上 下
53 / 145
第二章 精霊イベント

53.NPC、妹弟子のための努力

しおりを挟む
 新しい妹チェリーが出来てからは、毎日がドタバタとしていた。

 この間まで暇だったのが、嘘のようにデイリークエストに追われている。

 ああ、弟子である妹の送迎に。

「次は教会ですか?」

「教会に行ってから、そのままユリスさんの家に行くよ」

「なら、その間に精神統一しておきますね」

 いつのまにか俺に抱きかかえられて移動するのも慣れたのか、腕の中で精神統一をしている。

 まるで次の習い事までに寝て、体力を回復しています、とでも言うような勢いだ。

 人から注目されているのに、全く動じない中々のメンタルをしている。

 いや、これは俺も気にしないタイプだから、同じような性格なんだろう。

 さすが弟子だな。

 俺は教会に着くと早速石像の前でチェリーを下ろす。

「神のご加護を!」
「神のご加護を!」
「神のご加護を!」
「神のご加護を!」
「神のご加護を!」

 祈りは一日に五回捧げないといけないが、短縮してみたら意外にもいけた。

 他にも省略すれば良いデイリークエストは多々あった。

 例えばポーション作りだが、薬草千切って魔力水に入れるだけで完成扱いとなる。だから、俺が水に魔力を注いだものにチェリーが薬草を千切って入れるだけで良い。

「はい、完成!」

 ただ、そんなことをしているとあの人の怒りは落ちてくる。

「こらぁ! また薬草を無駄遣いしておって!」

「ユリスさんすみません!」

「今日でやっと転職クエストが終わるんです!」

「もう師匠がめちゃくちゃだから弟子までめちゃくちゃじゃないか」

 そんなことを言っても、ユリスは黙って俺達を見守っていた。

 今日でやっとチェリーの転職クエストが終わるのだ。

 俺はまたチェリーを抱えて生産街へ移動していく。

「全く……あの子が楽しいならよかったわ」

 ユリスは再び自分の作業に戻っていった。


「ブギー工房を借りるね!」

「ああ、道具は揃えてあるぞ」

 ブギーとボギーに相談したら、二人はすぐに協力してくれるようになった。

 俺が師匠になったと伝えると、二人は泣いて喜んでくれた。

 その晩にお祝いで酒を持って祝ってくれたが、大人ではない俺は飲めない。

 小人族って中々酒を分け与えないって聞いたが、ブギーとボギーはどうやら違うようだ

 いつか二人の師匠と酒が一緒に飲める日を楽しみにしている。

 そんな二人と同じ職業体験は、どちらも一日に五つも装備を作らないといけない。

 どう考えても無理な状況に諦めようとしたが、それも工夫次第でどうにかなった。

「はい、紐!」

「ありがとうございます!」

 チェリーはスパイダー種の糸でできた紐を重ねて編み込んでいく。

「はい、木!」

「ありがとうございます!」

 今度は簡易的に武器職人スキルで、木を削ったものを渡す。

 削った木に編み込んだ糸をつけることで、粗雑で使えない弓が完成する。

 それを武器として扱っても良いのかとHUDシステムに聞いてみたい。

 どこかゲームのバグみたいに感じるからな。ただ、できるのは弓だけではない。

 なぜか紐を編み込むだけで、防具と認識されていた。

 ブギーやボギーに確認したが、二人とも言葉を濁して何も教えてくれなかった。

 子どもにはまだ教えるのは早いらしい。

「よし、これであとは店で夜の営業したら終わりだな」

「やっとこれで終わりますね」

 チェリーのデイリークエストは、俺よりも難易度が高いため、クリアした時には日がすぐに暮れてくる。

 朝から動いてデイリークエストをクリアしていても、10個クリアできるかどうかギリギリなことが多い。

 俺達は店に戻ると、明らかに昼の時と雰囲気が変わっていた。

「バビットさん?」

「ああ、帰ってきたか」

 椅子に座ってうずくまっているバビット。

 何かあったのか額からは冷や汗が、ポタポタと垂れている。

「大丈夫ですか?」

「ああ、ちょっと腹を壊したみたいだ」

 そう言ってバビットはトイレに駆け込んでいく。

 どうやら体調を崩しているようだ。ただ、外にはすでに列ができており、店が開くのを待っている。

「夜の営業ができないことを伝えてきますね」

 明らかにバビットは料理ができるような状況ではなかった。ただ、このままだとチェリーのデイリークエストは失敗に終わってしまう。

 あとウェイターと料理人をクリアすれば、無事に社畜バイトニストになれる予定だった。

 今から他のデイリークエストに切り替えても、終わらないのはわかっている。

 可能性としては音楽家や踊り子ならクリアできるかもしれない。ただ、俺とは違ってちゃんと演奏したり、一時間踊り続けたりなど鬼畜な内容だ。

 その他、事務作業系も働く時間縛りがある。

 お店が営業できないことを伝えれば、再びチェリーは0から転職クエストを受けないといけない。

 それは当の本人も理解しているのだろう。

「いや、俺がバビットの代わりに店をやる」

「大丈夫なんですか?」

「これでもバビットの弟子だからね!」

 俺は早速夜の営業に取り掛かることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

異世界に転生して社畜生活から抜け出せたのに、染み付いた社畜精神がスローライフを許してくれない

草ノ助
ファンタジー
「私は仕事が大好き……私は仕事が大好き……」 そう自己暗示をかけながらブラック企業に勤めていた伊藤はある日、激務による過労で27年の生涯を終える。そんな伊藤がチート能力を得て17歳の青年として異世界転生。今度は自由な人生を送ろうと意気込むも――。 「実労働8時間? 休日有り? ……そんなホワイト企業で働いていたら駄目な人間になってしまう!」 と過酷な労働環境以外を受け付けない身体になってしまっていることに気付く。 もはや別の生き方が出来ないと悟った伊藤は、ホワイト環境だらけな異世界で自ら過酷な労働環境を求めていくのだった――。 これは与えられたチート能力と自前チートの社畜的労働力と思考を持つ伊藤が、色々な意味で『なんだこいつやべぇ……』と周りから思われたりするお話。 ※2章以降は不定期更新

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

処理中です...