128 / 251
第四章 マリオネット教団編(花視点)
EP115 平然
しおりを挟む「コイツの足、速過ぎだろ!」
本土に到着したシンは、逃げるようにサランの背から降りた。
教団の島から本土まで、サランは僅か数分で渡り切った。
「海の上を走れるなんて・・・前に乗った時より、何倍も速いんじゃない・・・?」
「妙にピカピカしてる角のせいかもな。速度が増えた分、揺れも酷かったが・・・。」
実際のところ、2人はかなり酔っていた。
当然である、懸命にしがみ着いていたとは言え、2人に掛かったGは戦闘機搭乗時とほぼ同等であったのだ。
訓練もしていない者が、これだけの軽症で済んでいるのは、サランが2人を思いやりながら走っていたからである。
「ただ、コイツに乗っていけば、約束の日には間に合いそうだな。」
「良かったわ・・・正直、間に合わないと思ってたもの・・・。」
ソントから、シャノンに行く道のりに一ヶ月、シャノンでコンサートを開くまでに三ヶ月、開戦までに約一ヶ月、教団の島で一週間。
これだけの期間を、彼らは既に消費してしまっていた。同じペースで帰ったのでは、半年の約束は守れない。
嬉しそうにしている花に対して、ずっと気になっていた事を聞いた。
「ところで、お前って何歳だっけ?」
「にじゅ・・・言うわけ無いでしょ!そんな事聞かないの!」
シンはこの答えを既に知っている。そのため、本当の質問はそこじゃない。
「悪い悪い、誕生日パーティでもやってやろうかと思ってさ。・・・誕生月いつだ?」
「あら、嬉しい事してくれるのね♪8月28日よ。」
花は誘導尋問に見事に引っ掛かった。屈託のない笑みを浮かべている、
「26歳おめでとう!君は完全にアラサーへ足を踏み入れた!」
「・・・え?」
花は目を丸くした。これまで、日付を気にしている余裕など無かった。しかし、冷静になって考えてみると――。
「事故にあったのが5月21日・・・清也と会うのが6月20・・・そこから一ヶ月、二ヶ月・・・あぁっ!!!」
花は気が付いた。知らぬ間に、彼女は一つ歳を取っていたのだ。
「あ、アラサー・・・アラサー・・・アラサーかぁ・・・。」
かなり、心に響いている。
「童貞って、若い女しか無理って奴が多いんだよなぁ~!」
「え?そ、そうなの!?」
「おう!ちなみに俺も、極力同年齢以下が良いな!」
花をドンドンと追い込んで行く。
花には伝わっていないが、シンにしてみれば、異常者呼ばわりされた仕返しのような物である。
「せ、清也はどうかな・・・アラサーとか嫌かな・・・。」
「おばさん呼ばわりされないように気をつけろよ~。もしかしたら、もう既に新しい彼女作ってるかもなぁ?」
「う、嘘・・・。」
色々とショックである。そもそも数ヶ月も会っていなければ、浮気しても何らおかしくない。
「さぁーてと、そろそろ行こうかぁ・・・愛しの恋人が待つ町に☆」
シンは爽快な笑みを浮かべると、サランに跨って、花に手を差し伸べた。
しかし花は、シンの行動に首を傾げている。落ち込みモードからは、既に脱却しているようだ。
「あなた、一体どこに行くつもりなの?」
「は?ソントに決まってるだろ。」
シンは当然のように答える。それに対して、花も当然のように自分の主張を言う。
「え?何言ってるの?希望の槍、シャノンに返しに行くわよ。」
~~~~~~~~~
「あら、みんな寝ちゃってる・・・風邪ひかないかしら・・・。」
「ほっとけほっとけ、どうせ酔い潰れてるだけだろ。」
シン達はイビキをかいて眠っている住人を、次々と跨いで行く。
大通りには多くの人が眠っているが、起きている人は1人もいない。
「本部はあっちよ。ちゃんと戻して来てね。」
「・・・良いか?絶対に起こすなよ?フリじゃないからな。」
「え?なんで?」
「多分だけど、俺たちは指名手配されてる。そのうち、本土まで捜索の手が伸びてくるだろう。
そうなった時に、コイツらにチクられると困るからな。」
「・・・分かった。」
花は少し不服そうに、シンの忠告を飲んだ。
~~~~~~~~~~
数分後、シンは酒場から出て来た。首に希望の槍は下げられていない。
「ちゃんと返したのね。」
「おう、一応適当な手紙も残しといた。それじゃあ、今度こそソントに向かうか。」
「やっと、清也に会える・・・♡もっと強くなってるのかなぁ・・・♡」
花は清也が銀色の甲冑に身を包み、巨大な竜と戦っている姿を想像してみた。
盾で攻撃をいなしながら、スス塗れになりつつも、剣で相手を攻撃していく。
「きゃ~♡カッコいい!♡」
妄想の中の清也に対して、花は黄色い声を上げてしまった。
しかし、シンが不審がって花の方を見返したので、すぐに元の顔に戻った。
「よっしゃ行くか!」
「えぇ!」
2人はご機嫌な調子で、サランの元へと帰って行った。
~~~~~~~~~~~
「取り敢えず、仮死状態で蘇生するのは正解でしたね・・・。」
「あぁ、一晩でやるのは流石に疲れたな・・・。
1000人分の生命エネルギーを貯めるのは、中々にキツそうだ。完全復活をさせる前に一度休むかな・・・。」
「マスターッ!ご飯できたーッ!卵焼き!!!」
神妙な会話をする二人の元へ、空気を読まない砂武が突撃してくる。
雷夜は怪訝な表情で、砂武の失礼を咎める。
「砂武、私とマスターは大切な話を」
「よし、ちゃんとお手伝いしてえらいぞ。帰ったら一緒にゲームするか?」
「わーい!」
「はぁ・・・マスター、砂武に甘くし過ぎです・・・。」
「そうか?まぁ、100億年ぶりの子供なんだし許してくれ。」
「そ、そうですか・・・///」
雷夜はちゃっかり、自分が娘に数えられている事に頰を赤らめた。
1
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる