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第九章 反逆の狼牙編

EP248 征夜班の出発 <キャラ立ち絵あり>

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「能力の確認?そんなの必要無いだろ!」

「いやいや、それは無理があるよ・・・。」

 小隊の連携を図る上で、互いの能力を確かめようとした征夜。しかし、アルスは彼の提案を雑に跳ね除ける。

「僕の能力・・・と言うか、技は"調気ちょうきの極意"。
 特殊な呼吸で体温を変化させる事で、周囲の気温を変える。温度差で気圧を操って風を起こしたり、炎や氷を作る事も出来るよ。」

「けっ!ショッボい能力だな!」

「えぇ・・・。」

 アルスの批判を無視して自身の技を開示した彼に、すかさず暴言が吐き出される。
 しかし、そんな傍若無人ぶりを必死に耐えていた征夜に代わり、我慢の限界を迎えた者がいた。

「ちょっと君!さっきから何なのよ!」

「うん?・・・っ!」

 花は、あまりにも不遜なアルスの態度に憤慨した。
 彼の事を諌めるような調子で軽く睨む。だが、それは逆効果であり、怒りで膨れた彼女の頬はむしろ可愛らしく見えてしまう。

「君、すごく綺麗だね!」

「・・・はい?」

「僕は名門貴族の出なんだ。
 良ければ今度、僕の城に来いよ。平民では食べられないようなご飯を、たくさん出してあげるからさ!」

「・・・はい?」

「"はい"って言った!要するに、決定って事だね!ありがとう!」

「・・・え?」

 捲し立てるような早口で、アルスは花に猛アタックを掛けた。
 あれよあれよと言う間に彼は勝手に合点し、花の事を自宅に招こうとする。

「それじゃ、まずは手を繋ごうか!」

「えちょっ、待っ!」

 あまりの急展開に呆気に取られていた花は、慌ててアルスから逃げようとする。
 しかし、彼の手は花の逃げ足より素早く伸びて、強引に手を繋ごうとした。

 だが、これを黙って見ている征夜ではない――。

「おい、何してるんだ。」

「平民風情が俺に触るな!離、ぐぇっ!」

 花へと伸ばされた右腕を力強く掴みながら、強引に背中を向けさせ、骨が軋むほどの力でアルスの背中を押しだす。
 肩甲骨が割れるのではないかと思えるほど、その圧迫には容赦が無い。刃渡り80㎝の太刀を軽々と振るうほど強靭な握力は、アルスの腕を捉えて離さない。

「うっ!うがぁっ!」

「やめてくれよ……なんで意味もなく喧嘩を売ってくるんだ……。」

 正直、アルスと征夜では勝負にならなかった。
 背丈も年齢も同じほどだが、潜って来た修羅場の数も、日々の鍛え方もまるで違うのだ。

「君の能力は何だい?」

「離せ!離せよッ!」

「"師匠の技"をバカにするんだ。勿論、相当凄い能力なんだろう?」

 調気の極意は、彼の師が苦労して編み出した技。氷狼神眼流の奥義とも言え、自然と一体化した"仙人の境地"とも言える。

 そんな師の努力を馬鹿にされるのは、心底腹が立って当然だ。
 よってコレは、元より煮え繰り返っていた腹の内が、花への態度で爆発したに過ぎない。

「くっ・・・うぐっ・・・無い!何も!能力は!無い!こ、これで満足か!」

「そうかい。素晴らしいね。」

 侮蔑と嘲笑を込めた声色で、征夜はアルスを煽った。
 彼には強力な能力も技も無い。その事実が露見するのが嫌だったのだ。

「"親の力だけでのし上がって来ただけのクズ"が、あまり調子に乗るんじゃない。
 次にアホみたいな事を言ったら、その頭をかち割るから、よく覚えておくんだね。」

「ぐはぁっ!」

 掴んでいた右腕を放し、勢いよく背中を押した征夜。
 前のめりに倒れ込んだアルスの背を見下ろしながら、軽蔑の表情を浮かべる。

(クズめ・・・!)

 この部隊に彼が入れたのは、完全なる"コネと親のエゴ"である。
 征夜にとって、それは"同族嫌悪"の対象でしかなかった。だから彼の叱責には、明確な"私怨"も入っている。

「あ、あとで痛い目を見るぞ!俺はサザンクロス家の人間なんだ!お前ごとき簡単に潰せ、ぐほっ!」

 捨て台詞を捨てて逃げ出したアルスに足をかけ、征夜は彼を転ばせた。そして、怯えるアルスを更に威圧する。

「君の家柄なんて関係ないよ。
 僕が"吹雪一族"だって聞いて、君はヒヨるのかい?・・・なぁ、どうなんだ?」

 吹雪一族と言えば、東北地方に広大な土地を有し、ウィンタースポーツ界を仕切る"雪原のドン"である。
 異世界における貴族ほどの権力は無いが、祖父の盛充郎は政治家とも繋がりがある。よって、一市民では太刀打ち出来ない影響力が有るのは事実だ。

 だが実際のところ、征夜が思っている以上に"吹雪一族"と言う言葉の意味は大きい――。

 大企業の経営者一家だけでなく、"吹雪資正の子孫"という意味を持つのだ。
 知っている人間が聞けば、間違いなく日和るだろう。尤も、アルスはおろか征夜本人すら、その事実を知らないのだが。

「えぇ~童貞こわーい!」
「・・・見た目より凶暴。」
「そうよ征夜、ちょっとやり過ぎじゃない?」

「・・・あっ!ごめん!ついカッとなって・・・。」

 花は自分が助けられた身である上に、彼の性分も理解しているので、強く非難はしない。
 だが征夜を囲む他の女性陣の目は、明らかに引いていた。もはや、班長としての信頼は"皆無"と言っても良い。

(し、しまった・・・これがパワハラって奴なのか・・・。)

 上司として部下を叱責した経験など、彼には無い。
 だが、いざ他人を叱ろうとすると、自然とパワハラじみた教育になってしまった。

 このままでは、部下からの信頼は地に堕ちる。
 そう思った彼は、これまで以上に自信を無くしてしまった。

「えぇと、次は兵五郎さん・・・。」

「私の得意分野は戦闘機の操縦です。
 一応、こういった職務は前世から続けていますので、腕にはそこそこの自信があります。
 女神様から与えられた能力は、操縦がより"自由"になる物ですね。戦局を変えられるような、派手な能力ではないです。」

「なるほど。」

 兵五郎は元自衛隊員である。女神からの能力だけで戦うような素人とは、訓練のレベルが違う。
 腕力では征夜に劣るものの、銃器や戦闘機、他にも多様な兵器を自在に操る知識と技能がある。

 そんな彼は、目立った特殊能力が無くとも十分に精鋭部隊配属に足る実力があった。
 そして、それは単純な戦闘力に留まらず、実際に組織の中で活動し続ける中で磨かれた判断力なども含まれている。

「ねぇ征夜、部隊の指揮権って隊長が認めた人にも任せられるのよね?」

「うん、そうだね。」

「なら、兵五郎さんにも任せてみない?
 こんな事を言いたくないけど、彼の方が適任に思えるわ・・・。」

「確かに・・・。」

 流石の花にも、「征夜の方が隊長に相応しい」とは言えなかった。
 最大限のサポートをするつもりだが、命を預けるには心許ない。よって、彼が部隊に慣れるまでの間だけでも、代理を立てた方が良いと考えたのだ。

「・・・君に任せて良いかな?」

「隊長が望むのでしたら、お受けしましょう。
 自慢のように聞こえたら申し訳ないのですが、部隊の指揮には自信があります。」

 兵五郎は多大な謙遜と共に会釈をすると、微笑みながら征夜の提案を受け入れた。

「じゃあ、兵五郎を副班長にするね。この後は彼に従ってね。」

「えぇ~!無責任すぎぃ~!そんなんだから童貞なんだよぉ~!」
「不安です。」
「ありえねぇ!帰れよお前!」

「うぐっ・・・!」

 ルル、エリス、アルスの非難の目が、征夜の心臓を突き刺した。

 確かに、兵五郎に任せるのは合理的な判断だ。
 しかし、それを一切の迷いなく即決出来てしまうのは、隊長としての資質を疑われても仕方が無い。

(これも試練よ・・・頑張って・・・!)

 オロオロと慌てふためく征夜の背を見つめながら、花は心の中で彼を鼓舞した。

「え、えぇと、次・・・君の能力は・・・。」



 征夜の視線は銃を扱う寡黙な美女、"エリス"の元へ向いた。
 気怠そうな様子で質問に答える彼女の肩には、ヘッドホンが乗っている。

「"無限の弾エターナルバレットストーム"。」

「・・・詳細はどんな感じ?」

「自分で考えて。」

「はい・・・。」

 征夜への不信感からか、元より無口な性格なのか、エリスの言葉は冷たく突き放す刺々しさを持っていた。
 能力名こそ知る事が出来たが、詳細は何も分からない。おそらく、これ以上質問を続けても、かえって返事が硬くなるだけだろう。

「えぇと・・・次はルルの能力を教え」

「おぉーいッ!童貞~ッ!」

「え?」

 ルルの能力を聞こうと、気乗りしない様子で振り返った征夜。
 しかし、先ほどまで班員がいた場所には、もはや誰も居なくなっている。

「置いてくぞ~!童貞ぃ~!」
「すみません隊長!ルルさんが止まらなくて!」
「さっさと来いよノロマ!」
「征夜ぁ~早く~!」

 どうやら少し目を離した隙に、ルルが他の仲間を連れ出してしまったようだ。
 アルスは嬉々として彼を置いてけぼりにし、花と兵五郎は強引に手を引かれて、既に城内の遥か遠くを歩んでいる。

「えっ!?もう行っちゃったの!?待ってよ!まだ話が!・・・うわっ!?」

 仲間を追いかけようと走り出した征夜は、足がもつれて転んでしまった。
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