上 下
62 / 145
第二章 精霊イベント

62.NPC、悪党を捕獲する

しおりを挟む
「本当に頑固だな!」

「それを言ったらお兄ちゃんもでしょ!」

 俺達はしばらく兄妹喧嘩をしていた。

「もう何というのか……」

「似たもの同士だね……」

 お互い言いたいことを言ったらスッキリした。

 チェリーと初めて喧嘩をしたが、初めてのような気がしなかった。

 どこか前世の妹である咲良と言い合いをしている時と似ていたような気がする。

 咲良も俺と似て頑固だったし、言いたいことを言ったら、お互いにスッキリして忘れるような子だ。

 妹との喧嘩ってほとんどがこんな感じなんだろうか。

「ってかお兄ちゃん……?」

「なに?」

「悪党達がいないんだけど……」

「へっ!?」

 気づいた時には悪党のボスが倒れており、その他にいた人達はアジトから消えていた。

 HUDシステムに映るマーキングを見ると、どこかへ逃げているのがわかる。

「まだ森の入り口だけどどうする?」

「捕まえた方が良いんじゃないかな」

「じゃあ、行こうか」

 俺はボスを紐で縛り上げて、洞窟前にいた男達と一緒に回収した。


「助けてくれええええ!」

 再び目を覚ましたハッヤイーナは暴れていた。

「よっ、また起きたんだな」

「お前……ボスに何をしたんだ!」

「何をしたって……何かしたか?」

「いや、私も覚えてないから……」

 俺達はいつボスを倒したのかわからない。

 ひょっとしたら呪術師のスキルと関係しているのだろうか。

 とりあえず、ボスを含めて男三人をハッヤイーナの隣に吊し上げる。

「おい、ボス起きてくれ!」

 ハッヤイーナは隣で気絶しているボスを必死に起こそうとするが、全く起きる様子はないようだ。

 これで準備は整った。

「よし、残りの奴らも追いかけるぞ」

「また鬼ごっこなの!?」

「よーい、ドン!」

 俺達は逃げ出した残りの残党を追いかける。

 久しぶりにチェリーと鬼ごっこをしてみたが、VITの必要性がわかっている影響かだいぶ速くなっていた。

 チェリーは他の勇者と違って、魔物を倒しても職業のレベルが上がらないらしい。

 その辺は社畜バイトニストの特徴なのかもしれない。

 敵を倒して社畜レベルが上がるとも思わないからな。

「おっ、あそこにいたぞ!」

「私が先に捕まえるんだからね」

 そう言ってチェリーはさらにスピードを上げた。


 ♢


 俺達は全てがうまくいくと思っていた。

 あんな化け物がこんな辺境地にいるとは思わない。

 初めは何か震えがする。

 ひょっとしたら風邪を引いたのかと思う程度だった。だが、しばらくすると見知らぬ男と女がアジトの中で喧嘩をしていた。

 あいつらはバカなのかと思ったが、いつの間にか入ってくるような強者だ。

いつから来たのかわからないほど、こいつらは音がしなかった。

 盗賊スキルでも感知できないほど、奴らは隠密行動に長けている。

 その後は一瞬だった。

 ボスは一撃でやられるし、逃げたら外には仲間達が吊し上げられていた。

 助ける時間もなく、俺は急いで逃げだした。

「うわあああああ!」

 どこからか仲間の叫び声が聞こえてくる。

 俺達はバラバラに分かれて、はじまりの町で集合することにしていた。だが、聞こえてくるのは仲間達の悲鳴ばかり。

 ひょっとしたら俺だけしか逃げ切れていないのかもしれない。

 そんなことを思っていたら、足音……いや、タイガー型の魔物の足音がした。

 人間であれば土を蹴るような音がする。だが、タイガー型の魔物は浮いている時間が長いような走りをする。

 俺は短剣を構えて逃げる隙間を見つける。

 あいつらに足の速さで勝てるはずがないからな。

 だが、追いかけてきたのはタイガー型の魔物ではなかった。

「みぃーつけた」

 隣にはニヤリと笑うあの男がいた。

「うわあああああ!」

 きっと仲間達が捕まった時の叫び声ではなく、いきなり人間が出てきた時の叫び声だった。

 俺は驚きながらも短剣を突き出す。

「おっと!」

 男は簡単に避けると、俺の腕を捕まえようとする。

「お兄ちゃん! 私の方が先だからね!」

 気づいた時には俺の背後に女がいた。

 後ろから骨が折れるような力でタッチされた。

 どうやら俺は捕まった……いや、骨折したようだ。

 こいつらは俺らを使って何をやっているのだろうか……。

 ああ、頭で意識が薄れてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

検索魔法で助けたもふもふ奴隷が伝説の冒険者だったなんて聞いてませんっ

富士とまと
ファンタジー
異世界に妹と別々の場所へと飛ばされました。 唯一使える鑑定魔法を頼りに妹を探す旅を始めます。 ですがどうにも、私の鑑定魔法って、ちょっと他の人と違うようです。 【鑑定結果〇〇続きはWEBで】と出るんです。 続きをWEBで調べると、秘伝のポーションのレシピまで表示されるんです。 なんだか、もふもふ奴隷さんに懐かれてしまったのですけど、奴隷とか無理ですごめんなさいっ。 尻尾ふらないでぇ!もふもふもふ。 ギルド職員に一目置かれちゃったんですけど、私、普通の接客業ですよ? *無自覚の能力チート+日本人の知識無双で、時々プチざまぁしつつの、もふもふスローライフ?*

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです

柚木ゆず
ファンタジー
 優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。  ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。  ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

英雄はのんびりと暮らしてみたい!!誤って幼児化した英雄は辺境貴族生活を謳歌する!

月冴桃桜
ファンタジー
史上最強の英雄は心底疲れていた。それでも心優しき英雄は人の頼みを断れない。例え、悪意ある者たちの身勝手な頼みだったとしても……。 さすがの英雄も決意する。……休みたいと……。 でも、自分が『最強』であり続ける限りは休めないと思い、《すべての力》を魔法石に移して、ある工夫で他人でも使えるようにしようと魔方陣を構築。大魔法を実行。 しかし、何故か幼児化してしまう。しかも、力はそのままに……。 焦るものの、ふとこのままでいいと思い、隠蔽魔法ですべてを隠蔽、証拠捏造。おそらく『自分の弟子』以外には見破れないと思う。 従魔と一緒に旅立つ準備中に屋敷を訪ねて来たとある辺境貴族。事情知った彼の辺境の領地で彼の子供として暮らすことに。 そこで幼児なのにチート級にやらかしていきーー!?

異世界に転生して社畜生活から抜け出せたのに、染み付いた社畜精神がスローライフを許してくれない

草ノ助
ファンタジー
「私は仕事が大好き……私は仕事が大好き……」 そう自己暗示をかけながらブラック企業に勤めていた伊藤はある日、激務による過労で27年の生涯を終える。そんな伊藤がチート能力を得て17歳の青年として異世界転生。今度は自由な人生を送ろうと意気込むも――。 「実労働8時間? 休日有り? ……そんなホワイト企業で働いていたら駄目な人間になってしまう!」 と過酷な労働環境以外を受け付けない身体になってしまっていることに気付く。 もはや別の生き方が出来ないと悟った伊藤は、ホワイト環境だらけな異世界で自ら過酷な労働環境を求めていくのだった――。 これは与えられたチート能力と自前チートの社畜的労働力と思考を持つ伊藤が、色々な意味で『なんだこいつやべぇ……』と周りから思われたりするお話。 ※2章以降は不定期更新

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...