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第五章 冬の嵐

122.偽聖女、鶏に恐れられる

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「名前どうしようね?」

「んー、ママ先生が覚えられないと大変だよね」

「キキとポッポなら見分けつけられるけど、オラもトトも難しいよ」

「やっぱりテバサキと同じが良いぽ」

 朝起きてからクロ、トト、キキ、ポッポは外で話し合いをしていた。

 遠くから聞いていたが、牛や鶏の名前をどうしようかと考えていたらしい。

「あっ、ママ先生!」

 私の存在に気づいたのか、子ども達は手招きしている。

「どうしたの?」

「みんなの名前をどうしようか考えていたぽ」

 たしかにテバサキはよく話すし、ポッポにべったりしているから区別はつく。

 ただ、新しく来た子達は見た目が同じのため、名前をつけてもわからなくなるだろう。

「それでママ先生にテバサキと似た名前をつけてもらおうと思ってね」

 どうやら本当にテバサキと同類の名前で良いらしい。

 さっきからテバサキが睨んでいる気がするが、そこは気にしないことにした。

「テバサキに似た名前だと部位か料理名になるけどどっちが良いかな?」

「例えばなにがあるの?」

 知らない言葉にキキは興味津々なんだろう。

 前のめりになって話を聞いていた。

「部位なら鶏皮、ささみ、むねとかで、料理名なら唐揚げ、竜田揚げ、油淋鶏とかかな?」

「んー、料理名は難しい気がするね。それに唐揚げってこの間食べたやつだよね?」

 唐揚げは過去に揚げ焼きで作っている。

 料理名と同じにすると、食べられると感じるかもしれない。

 ここにきてもう少し可愛い名前をつければよかったと後悔してきた。

「テバサキはどっちが良いと思う?」

『クウェー』

「どっちでも同じだって言ってるの」

 テバサキに聞いても呆れているような気がする。

 それでも料理名よりは部位名の方が良いと言っていた。

「それなら名前を言っていくから、良いやつに手を上げてもらおうか」

 早速名付けをすることにした。

『クウェー!』

 それを理解したのか鶏達は羽をバタバタしていた。

 テバサキの時よりはどこか喜んでいる気がした。

「じゃあ、いくよー!」

「トリカワ!」

 一羽も羽を広げようとしない。

「ササミ!」

『クウェ!』

 反応した鶏がいたため、ササミという名前をつけた。

「ムネ」

『クッ……』

「モモ」

『ッ!』

「ナンコツ」

『クェ……』

 小さな鶏が大きな鶏達に押されて羽を広げていた。

 ムネやモモは不人気だったが、ナンコツはまだ受け入れることができるようだ。

「レバー」

『……』

「モミジ」

『クウウウウウウエエエエエエエ!』

 庭に鶏達の声が響き渡る。

 どうやら一番人気はモミジらしい。

 テバサキも紛れて鳴いている姿を見ると、少し心苦しくなる。

 そんなにテバサキが嫌だったのだろうか。

「モミジが人気だね」

「ママ先生、モミジって何?」

 子ども達もモミジがどこの部位なのか気になるのだろう。

 名前だけ聞いたら一番可愛いため、鶏達も反応したはずだ。

「モミジって鶏の足のことを言うんだよ」

 みんな足を見てなぜモミジと言うのか疑問に思っているのだろう。

 首を傾げながら私を見てくる。

「紅葉っていう葉っぱの形に似ているんだ。すごくコラーゲンたっぷりで、コリコリして――」

『クウウウウウウエエエエエエエ!』

 鶏達は怯えるように私の元から離れていく。

「しぇんしぇいテバサキ達を食べるぽ!?」

 きっと自分達が食べられると思ったのだろう。

 ただ、説明しただけなのに驚かせてしまったようだ。

「こいつら食べたらうまいのか」

 そんな中、バッカアが遊びにきた。

 普段の怪しい顔とニヤニヤした表情がさらに現実味が増してくる。

『グギャアアアアアアアアア!』

 バッカアの言葉に鶏達は暴走し走り出した。

 羽をコンパクトに畳み込み、ふかふかな体を掴み器用に走っていく。

 もはや鶏の姿ではない逃げ方についつい笑ってしまう。

「しぇんしぇい、食べちゃだめぽ!」

 どうやら笑ったことで本当に食べると思われたのだろう。

 その後もポッポはずっと私にくっついて泣いていた。
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