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第一章 はじまりの町

27.NPC、風邪を引く

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 昨日はその後デイリークエストをできるだけクリアしてから帰ってきた。

 ちなみにその結果得られたステータスはこんな感じだ。

【ステータス】

 名前 ヴァイト ポイント21
 STR 49
 DEX 49
 VIT 10
 AGI 100
 INT 50
 MND 60 


【職業】

 ♦︎一般職
 ウェイター9
 事務員6
 販売員6

 ♦︎戦闘職
 剣士10 +1
 魔法使い9 +1
 弓使い7 +1
 斥候6 +1
 聖職者3
 拳闘士1 +1

 ♦︎生産職
 料理人10 +1 
 解体師9 +1
 武器職人7
 防具職人5
 魔法工匠4
 薬師1

 無事に拳闘士のデイリークエストも出現した。その内容は、一日一回模擬戦をすることだった。

 そのため、ユーマを放り投げたら一回としてカウントされた。

 本当にそれで良いのかと思ったが、それでデイリークエストが終わるなら問題ない。

「ヴァイト起きたか?」

 一階からバビットの声が聞こえてくる。

 ――ドスン

 俺は体を起こそうと思ったら、そのまま床に崩れるように倒れた。

「ヴァイト大丈夫か!?」

 急いで部屋に入ってきたバビットは俺が倒れていることに気づいて駆け寄ってきた。

 なぜか病気の時みたいに力が全く入らないのだ。

 この世界に来ても病気になってしまったのだろうか。

 バビットは俺の額と首に触れる。

「お前……熱があるじゃないか!」

「へっ……」

「お前は働きすぎだ! それにレックスの家でゴミの中に埋もれていただろ」

 ゴミの中に埋もれていたことで熱が出たのだろうか。

 全く動けない俺はバビットに抱えられて、ベッドに寝かされた。

 バビットは俺の服を捲って体を見ていた。

 これはエッチな展開だろうか。

「ちゃんと食べているのに……ガリガリじゃないか!」

 ご飯は基本的にバビットといる時にしか食べていない。

 ひょっとしたら、たくさん動いている影響で痩せてきているのだろう。

「すぐにユリスを呼んでくるから待っていろよ!」

 俺はそのままユリスが来るのを待っていると、いつのまにか眠ってしまった。


 何かをすりつぶす音が耳に入ってくる。

 その音が気になり、俺は目を覚ました。

「あっ、ヴァイトさん気づきましたか?」

 そこにいたのはユリスではなくナコだった。

 なぜ彼女がここにいるのだろうか。

「あっ、ユリスさんは違う人に薬を届けに行っているので、代わりに私が薬を調合しているんです」

 何も言っていないのに、ナコは俺が気になっていたことがわかったのだろうか。

 隣でナコはすり鉢のようなものに、いくつもの乾燥している葉を入れて混ぜ合わせている。

 薬師を呼んだってことは、薬を調合してもらっているのだろう。

 ポーションの作り方は聞いたが、薬の調合までは聞いたことがない。

 ナコは俺よりも優秀な見習い薬師のようだ。

「これが解熱剤で、こっちが抗生物質になりますね」

 ナコに渡された薬を見ると、前世を思い出してしまう。

 あの時も薬をよく飲んでいたからな。

 俺はゆっくりと体を起こして薬を受け取る。

「ありがとうございます」

「いえいえ、昨日大変だったらしいですね」

「ずっと掃除をさせられていたからね」

 粉薬を口に入れて水で流し込む。
 
 つい久しぶりの苦さに俺は表情を歪め……なかった。

「不味くなかったですか?」

「いや、苦いけど久しぶりに感じた味だったからね」

 嚥下機能が落ちると薬も口から摂取ができなくなる。

 病気で全く飲み込む力がなかった俺は、点滴で薬を体に入れていたからな。

 薬の苦ささえも懐かしく感じていた。

「ヴァイトさんは変わり者ですね」

 そんな俺を見てナコは笑っていた。

 そういえば、ナコは他の勇者達のように存外に扱われていないだろうか。

 年齢的にも妹と同じぐらいだから、どこか心配になってしまう。

「ナコは大丈夫だったか?」

「私ですか?」

 ナコはしばらく考えるがピンと来ないのだろう。

 最終的には私は風邪を引いてないですよと笑いながら返されてしまった。

 どうやらユリスと仲良くしていた影響で、町の人から何か言われることもなさそうだ。

「おっ、ヴァイト大丈夫か?」

 部屋にバビットがやってきた。

 心配そうに覗き込む姿がどこか父と重なる。

「お前は働きすぎだぞ! 若いうちはVITが低いから気をつけないといけない」

 バビットは何を言っているのだろうか。

 まるでVITが風邪予防に良いと言っているように聞こえてくる。

 それはナコも思ったのだろう。

「VITって防御力みたいなものだから、体が丈夫になるんじゃないですか?」

「ああ、VITは体が丈夫なのを数値化したものだぞ」

 うん?

 それは物理的に強くするって意味もあれば、健康って意味合いもあるのだろうか。

「VITが高いと風邪を引かないってことですか?」

「ああ、大人になるまで基本VITは低いからな。風邪を引きやすいってことだ」

 それを聞いて俺は今回風邪を引いた理由が明確になった。

 俺はステータスの中でVITの必要性を全く感じていなかった。

 外に出て魔物と戦うこともないから、ポイントを振ってはいなかった。

 それがこんなところで影響してくるとは思いもしなかった。

「まぁ、今日はゆっくり休めよ!」

「私もそろそろ帰りますね。ヴァイトさんお大事にしてください!」

 そう言ってバビットとナコは部屋から出て行った。

 俺は早速VITにステータスポイントを全て振ることにした。

【ステータス】

 名前 ヴァイト 
 STR 49
 DEX 49
 VIT 31 +21
 AGI 100
 INT 50
 MND 60 

 するとどこか体がスッキリする気がする。

 まるで体から悪い毒素のようなものが抜けていく感じだ。

 それでもまだだるさは残っているが、これがVITの影響力なんだろう。

 ひょっとしたら俺の体で、VITが一番大事な気がした。

 もう病気で苦しむことはしたくないからな。

 これで薬の影響も出てくると、少しずつ良くはなってくるだろう。

 お昼からはできるだけデイリークエストを受けよう。そのためには今は寝ることが重要だ。

 もちろん昼過ぎに起きた俺は、デイリークエストのために外に出ようとしたが、バビットに見つかってしまった。

 その後、紐で縛られたのも良い初経験となった。
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