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第二章 精霊イベント

74.NPC、暴走していた ※一部運営視点

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 おばさんからもらった出来立てのパンをたくさん持って宿屋に戻っていく。

 その途中で走っているバビット達を見かけた。

 俺だけまた仲間はずれになっているのだろうか。

「ヴァイト!」

「どうかしました?」

 どこかバビットの顔は焦っているようだ。

 そんなに急ぐ用事でもあったのだろうか。

「お兄ちゃんが急にいなくなるから心配したんだよ!」

「心配?」

「ちゃちくー!」

 ヴァイルは俺に抱きついて、頬をスリスリとしてくる。

 俺はいつも通りに朝活をしていただけで、心配されるようなことはしていないはずだ。

「昨日倒れたのに急にいなくなってびっくりしないはずないだろ!」

「お兄ちゃんがいないから、ヴァイルがずっと泣いてたんだよ」

 どうやら俺がいなくなって心配したらしい。

 ヴァイルもクシャクシャな顔で泣き続けている。

 途中で鼻水を俺の服で拭いているのは、気づいてないふりをしておこう。

「いつもの朝活をしていたんだが……ごめんなさい」

 俺が謝るとバビットは呆れた顔をしていた。

「お前らしいって言うのか……」

「お兄ちゃんって感じだね」

「ちゃちくー!」

 なぜかみんなで納得していた。

「ちゃちく、パンちょーらい!」

 ヴァイルはお腹が減ったのだろう。

 パンを一つ渡すと、美味しそうに齧り付いていた。

「そういえば、冒険者ギルドから呼ばれていたからあとで行くんだぞ」

 バビットの話ではグリーンリーパーを倒した報酬がもらえるらしい。

 勇者に渡すための報酬だったが、俺一人で討伐してしまったため、かなりの報酬になると。

 お金はたくさんあっても困らないからな。

 いつか王都に行くための資金にしても良いだろう。

 それにバビット達とちゃんと家族旅行もしたいしな。

「あっ……今って家族旅行だったよね!?」

「今頃なんだ?」

「まだ全然食べ歩きしてないですよ!」

 この町で食べたのはパンだけだ。

 まだ何も家族旅行らしいことをしていない。

 せっかくの家族旅行は楽しまないとな。

 俺はバビットとチェリーの手を引っ張って、朝食が食べられそうなお店に向かった。





「課長!」

「なんだ……もう聞かないぞ!」

 俺は耳に栓をして静かに目を瞑る。

 突然、夜中なのに後輩の電話で起こされた。

 あいつはこんな時間でも仕事をしているのだろうか。

 時計を見たら夜中の1時だぞ。

「問題が発生しました」

「ああ、どうせヴァイトだろ?」

 もうあいつのことでは驚かないからな。

 規格外のAIに反応したら、俺は負けた気分になる。

 この前から他の種族担当の職員からも、あいつのせいで文句が出ているからな。

 一つはレベルを上げなくてもステータスが上がるというバグだ。

 ただの鬼ごっこだが、AGIが上がるバグが発生していた。

 このままだと人族だけ有利になってしまうため、他の国でも導入された。ただ、ヴァイトと違ってとにかく効率が悪かった。

 ヴァイトの鬼ごっこはすぐにステータスが上がるのに、他の種族は全く上がらないのだ。

 まぁ、ヴァイトの特訓って命がけだからな……。

 超リアルなゲームで命がけってあいつはどんなことをしているのだろうか。

 それを知るのはプレイヤーだけだ。

 結果、他の種族はレベリングを優先した方が良いと気づいて特訓をしなくなった。

 それにNPCがNPCを鍛えられるという、訳のわからないバグもあった。

 二つ目は人族の人気が異常だった。

 あいつが人気になって、他種族から種族変更がしたいという話が多くあった。

 ただ、このゲームはよりリアルにするために作成できるキャラクターは一体までになっている。

 そのため新しくヘッドギアを買うというものまで存在するらしい。

 なるべく別種族と関われる環境を調整しないといけないのが今の課題だ。

「課長、起きてくださいよ!」

 どうやら俺は寝ていたようだ。

「眠いから早く要件を言ってくれ」

「あのー、精霊イベントですが……」

「ああ、明日から孵化する予定だな」

 この間やっと精霊の卵を配り終えたからな。

 そのイベントが終わったら、急遽種族交流のイベントを追加する方が良いだろう。

「人族の精霊イベントが終わりました」

 俺はまだ寝ぼけているのだろうか。

 終わったってどういうことだ?

 まだ精霊は孵化していないはずだぞ。

「何を言ってるんだ?」

「いや……ヴァイトがイベントで使う精霊でしか倒せない敵を一匹も残さず倒したんです」

「なあにいいいいいい!?」

 俺の声が家の中に響く。

 家中の明かりがついて、家族全員を起こしてしまったようだ。

「あなたうるさいわよ!」

「ああ、すまない。仕事の電話で――」

「こんな時間にいい加減にしてほしいわ」

 隣の部屋で寝ていた妻も怒っていた。

 いや、怒りたいのは俺の方だ。

 またヴァイトがやらかしたからな。

「それにもう一つ問題がありまして……」

「ああ、なんだ?」

「実は獣人側の担当している方が、獣人側が回収するはずだったフラグを人族の誰かが回収していると……」

 その言葉に嫌な予感がしていた。

 そういえば、最近ヴァイトの近くにやたら可愛い獣人の少年がいたはずだ。

「ひょっとして……?」

「たぶんヴァイルくんだと思います」

「なあああああにいいいい!?」

――ガチャ!

「あなたいい加減にしなさい!」

 扉の前で手に何かを持って苛立つ妻がいた。

 そこには俺の大事なマミちゃんのフィギュアが握りしめられていた。

 限定で100個しかないやつだ。

 俺は仕事もプライベートも絶体絶命のピンチに陥ったようだ。

「そっ……それはやめてくれー!」

 妻は俺の目の前で、大事な推しのフィギュアの脚にマジックペンで毛を生やしていた。

 ああ、推しの魔法少女がすね毛ボーボーになっちまった……。
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