれは変わらない。
「すみません、胸の音を確認してもよろしいですか?」
王太后が頷いたため、ゆっくりとチェストピースを胸に押し当てる。
"ゴロゴロ"と水泡音が聞こえてきた。
「初期の肺炎ですね」
思ったよりも重症じゃなくてホッとした。
あれだけ医者達が喚いていたから、心配になってしまう。
「肺炎ってなんですか?」
そもそも肺自体を知っているのだろうか。
この国の医療を全部見直す必要があるのかもしれない。
「肺は息を吸う部分です。例えば、グラスが肺だとしてストロー……いや、小さな筒を入れます。そこに息を吹きかけると、グラスの中の水はブクブクしますよね?」
若い医者は必死に頭の中で想像しているようだ。
ストローがあれば説明しやすいが、あるのは容器に使っている大きめの竹のようなものだ。
「肺炎は体の中がそんな状態になっているんです。普通なら中に水が入ってなくて、ブクブクしないですしね」
私は聴診器を返すと、同じように王太后の胸の音を聞いていた。
肺炎は肺の中に水分が溜まった状態である。
よく耳にするお年寄りがなりやすい誤嚥性肺炎の方がわかりやすいだろう。
口から摂取した水分が間違って気管を流れていき、肺に入ることで起こってしまう。
普通であれば入らないように、咳き込んで吐き出すが、それが加齢によってできなくなる。
インフルエンザなどの細菌性肺炎の場合、菌が肺に入ってしまい炎症することで膿が出てしまう。
どちらも肺の中に空気以外のものが入って起きる肺が炎症する病気だ。
一般的には点滴や内服薬による治療をするが、この世界に薬は存在しない。
ほとんどが自分の免疫に頼った治療になるだろう。
「水と布を持ってきました」
私は使用人から受け取ると、早速布を濡らしていく。
軽く布を絞り、立ち上がって大きく広げる。
「よし、頑張ろう」
この世界にはまだまだ私のやらなければいけないことが、たくさんあるようだ。
あー、早く子ども達に会いたいな。
───────────────────
【あとがき】
ほとんど説明になってしまいすみません。
そこもこの作品の特徴ということにしておいてください笑
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