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第四章 マリオネット教団編(花視点)

EP115 平然

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「コイツの足、速過ぎだろ!」

 本土に到着したシンは、逃げるようにサランの背から降りた。
 教団の島から本土まで、サランは僅か数分で渡り切った。

「海の上を走れるなんて・・・前に乗った時より、何倍も速いんじゃない・・・?」

「妙にピカピカしてる角のせいかもな。速度が増えた分、揺れも酷かったが・・・。」

 実際のところ、2人はかなり酔っていた。
 当然である、懸命にしがみ着いていたとは言え、2人に掛かったGは戦闘機搭乗時とほぼ同等であったのだ。
 訓練もしていない者が、これだけの軽症で済んでいるのは、サランが2人を思いやりながら走っていたからである。

「ただ、コイツに乗っていけば、約束の日には間に合いそうだな。」

「良かったわ・・・正直、間に合わないと思ってたもの・・・。」

 ソントから、シャノンに行く道のりに一ヶ月、シャノンでコンサートを開くまでに三ヶ月、開戦までに約一ヶ月、教団の島で一週間。
 これだけの期間を、彼らは既に消費してしまっていた。同じペースで帰ったのでは、半年の約束は守れない。

 嬉しそうにしている花に対して、ずっと気になっていた事を聞いた。

「ところで、お前って何歳だっけ?」

「にじゅ・・・言うわけ無いでしょ!そんな事聞かないの!」

 シンはこの答えを既に知っている。そのため、本当の質問はそこじゃない。

「悪い悪い、誕生日パーティでもやってやろうかと思ってさ。・・・誕生月いつだ?」

「あら、嬉しい事してくれるのね♪8月28日よ。」

 花は誘導尋問に見事に引っ掛かった。屈託のない笑みを浮かべている、

「26歳おめでとう!君は完全にへ足を踏み入れた!」

「・・・え?」

 花は目を丸くした。これまで、日付を気にしている余裕など無かった。しかし、冷静になって考えてみると――。

「事故にあったのが5月21日・・・清也と会うのが6月20・・・そこから一ヶ月、二ヶ月・・・あぁっ!!!」

 花は気が付いた。知らぬ間に、彼女は一つ歳を取っていたのだ。

「あ、アラサー・・・アラサー・・・アラサーかぁ・・・。」

 かなり、心に響いている。

「童貞って、若い女しか無理って奴が多いんだよなぁ~!」

「え?そ、そうなの!?」

「おう!ちなみに俺も、極力同年齢以下が良いな!」

 花をドンドンと追い込んで行く。
 花には伝わっていないが、シンにしてみれば、異常者呼ばわりされた仕返しのような物である。

「せ、清也はどうかな・・・アラサーとか嫌かな・・・。」

呼ばわりされないように気をつけろよ~。もしかしたら、もう既に新しい彼女作ってるかもなぁ?」

「う、嘘・・・。」

 色々とショックである。そもそも数ヶ月も会っていなければ、浮気しても何らおかしくない。

「さぁーてと、そろそろ行こうかぁ・・・愛しの恋人が待つ町に☆」

 シンは爽快な笑みを浮かべると、サランに跨って、花に手を差し伸べた。
 しかし花は、シンの行動に首を傾げている。落ち込みモードからは、既に脱却しているようだ。

「あなた、一体どこに行くつもりなの?」

「は?ソントに決まってるだろ。」

 シンは当然のように答える。それに対して、花も当然のように自分の主張を言う。

「え?何言ってるの?希望の槍、シャノンに返しに行くわよ。」

~~~~~~~~~

「あら、みんな寝ちゃってる・・・風邪ひかないかしら・・・。」

「ほっとけほっとけ、どうせ酔い潰れてるだけだろ。」

 シン達はイビキをかいて眠っている住人を、次々と跨いで行く。
 大通りには多くの人が眠っているが、起きている人は1人もいない。

「本部はあっちよ。ちゃんと戻して来てね。」

「・・・良いか?絶対に起こすなよ?フリじゃないからな。」

「え?なんで?」

「多分だけど、俺たちは指名手配されてる。そのうち、本土まで捜索の手が伸びてくるだろう。
 そうなった時に、コイツらにチクられると困るからな。」

「・・・分かった。」

 花は少し不服そうに、シンの忠告を飲んだ。

~~~~~~~~~~

 数分後、シンは酒場から出て来た。首に希望の槍は下げられていない。

「ちゃんと返したのね。」

「おう、一応適当な手紙も残しといた。それじゃあ、今度こそソントに向かうか。」

「やっと、清也に会える・・・♡もっと強くなってるのかなぁ・・・♡」

 花は清也が銀色の甲冑に身を包み、巨大な竜と戦っている姿を想像してみた。
 盾で攻撃をいなしながら、スス塗れになりつつも、剣で相手を攻撃していく。

「きゃ~♡カッコいい!♡」

 妄想の中の清也に対して、花は黄色い声を上げてしまった。
 しかし、シンが不審がって花の方を見返したので、すぐに元の顔に戻った。

「よっしゃ行くか!」

「えぇ!」

 2人はご機嫌な調子で、サランの元へと帰って行った。

~~~~~~~~~~~

「取り敢えず、仮死状態で蘇生するのは正解でしたね・・・。」

「あぁ、一晩でやるのは流石に疲れたな・・・。
 1000人分の生命エネルギーを貯めるのは、中々にキツそうだ。完全復活をさせる前に一度休むかな・・・。」

「マスターッ!ご飯できたーッ!卵焼き!!!」

 神妙な会話をする二人の元へ、空気を読まない砂武が突撃してくる。
 雷夜は怪訝な表情で、砂武の失礼を咎める。

「砂武、私とマスターは大切な話を」

「よし、ちゃんとお手伝いしてえらいぞ。帰ったら一緒にゲームするか?」

「わーい!」

「はぁ・・・マスター、砂武に甘くし過ぎです・・・。」

「そうか?まぁ、100億年ぶりのなんだし許してくれ。」

「そ、そうですか・・・///」

 雷夜はちゃっかり、自分が娘に数えられている事に頰を赤らめた。
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