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第一章 はじまりの町
28.聖女、レア職業と言われる ※ナコ視点
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私は今日も親友の咲良の家に寄ってから学校に向かう。
ゲームを始めてから毎日楽しい日々を過ごしているが、咲良もやってくれているだろうか。
あれから連絡もないからな……。
そんなことを思いながらインターホンを鳴らした。
「あっ、奈子ちゃんおはよう!」
「おはようございます!」
今日も咲良のお母さんが挨拶をしてくれた。
きっと今日も咲良は休みなんだろう。
それが咲良のお母さんの顔からも伝わってきた。
毎日迎えに行っているが、迷惑になっているのだろうか。
「あっ、奈子ちゃんゲームはどうだった?」
きっと考え事をしていたのが顔に出ていたのだろう。
「すごく楽しいですよ! 私はただひたすらお祈りと薬を作ってばかりですけど……」
「最近のゲームは変わっているんだね」
変わっている言えば変わっている。
今までゲームをやっていた人達も、今回のゲームに手こずっていると話題になるぐらいだ。
「本当にリアルな世界で、今はプレイヤーが町の人達の話を聞かなかったから問題になっているんです」
ゲームの配信が始まって、数日した頃に緊急クエストというのが全プレイヤーに表示された。
その内容はNPC達との好感度を上げろというものだった。ただ、私はユリスさんと仲も良かったため、問題にはなっていなかった。
今でもユリスさんの家で下宿しているし、教会に行ったら神父さんがたくさんお話をしてくれる。
一部の横暴なプレイヤーのせいで、全てのプレイヤーが悪いやつという印象になったのだろう。
あれだけゲームを始める前にチュートリアルで事前に説明書のようなものを読み上げてもらったのに、ちゃんと聞いていなかったのだろうか。
リアルな世界と聞いていたから、私は怖くて話のスキップもできなかった。
その結果が今なんだろう。
「昔のゲームのようにツボを投げたり、樽を割ったり、タンスを勝手に開けた人もいるんですよ」
「ははは、それはみんな一度は経験しているものね」
そもそも勝手に家に入ったら不法侵入になってしまう。
他にも一部のプレイヤーは始まりの町と言ったら、武器がもらえるからという理由で、武器屋に文句を言って、強奪のようなことをしたとも耳に入っている。
本当にリアルな世界でそんなことをしたらダメだって、考えなくてもわかることなのに……。
まだまだ、リリースされてから数日しか経っていないから、今後もどうなるかわからない。
注意しておいて損はないだろう。
「面白いゲームってことは咲良にも伝えておくね!」
「ありがとうございます! じゃあ、行ってきますね!」
私はそう言って咲良のお母さんと咲良の部屋に向かって手を振った。
学校に到着すると、もちろんみんなの会話の内容はゲームのことだった。
「なぁ、聞いてくれよ。この間ご飯を安くしてくれって言ったらNPCに投げられたぞ?」
「ははは、俺も野菜屋の店員を脅したら、変な男に転ばされたわ」
どうやらクラスの中にもNPCを脅している人達は一定数いたようだ。
それに妖精族や獣人族など、違う人種でプレイしている人達の話では、全く世界観が異なっているらしい。
そんな中、気になる話をしている人達もいた。
「なぁ、ヴァイトが風邪を引いたらしいぞ。俺をバカって言ったから呪われたんじゃないか?」
「あんたがバカなのはその通りじゃないの! バカは風邪を引かないって言うしね?」
「また俺のことをバカって言いやがって……」
「それであの人に無理やり依頼クエストを手伝わせてお見舞いに行ったの?」
「いや、行ってないぞ?」
「はぁー、このままだとNPCの好感度は下がっていくだろうね」
どうやら飲食店で働いているヴァイトさんの話をしているようだ。
昨日風邪を引いて薬を調合したぐらいだからね。
あれから風邪は治ったのだろうか。
「あっ、ひょっとしてなこちんもやってるの?」
私が見ていたことに気づいたのか、女子生徒の長谷川愛さんが声をかけてきた。
いつもポニーテールをしているすごく元気な子だ。
引っ込み思案な私にも気軽に話しかけてくれる。
「えーっと、ヴァイトさんの話が気になって……」
「えっ、なこちんもヴァイトを知っているの!?」
「マジかー、ヴァイトのことを知っているのは俺達だけだと思ったぜ」
どうやらヴァイトはレアなNPCなんだろうか。
確かにいつも忙しそうにしているが、ユリスは飲食店に住んでいる社畜の子だと言っていた。
実際に薬を調合しに行った時は、飲食店の二階にいたからね。
「僕達はヴァイトに助けてもらったようなものだもんね」
少し強めな口調だが笑顔が特徴的な志鹿悠馬くん、眼鏡をかけた真面目な槙野道くんも話しかけてきた。
みんな見た目や性格が違うのに幼馴染のためか、よく一緒にいるのを見かける。
「奈子さんはどうやってヴァイトと仲良くなったの?」
「私の場合は住宅街で迷子になっているところを助けてもらいました」
「ははは、あいつまるでヒーローじゃん!」
「実際、私達のヒーローだからね?」
出会い方は様々だが、みんなヴァイトさんに助けてもらったようだ。
あの時、初めてお姫様抱っこをしてもらったんだった。
思い出すと少し恥ずかしくなってくる。
「ちなみになこちんは、なんで住宅街に行こうとしたの?」
「あっ……えーっと教会があって、咲良ちゃんが元気になるようにと……」
「もう! なこちん健気で可愛いわ」
急に愛さんが抱きついてきて、私はその場で戸惑ってしまった。
そんな私を見て悠馬くんと道くんも笑っている。
明るい性格の三人に私はタジタジしてしまう。
「それで奈子は何の職業にしたんだ? 俺は拳闘士だ」
「私は魔法使いだよ」
「僕は剣士です」
やっぱりみんなは戦える職業にしたのだろう。
私なんて両方とも戦闘に不向きだ。
「聖職者と薬師です」
「えっ……」
その場で三人はお互いに顔を見合わせていた。
たしかに今は二職業を選ぶのではなく、一つに絞った方が良いという話が出ているからね。
普通に住宅街にいたら、転職クエストが出てきたし断りづらかった。
私は何か問題を起こしたのだろうか。
「なこちん、たぶんそれレア職業だよ」
「レア職業?」
「そうそう、まだ情報が集まっていない職業のことだよ!」
どうやらゲームの攻略サイトに職業についての情報が集められているらしい。
その中で聖職者と薬師は、まだまとめられていないと愛さんは言っていた。
実際に家に帰ってから確認したが、聖職者と薬師の情報は全くなかった。
きっと今日で見習い期間が終わり、転職することになるだろう。
私はいつのまにかレア職業に転職していた。
ゲームを始めてから毎日楽しい日々を過ごしているが、咲良もやってくれているだろうか。
あれから連絡もないからな……。
そんなことを思いながらインターホンを鳴らした。
「あっ、奈子ちゃんおはよう!」
「おはようございます!」
今日も咲良のお母さんが挨拶をしてくれた。
きっと今日も咲良は休みなんだろう。
それが咲良のお母さんの顔からも伝わってきた。
毎日迎えに行っているが、迷惑になっているのだろうか。
「あっ、奈子ちゃんゲームはどうだった?」
きっと考え事をしていたのが顔に出ていたのだろう。
「すごく楽しいですよ! 私はただひたすらお祈りと薬を作ってばかりですけど……」
「最近のゲームは変わっているんだね」
変わっている言えば変わっている。
今までゲームをやっていた人達も、今回のゲームに手こずっていると話題になるぐらいだ。
「本当にリアルな世界で、今はプレイヤーが町の人達の話を聞かなかったから問題になっているんです」
ゲームの配信が始まって、数日した頃に緊急クエストというのが全プレイヤーに表示された。
その内容はNPC達との好感度を上げろというものだった。ただ、私はユリスさんと仲も良かったため、問題にはなっていなかった。
今でもユリスさんの家で下宿しているし、教会に行ったら神父さんがたくさんお話をしてくれる。
一部の横暴なプレイヤーのせいで、全てのプレイヤーが悪いやつという印象になったのだろう。
あれだけゲームを始める前にチュートリアルで事前に説明書のようなものを読み上げてもらったのに、ちゃんと聞いていなかったのだろうか。
リアルな世界と聞いていたから、私は怖くて話のスキップもできなかった。
その結果が今なんだろう。
「昔のゲームのようにツボを投げたり、樽を割ったり、タンスを勝手に開けた人もいるんですよ」
「ははは、それはみんな一度は経験しているものね」
そもそも勝手に家に入ったら不法侵入になってしまう。
他にも一部のプレイヤーは始まりの町と言ったら、武器がもらえるからという理由で、武器屋に文句を言って、強奪のようなことをしたとも耳に入っている。
本当にリアルな世界でそんなことをしたらダメだって、考えなくてもわかることなのに……。
まだまだ、リリースされてから数日しか経っていないから、今後もどうなるかわからない。
注意しておいて損はないだろう。
「面白いゲームってことは咲良にも伝えておくね!」
「ありがとうございます! じゃあ、行ってきますね!」
私はそう言って咲良のお母さんと咲良の部屋に向かって手を振った。
学校に到着すると、もちろんみんなの会話の内容はゲームのことだった。
「なぁ、聞いてくれよ。この間ご飯を安くしてくれって言ったらNPCに投げられたぞ?」
「ははは、俺も野菜屋の店員を脅したら、変な男に転ばされたわ」
どうやらクラスの中にもNPCを脅している人達は一定数いたようだ。
それに妖精族や獣人族など、違う人種でプレイしている人達の話では、全く世界観が異なっているらしい。
そんな中、気になる話をしている人達もいた。
「なぁ、ヴァイトが風邪を引いたらしいぞ。俺をバカって言ったから呪われたんじゃないか?」
「あんたがバカなのはその通りじゃないの! バカは風邪を引かないって言うしね?」
「また俺のことをバカって言いやがって……」
「それであの人に無理やり依頼クエストを手伝わせてお見舞いに行ったの?」
「いや、行ってないぞ?」
「はぁー、このままだとNPCの好感度は下がっていくだろうね」
どうやら飲食店で働いているヴァイトさんの話をしているようだ。
昨日風邪を引いて薬を調合したぐらいだからね。
あれから風邪は治ったのだろうか。
「あっ、ひょっとしてなこちんもやってるの?」
私が見ていたことに気づいたのか、女子生徒の長谷川愛さんが声をかけてきた。
いつもポニーテールをしているすごく元気な子だ。
引っ込み思案な私にも気軽に話しかけてくれる。
「えーっと、ヴァイトさんの話が気になって……」
「えっ、なこちんもヴァイトを知っているの!?」
「マジかー、ヴァイトのことを知っているのは俺達だけだと思ったぜ」
どうやらヴァイトはレアなNPCなんだろうか。
確かにいつも忙しそうにしているが、ユリスは飲食店に住んでいる社畜の子だと言っていた。
実際に薬を調合しに行った時は、飲食店の二階にいたからね。
「僕達はヴァイトに助けてもらったようなものだもんね」
少し強めな口調だが笑顔が特徴的な志鹿悠馬くん、眼鏡をかけた真面目な槙野道くんも話しかけてきた。
みんな見た目や性格が違うのに幼馴染のためか、よく一緒にいるのを見かける。
「奈子さんはどうやってヴァイトと仲良くなったの?」
「私の場合は住宅街で迷子になっているところを助けてもらいました」
「ははは、あいつまるでヒーローじゃん!」
「実際、私達のヒーローだからね?」
出会い方は様々だが、みんなヴァイトさんに助けてもらったようだ。
あの時、初めてお姫様抱っこをしてもらったんだった。
思い出すと少し恥ずかしくなってくる。
「ちなみになこちんは、なんで住宅街に行こうとしたの?」
「あっ……えーっと教会があって、咲良ちゃんが元気になるようにと……」
「もう! なこちん健気で可愛いわ」
急に愛さんが抱きついてきて、私はその場で戸惑ってしまった。
そんな私を見て悠馬くんと道くんも笑っている。
明るい性格の三人に私はタジタジしてしまう。
「それで奈子は何の職業にしたんだ? 俺は拳闘士だ」
「私は魔法使いだよ」
「僕は剣士です」
やっぱりみんなは戦える職業にしたのだろう。
私なんて両方とも戦闘に不向きだ。
「聖職者と薬師です」
「えっ……」
その場で三人はお互いに顔を見合わせていた。
たしかに今は二職業を選ぶのではなく、一つに絞った方が良いという話が出ているからね。
普通に住宅街にいたら、転職クエストが出てきたし断りづらかった。
私は何か問題を起こしたのだろうか。
「なこちん、たぶんそれレア職業だよ」
「レア職業?」
「そうそう、まだ情報が集まっていない職業のことだよ!」
どうやらゲームの攻略サイトに職業についての情報が集められているらしい。
その中で聖職者と薬師は、まだまとめられていないと愛さんは言っていた。
実際に家に帰ってから確認したが、聖職者と薬師の情報は全くなかった。
きっと今日で見習い期間が終わり、転職することになるだろう。
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