上 下
38 / 145
第一章 はじまりの町

38.NPC、急な状況に巻き込まれる ※一部ユーマ視点

しおりを挟む
 夜の営業をしていると冒険者ギルドの職員がやってきた。

 その表情はどこか焦っているようだった。

 それでも俺は明日の仕込みの手を緩めない。

 これをやっておくと、朝からデイリークエストをたくさんできるからな。

「皆さん、大変です! 勇者達が大蛇の討伐に向かいました!」

「はぁん!?」

 ついつい大声を出してしまった。

 そのせいか冒険者達が全員俺を見ている。

「あっ……いや、俺の働く時間が減るなーって……」

 みんなどうして残念なやつを見るような顔をしているのだろうか。

 俺は嘘をついてないし、正直に言ったつもりだ。

「はぁー」

 隣で注文されたメニューを作っているバビットにもため息を吐かれた。

 だって、ついさっき勇者達を引き止めるって話していたばかりだ。

 引き止める時間もなく、勝手に大蛇の討伐に向かったのはあいつらだぞ。

「ヴァイトって社畜を超えてドMなのか?」

「あれはドMというより社畜奴隷とかに近いと思うよ」

「ただ、本人そんな風な思っていないからね……」

「はぁー」

 なぜか店内にいる冒険者達からもため息が聞こえてきた。

「それで勇者達はいつ行ったんですか?」

「冒険者ギルドが知ったのはつい一時間前です」

「あの人達ってやっぱりバカですよね? 暗い方が戦いにくいし、危険が多いと思うけど……」

「メモには夜の方が大蛇が寝ていると判断したそうですよ」

「はああああああー」

 もうこれは呆れて何も言えない。

 店内にいる冒険者全員からため息が聞こえてきた。

 中には弟子達に怒りを覚えている人もいる。

「とりあえず武器が必要ない人とヴァイトで向かうか」

「それが良いですね。ブギーには何か代理の武器がないか聞いてきます」

 武器屋にはここの周辺にいる魔物のレベルにあった武器しか売られていない。

 その人の実力にあった武器を買うにはオーダーメイドするしかなかった。

 それもあり武器を失った冒険者を待つしか選択肢がないのだ。

 それに武器屋にある武器も勇者達が買い占めている可能性がある。

 事前に武器が破壊されると言われていたら、あいつらバカだから大量に買ってるはずだ。

 ポーションも同じ状況だったからな。

「あいつらいつのまに準備をしていたんだ?」

「たぶんインベントリに入れてたんじゃないですか?」

「インベントリ?」

「亜空間みたいなところに荷物がいくつか入れられるらしいです。レックスさんの家を掃除するときに、ユーマが使ってたよ」

 勇者にはインベントリがあるから、袋に荷物をまとめればいくらでも入るだろう。

 ただ、容量も決められているから、重たい武器ばかりは持っていけないという特徴もある。

「ああ、あの肩に担いで今度は何をやらかしたのかってみんなで言ってたやつね」

「えっ……俺そんな風に思われてたんですか?」

 みんなが頷いていた。

 どうやら効率良く動くためにやっていたことすら、周囲から見たらおかしな行動に見えていたようだ。

 これからは少し反省して、周りに気づかれないように効率的に動いた方が良いだろう。

「よし、仕込みが終わったので行きましょうか」

「何かやっていると思ったら、まだ仕込みをしていたのかよ!」

「これで気兼ねなく行けるじゃないですか!」

 俺とみんなとでは少し考え方が違うようだ。

 すぐに二階に行き準備を済ませると、店内はすでに片付けが終わっていた。

 今日はもう閉店することにしたらしい。

「じゃあ、バビットさん行ってきます!」

「ああ、無理だけはするんじゃないぞ」

「はい!」

 俺は勇者達を追うように店を後にした。


 ♢


「なぁ、本当にこの時間にレイドバトルを仕掛けて良いと思うか?」

「珍しくバカが考えているのね」

「いや、だってヴァイトの話だと魔物は夜の方が強くなるって聞いてるぞ?」

「今回は寝ている大蛇に奇襲を仕掛けるって聞いたよ」

 俺達は臨時レイドバトルパーティーに参加している。

 作戦のリーダーはパーティーで一番レベルが高いやつが決めた。

「ナコは俺が守るからな。もし、怪我でもされたらヴァイトに殺されそうだしな」

「いざとなったら、私もナコちんを抱えられると思うしね」

「ああ、あれだけ荷物を持ちながら、走らされたらナコは軽い方だよ」

 俺達は魔物を討伐するよりもヴァイトと特訓をしていた。

 ヴァイトからの依頼をクリアすると、職業レベルが上がる予定だったが、模擬戦にもならずクリアはできなかった。

 その反面、体が鍛えられてステータスが上がっていた。

【ステータス】

 名前 ユーマ・シーカ
 職業 拳闘士12
 STR 42
 DEX 13
 VIT 20
 AGI 55
 INT 10
 MND 19

 今までSTRばかりにステータスを振っていたが、他の数値はほとんどが特訓で得たステータスだ。

「ナコはあれから何をしていたんだ?」

「ちょっと魔物と戦うのが怖くて、ゲームをやめてました」

「あー、あれは結構衝撃的だったもんね。私は思わず動画を撮っちゃったけどね」

「まさかあれがバズるとは思わなかったよね」

「人族プレイヤーの中でちょっとした有名NPCだもん」

 俺達がヴァイトと訓練をしていると、その動画がネットで投稿された。

 他の種族のプレイヤーにも変わったNPCがいるのか情報を集めたが、その中で群を抜いていたのがヴァイトだ。

 ラブは助けてもらった時のヴァイトを動画で撮影していたが、それを投稿したら物凄い勢いで拡散された。

 俺達が驚くほど早かったし、動画に映ってるヴァイトが想像以上にかっこよかった。

 NPCにAIが搭載されているからこそ、偶然起きた行動なんだろう。

「もうそろそろで始まるから構えろ!」

 パーティーリーダーの合図に俺達は構える。

 もちろんナコを守るのが、俺達のパーティーの一番の仕事みたいなものだ。

 人族のプレイヤーの中で、聖職者の存在がわかっているのはナコだけだからな。

 ポーションが足りなくなったら、ナコしか回復手段はない。

 聖職者の存在が広がった時には、すでに二職業の見習いをしている奴らが多かった。

 そのため新しく聖職者になるプレイヤーもいなかった。

 俺もINTが低いから、もう一枠で聖職者になる気はないからな。

「よし、いくぞお!」

 どうやらレイドバトルが始まるようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

異世界に転生して社畜生活から抜け出せたのに、染み付いた社畜精神がスローライフを許してくれない

草ノ助
ファンタジー
「私は仕事が大好き……私は仕事が大好き……」 そう自己暗示をかけながらブラック企業に勤めていた伊藤はある日、激務による過労で27年の生涯を終える。そんな伊藤がチート能力を得て17歳の青年として異世界転生。今度は自由な人生を送ろうと意気込むも――。 「実労働8時間? 休日有り? ……そんなホワイト企業で働いていたら駄目な人間になってしまう!」 と過酷な労働環境以外を受け付けない身体になってしまっていることに気付く。 もはや別の生き方が出来ないと悟った伊藤は、ホワイト環境だらけな異世界で自ら過酷な労働環境を求めていくのだった――。 これは与えられたチート能力と自前チートの社畜的労働力と思考を持つ伊藤が、色々な意味で『なんだこいつやべぇ……』と周りから思われたりするお話。 ※2章以降は不定期更新

英雄はのんびりと暮らしてみたい!!誤って幼児化した英雄は辺境貴族生活を謳歌する!

月冴桃桜
ファンタジー
史上最強の英雄は心底疲れていた。それでも心優しき英雄は人の頼みを断れない。例え、悪意ある者たちの身勝手な頼みだったとしても……。 さすがの英雄も決意する。……休みたいと……。 でも、自分が『最強』であり続ける限りは休めないと思い、《すべての力》を魔法石に移して、ある工夫で他人でも使えるようにしようと魔方陣を構築。大魔法を実行。 しかし、何故か幼児化してしまう。しかも、力はそのままに……。 焦るものの、ふとこのままでいいと思い、隠蔽魔法ですべてを隠蔽、証拠捏造。おそらく『自分の弟子』以外には見破れないと思う。 従魔と一緒に旅立つ準備中に屋敷を訪ねて来たとある辺境貴族。事情知った彼の辺境の領地で彼の子供として暮らすことに。 そこで幼児なのにチート級にやらかしていきーー!?

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

処理中です...