上 下
44 / 100
第五章 冬の嵐

125.偽聖女、料理は命懸け

しおりを挟む
「貴族だから料理をしたことないですよね?」

「私ならそれぐらいできますわ」

 グシャ令嬢に確認すると、料理はできると言っていた。

 ただ、私の顔を見ようとはしない。

 アルヴィンやレナードからは、貴族には使用人がいるため、よほどのことがない限り料理をする人がいないと聞いている。

「では野菜を洗ってもらっても良いですか? リリも手伝ってあげてね」

「はーい!」

 リリにお願いすると、一緒に野菜を取り出して用意してある桶に持っていく。

 その様子を私は見ていた。

「あら、これも石鹸で洗わないといけないわよね」

「なんでー?」

「また呪いになったら大変だもの」

 食中毒で孤児院に運ばれた時も、呪いを落とすために石鹸で手を洗うように伝えてはいる。

 今回も食中毒予防に石鹸で洗おうとしたのだろう。

「野菜は土を取るだけでいいよ?」

「ふん! それぐらい知っているわよ!」

 この先少し不安になってきた。どこまで手伝ってもらうべきかわからない。

 危ない作業もお肉を一口サイズに切るだけだから、特に問題はないだろう。

 リリがいたら特に問題はないと思い、私は別の作業をすることにした。

「お姉様終わりましたわ」

 しばらくすると令嬢は声をかけてきた。

「ありが……すごく細かくなったね」

「アンフォお姉ちゃんが小さい方が食べやすいって……」

 事前にサラダで野菜を使うことを伝えていた。

 だが、できたのはすごく細かくちぎられた野菜だった。

 リリも食べやすいって言われて、その方が良いと思ったのだろう。

 確かにちびっこ達や野菜嫌いの子を考えて、食べやすいって言われたらやってしまう気がする。

「コールスローにするから大丈夫よ」

 結局サラダにマヨネーズをつけるため、混ぜても問題はない。

 味を整えるために砂糖と少量のレモン果汁で味を調整する。

「これで問題ないね」

 隣で見ていた令嬢は驚いた顔をしていた。

「お姉様って魔女かしら」

「ママ先生はママ先生だよ?」

 どうやらこの世界にも魔女という人物が存在するらしい。

 私の中で魔女って言ったら良いイメージはない。

 鍋で何かを煮ていたり、魔法で悪いことをする人物だ。

「あれだけボロボロになった野菜を一瞬にして謎の物体にしたのよ」

 この世界の魔女との認識は間違っていなかったようだ。

 確かに料理って魔法がかけられたみたいに変化する。

 きっと野菜から謎の物体を作ったのが、魔女っぽいと言いたいのだろう。

「ボロボロにしたのはアンフォ姉ちゃんだよ?」

「アンフォ?」

「ええ、私の名前よ」

「くくく」

「何よ!」

「やっぱりバッカアと兄妹なんだなと思っただけだよ」

 バッカアがバカならアンフォはアホという感じに私には聞こえてしまう。

 きっとこの世界で意味のある名前なんだろう。

 そうじゃないと子どもにバッカアやアンフォと名前はつけないだろう。

「お兄様と一緒にしないでください」

「そうね。バッカアと比べて可愛らしいもんね」

「そっ……そんなこと言ってないで早く作りなさいよ!」

 初めはあれだけ挑発的だったのに、本当の姿を知ると見え方が変わってくる。

 プンプンしているアンフォがいつのまにか可愛く見えるのも、距離感が近くなったからだろう。

「じゃあ、お肉を切るのを手伝ってもらって良いですか?」

「ええ、私がやったらすぐよ!」

 今回はベーコンの代わりに豚肉を使う。

 干し肉は硬めで塩味が強いため、カルボナーラに適していない。

 むしろ豚肉を入れるとパンチェッタで作る料理に似てしまうが、ベーコンとはまた違う味で美味しくなるだろう。

「ではお肉を棒状に切りましょうか」

 私はお肉とナイフを渡すと、アンフォはそのまま大きく手を振り上げた。

「ちょ、待って!」

 振り下ろしたと同時に声をかける。

「何よ!」

「自分の手を切るつもりなの?」

「はぁん? 私がそんなことするわけないわよ」

「なら、なんで肉の上に手を覆っているのよ!」

「へっ?」

 アンフォは肉を固定するために手を置いている。

 ただ、手は肉全部を覆っているため、このままいったら自分の手を切りにいくようなものだ。

「もう、アンフォ姉ちゃんは危ないからあっちに行ってて!」

 ハムはナイフを奪い取ると、言われた通りに細く豚肉を切っていく。

「ナイフを使う時はネコちゃんの手にするんだよ!」

「ネコの獣人だったの?」

「ムッ! ハムはネコの獣人じゃないけどネコだ!」

 指を曲げてアンフォに見せつける。

「それはどういうことかしら?」

 どうやら食材を切るために、指を曲げることすら知らなかったようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

お母様と婚姻したければどうぞご自由に!

haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。 「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」 「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」 「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」 会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。 それも家族や友人の前でさえも... 家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。 「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」 吐き捨てるように言われた言葉。 そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。 そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。 そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。