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第一章 はじまりの町

33.NPC、勝手に動く体

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 一度家に帰って荷物を取りに行く。

 今まで作った剣や盾、筒の中にショートランスを入れ、背中には弓を固定させて準備はできた。

 側から見たらとんでもない装備をしているやつに見えるだろう。

 武器をいくつも持っている人なんて見たことがないからな。

 少し荷物を持ちすぎた気もするが、体が丈夫だからそこまで重くはないようだ。

 俺は調理場にいるバビットに声をかける。

「冒険者ギルドから魔物の討伐依頼を受けたので行ってきます!」

「おう。んっ……ちょ、どういうことか説明……」

 初めての魔物討伐に俺の胸は高鳴って、バビットの声は聞こえなかった。


 俺は門に向かうと、門番に声をかけられる。

「ヴァイト、変わった格好をしているけどどこに行くんだ?」

「魔物の討伐依頼です!」

 俺の言葉に門番は少し顔を曇らせた。

 そんなに俺の装備がおかしいのだろうか。

「バビットにはちゃんと伝えたのか?」

「さっき言ってきましたよ?」

 バビットは俺の保護者のような人だから、外に出る時に伝えたのか確認しているようだ。

 そういえば、帰宅時間を伝えてなかったが大丈夫だろうか。

 昼の営業には間に合うように帰ってくる予定だから、特に遅くなるつもりもない。

 念の為に昼には帰ってくると門番に伝えた。

「なら気をつけて行ってこいよ」

 俺は門番に鼓舞され、この世界に来て二回目の町の外に出た。

 外にはすでに動物達が歩いている。

 魔物との区別はあまりつかないが、この世界の動物は比較的温厚で、こっちが襲わない限りは問題ないらしい。

 しかし、魔物は動物と正反対で好戦的で誰彼構わず襲ってくる。

 見た目もどこか可愛げがないため、動物とはすぐに見分けがつくと言っていた。

「ゴブリンはこの森の中にいるんだったな」

 今回の討伐対象は人型をしたゴブリンという魔物らしい。

 人の形をしているが醜い姿をしているため、気にせず倒せると言っていた。

 内心そんなやつらを倒せる気がしない。でも、今回挑戦してみて、ダメなら冒険者としての才能がなかったと諦めがつく。

 俺は覚悟を決めて森の中に足を踏み入れた。


 森の中は澄んだ風が突き抜けたり、鳥の鳴き声が聞こえると思っていた。だが、実際の森は想像と違った。

 どこか薄暗く、重たい空気を感じる。

 空気が薄いのか息も吸いにくい。

 それに肌がピリピリとするのはなんだろう。

 斥候の職業体験をしている影響か、隠れるのは自信があったが心臓がバクバクといっている。

 これが胸の高鳴りというやつだろうか。

 あまり感じたことのない感覚についつい頬が緩んでしまう。

 俺は木に身を隠しながら、森の奥に入っていく。

「おっ、あいつがゴブリンか?」

 森の中には体が緑色で人の形をした奴らが歩いていた。

 人族や小人族とは異なり、人の形をしているのに目がギョロッと飛び出て、爪や歯が伸びている。

 それに髪の毛が生えていないため、頭の血管も浮かび上がっていた。

 気持ち悪いというよりも不気味というのが正解だろう。

 どことなく妖怪みたいだしな。

 俺は弓を構えて、ショートランス型の矢でゴブリンを狙う。

 手を離すと矢は一直線にゴブリンに向かった。

 声を上げることもなく、ゴブリン達を一気に貫いていく。

 あまりの火力に俺は驚いた。

 ショートランス型の矢が強いのか。

 それともゴブリンが弱いのかわからない。

 ただ、解体師の職業体験の影響か、ゴブリンを殺しても精神的なショックは少なかった。

 むしろそんな自分に俺はショックを受けたぐらいだ。

 本にはゴブリンは素材になる部分がなく、体の中にある魔法石だけ取り出したら、仲間を寄せ付けないように火葬か土葬すると書いてあったな。

 俺は魔法石を取り出すと魔法で土を出して、ゴブリンに被せた。

 そのまま森の中を移動すると、どこかで戦っているような音が聞こえてきた。

「ラブ、魔法の発動はできる?」

「もう少し時間がかかる」

「ナコはユーマの治療をお願い!」

「はい!」

 どうやらアル達がゴブリンと戦っているようだ。

 そこには薬師になったナコもいた。

 どうやらナコも戦闘職としての力があるらしい。

「ユーマは魔物に突っ込んだのかな?」

 拳闘士は近距離で戦うため、攻撃を避けきれなかったのだろう。

 一緒に模擬戦をしていたからわかるが、すぐに突っ込んで行く性格だからな。

 きっとバカだからSTRだけ高そうだ。

 そんな勇者達の動きを俺は木の上から眺めていた。

 だが、次々とゴブリンが出てきて、四人は囲まれていた。

「こんなには一人で捌ききれないよ!」

 明らかにピンチな状況に、ナコは怯えてユーマの治療に専念できないようだ。

「これでゲームオーバーなのか?」

「えー、死ぬの嫌だよ」

「なこちんも巻き込んでごめんね」

 はぁん?

 あいつら生きるのを諦めているのか?

 ゲームオーバーってなんだ?

 勇者はこの世界をゲームだと思っているのだろうか。

 俺は生きたくても、生きられなかった。

 妹とも遊べず、親にも辛い思いばかりさせて親孝行すらできなかった。

 それなのに、勇者はすぐに生きることを諦めた。

 俺の中で今まで感じたことのない何かが、湧き出てくるような気がした。

 気づいた時には、俺は弓を引いて矢を連続で放っていた。

 空気を切るように放たれた矢は、次々とゴブリンに当たり死んでいく。

 仲間が突然倒れたゴブリンは周囲をキョロキョロと見て警戒しているようだ。

 その間に俺は剣を抜き、一気に切りかかる。

 その光景に勇者達は怯えていた。

 一気に戦場みたいになっているからな。

 ちゃんとナコの前には盾を置いて、視覚を遮断しているから大丈夫なはずだ。

「ヴァイト!?」

 ユーマには俺の姿が見えているのだろう。

 それでも俺は動くのを止めない。

 まるで何かが乗り移っているかのように、ゴブリンを倒していく。

 気づいた時には、周囲はゴブリンの死体で溢れかえっていた。

「ヴァイト助かったぞ! ゲームオーバーになったら――」

――バチン!

 森の中に乾いた音が響く。

 近寄ってくるユーマの頬を俺は軽く叩いた。

 だが、ユーマにとっては強かったのだろう。その場で悶えていた。

「ヴァイトさん、いきなり何を――」

「簡単に生きるのを諦めるやつが勇者を名乗るな。命を大事にできないやつは嫌いだ」

 誰かが乗り移ったかのように、俺の口は勝手に動いていた。

 解体師の職業体験で使えるようになった魔法を唱えて、勇者達を綺麗にする。

 血だらけで町に戻るのも可哀想だしな。

 俺は盾を回収するとナコの顔を覗く。

「ナコも無理して戦わなくて良い」

 ナコは途中からずっと震えて目を閉じていた。

 きっと怖かったのだろう。

 目があった瞬間、安心したような顔をしている。

「お前達」

「なっ、なんだ!?」

 ユーマは後ろに一歩下がる。

「帰ったら修行だからな」

 俺は勇者達に向けて優しく微笑んだ。

 後日、ユーマはゴブリンに囲まれた時よりも怖かったと言っていた。
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