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第八章 魔人決戦篇

EP206 双牙の閃刃 <☆>

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 "口を広げた竜"を象ったオーラを纏う無数の剣が、杖の先に展開された閃光から繰り出された。
 意志を持ち、敵を殲滅する為に進撃する光の剣は、輝きを増しながら数え切れない程の命を刈り取って行く――。

「後は・・・防御結界バリアを・・・はぁッ!!!」

 地面に手を着いて、ミサラは膨大な量の魔力を流し込む。
 その直後、村を切り分けるようにして描かれた魔法陣が、七色に光り輝いた。
 その光は瞬く間に村全体を包み込み、ドーム状のバリアを形成する。

 バリアに弾かれた怪魔たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
 この村は小さいが、"凄まじい英雄たち"が居るのだと悟り、戦意を喪失したのだ。

「コレで・・・もう・・・大丈夫・・・です・・・!」

「凄いよミサラ!!!」

「アハハ・・・ありが・・・とう・・・ございま・・・。」

「おっと・・・。」

 気力も体力も魔力も、全て使い果たしたミサラは、ガックリと倒れ込んだ。
 素早く彼女を助け起こした征夜は、肩を持って支え上げる。

「本当に・・・凄いよ・・・!」

 眠り込んでしまったミサラを見下ろしながら、征夜は微笑みながら呟いた。
 だが、そう思っているのは、彼だけではない――。

「うおぉぉぉぉぉッッッ!!!!!」
「やったぞおぉぉぉッッッ!!!!!」
「ミサラさんバンザイ!!!花さんの彼氏バンザイ!!!」

 征夜が振り向くと、多くの村民が家屋から飛び出して、肩を抱いて喜び合っていた。

 村は今回の戦いで、確かに被害を受けていた。だが、昨日までの戦闘に比べれば、誤差にも等しい物だった。
 防衛設備の大半は無事で、武器のストックも足りている。
 そして何より、ミサラが張った結界は数日に渡って村を守護してくれる。もう、眠れない夜を過ごす必要は無い。

 そして何より、死者・行方不明者は共に"0"。
 これは村での戦いが始まって以来、初の大快挙であった。そして、その活躍の大半は"数人の英雄"による物。

 だが誰よりも目を引いたのは、突如として戦場に現れた"謎の剣士"だった――。

「勇者様だ!勇者様が来たんだ!!!」
「間違いねぇ!神様の遣いで来たんだ!」
「勇者様バンザーイッ!!!」

 民衆には分かっていた。いや、誰の目にも明らかだった。
 命を繋ぐ為の"抵抗"が、世界を取り戻す"反撃"に変わった事が。絶望を照らす希望は、確かな未来を描き始めた事が。

 そして、彼らには分かっていたのだ。
 ここから先に起こるのは、やがて"伝説"になるのだと。

 その日、吹雪征夜と言う名の英雄は、壮大な歴史の表舞台に初めて姿を表した。
 夜の闇を討ち破り、世界に光を取り戻す"伝説の勇者"。その誕生の兆しを、彼らは確かに予見していた――。

~~~~~~~~~~

「到着が遅れて・・・すみません・・・魔法陣の利用を・・・つい先ほど・・・思い付いたので・・・。」

「君が居なければ、僕だって危なかったよ・・・全部、ミサラのおかげだ。」

「えへへ・・・♪」

 その後、目を覚ましたミサラは征夜と言葉を交わしていた。
 無数の怪魔による襲撃を、僅かな被害で退ける事が出来た。その事実が、二人をかつて無い興奮へと導いている。

 そんな中、部屋のドアが突然開け放たれた。

「ここに居たのね!双牙の閃刃デュアルセイバーさん!」 

「でゅあ・・・?」

 そこに居たのは、征夜たちより遥かに興奮した花だった。
 あまりにもテンションが高く、なおかつ早口な彼女の言葉を、征夜は聞き取れなかった。

「デュアルセイバー!良い響きよね!」

「それって・・・もしかして・・・?」
「私たちの事・・・?」

 二人は目を見合わせながら、突如として呼称された"デュアルセイバー"と言う単語の意味を確かめる。

「そう!二人とも、もう立派な英雄よ!
 宴会が開かれてるから、二人とも来て!」

「う、うん!」
「分かりました!」

 激闘の疲労が抜け始めた二人は、立ち上がって伸びをした。
 征夜は花に手を引かれて、ミサラは二人の後ろに着いて、楽しそうに廊下を駆けて行く。

 花はこの1週間の間に起こった積もる話を、息をゆったりとした口調で語り始めた。
 手を繋ぎ、肩を寄せ合い、微笑を浮かべながら話す彼女の姿は、先ほどの"勇敢な戦士"とは違って見える。

「昨日までも、みんな頑張ってた。
 でも征夜が居ると、安心感が違うわ・・・!」

「そうかなぁ?花だって、たくさん敵を倒してたよ?」

「強さの問題じゃないの・・・ちゅっ♡」

 花は突然、征夜を抱きしめてキスをした。
 何度もされているので、彼も流石に慣れてきた。

 だが何度キスしても、感じられる熱は変わらない。
 むしろ熱くなっている気がするのは、それだけ深く心が繋がっているからだ。

「花って、実はキス魔だよね?」

 照れ臭そうに笑う征夜は、常々思っていた事を口にしてみた。
 彼女が否定しても肯定しても、可愛いだろう。そう期待しながら、話を振ってみる。

「だって、好きなんだもん・・・!」

「キスが好きなの?」

 やはり、征夜は天然なのかも知れない。
 演技でもボケでもなく、本気で花が"キスそのもの"を好きだと思っているようだ。

 だからこそ、彼女の返答は"破壊力抜群"だった――。

「違うわよ、"貴方"が好きなの・・・♡」

「そっか・・・!」

 今度は征夜が花を抱きしめ、口付けを交わそうと顔を近付けた――。



「えっへん!」

 二人の背後から、気怠そうな咳払いが響く。
 振り返ると、道を塞がれたミサラが不快そうな表情を浮かべていた。

「イチャつくのは後にして下さい!」

「ごめんなさい!」
「すまぬ。」

 花と征夜は、それぞれ短く謝罪して離れた。
 ようやく空いた二人の隙間を通り抜けて、ミサラは外に飛び出して行く。

 取り残された二人は目を見合わせた。
 だが、征夜がバツの悪そうな顔をしているのに対し、花は何故か微笑んでいる。

「呆れられたなぁ・・・。」

「そうね、でも"嫉妬"じゃなかったわ。」

「・・・どう言う事?」

 花には分かる事が、征夜には分からなかった。
 以前に比べれば、最近の征夜は人の感情を読み取る事に慣れて来た。だが、花と比べるとまだ足りない。

 こういう時の花は、少し遠回しな言い方で心況の変化を征夜に伝えている。
 そうする事で、少しでも彼を訓練しようと試みているのだ。

「きっと、吹っ切れたのよ・・・!」

「・・・あぁ!なるほど!」

 どうやら征夜にも、花の言いたい事が伝わったようだ。

~~~~~~~~~~

「やっぱ、暴れまくった後の酒は美味えなぁ!!!」

 シンは5杯目の大ジョッキを飲み干しながら、周囲の者と語り合っている。
 アレほどの死闘の後だと言うのに、呑気な物だ。いや、あの死闘を乗り越えたからこそ、酒が美味いのかも知れない。

「それにしても、あなたとミサラちゃんって、本当に息ピッタリね!何だか兄弟みたい!」

「何回かクエストにも行ったしね。そのおかげかも。」

「正に相棒って感じよ!そうじゃなきゃ、デュアルセイバーなんて呼ばれないわ!」

「ミサラと僕だけじゃないさ。君とシンが居なければ、誰かが犠牲になっていた。
 だからこそ、僕たち4人が合わされば"師匠も超える勇者"になれる。今回の戦いで、そう確信したよ。」

「ウフフ!きっと成れるわ!はい!ビールお待ち!」

「ありがと!」

 花に酒を注いでもらった征夜は、自分が悪酔いしやすい事も忘れて、大ジョッキを飲み干そうとした。
 今日は良い日だ。正に、ハッピーエンドな1日。そう思うと、酒を飲まずには居られなかったのだ。

 だが征夜は、ある事に気が付いた――。

「・・・ん?」

「どうしたの?」

「あの男の子、一人だけ混ざってない・・・。」

 彼は気付いた。いや、気付いてしまった。

 食って、飲んで、騒いで、笑い合う。
 老若男女を問わず盛り上がるドンチャン騒ぎの隅で、一人の少年が石を積み上げている。

「あの子・・・どうしたの?」

「う~ん・・・何処かで見た気がするわ。きっと、人見知りなのね。」

「あの子も混ぜてあげようよ。」

「えぇ、そうしましょう。」

 目を見合わせた二人は立ち上がり、手に持った杯を口に付ける事もなく机に置いて、少年に歩み寄って行く。
 二人が近付いている事には、どうやら気付いているようだ。だが少年は、それに構わず石を積み重ね続けている。

「あの~坊や?ちょっと良いかしら?」

「フィーガル。」

「えぇと、坊やの名前?」

「そうだ。」

 見た目は10歳ほどの少年だが、遥かに年上の花に対しても、臆する事なくタメ口を使って来る。
 それは"生意気"や"反抗心"などの生易しい物ではなく、むしろ"敵愾心"や"憎悪"を感じさせる程だった。

「フィーガル君、どうしてここに居るんだい?
 僕たちと一緒に、あっちで夕食を取ろうよ。」

「要らない。」

「戦いは終わったの。だから、もう心配しなくて良いわ。
 ミサラお姉さんが、バリアを張ってくれたの。もう敵は来ないわよ。」

 しゃがみ込んで少年と目を合わせた花は、優しい口調で語り掛ける。
 穏やかな笑みを浮かべ、手を差し伸べる彼女。だがフィーガルは、その手を取らない。

「戦いは・・・終わった・・・?」

「えぇ、そうよ!だから、もう大丈夫!」

 実感を得られないように振る舞う彼に対し、花は少し大袈裟に笑いかけて見る。そうすれば、少しは安心させられると思ったのだ。

 しかし彼は、警戒を解く気は無いようだ。

「いや、怪物はまだ居るよ。」

「え?どこに!?」

 征夜は驚いて、素早く敵を探そうとした。
 だが、360度全方位を見渡しても、それらしき影は見当たらない。

「ほら、そこ居るよ。」

「・・・後ろ!?」

 少年の指先は、花の方を差した。
 敵に背後を取られたと思った彼女は、素早く振り返る。

 だが、そこには誰も居ない。

「大丈夫、居ないわ!」

「だから・・・まだ居るじゃないか・・・。」

 二人には、フィーガルが何を言ってるのか分からなかった。彼が指差す方向を見ても、怪物の気配すら無い。
 隠れた敵が居るとしても、呼吸すら聞こえないのだ。

(幻覚が見えてるのね・・・なんて可哀想な子・・・。)

(早くラドックスを殺して、世界を救わないと!こんな子が・・・もっと増える前に!)

 きっと少年は、恐怖と混乱でおかしくなったのだ。
 そこに居ない怪物の姿が見え、そこに居ない怪物の声が聞こえる。そんな"幻"に囚われている。

「行こう、花・・・。」

「えぇ・・・。」

 征夜と花はそう考え、少年を一人にしてやる事にした。
 心の病を患っているなら、食事を無理強いするのは逆効果だと思ったのだ。



 だが少年が見ていたのは、幻などではなかった。
 むしろ、この場に居る誰よりも、"恐ろしい現実"を捉えていたのかも知れない――。





「""が!怪物なんだぁッ!!!」
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