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第七章 天空の覇者編
EP198 稲妻の竜 <☆>
しおりを挟む「攻撃が来る!みんな散れぇッ!!!」
征夜の合図で大岩の影から飛び出した3人は、稲妻を避けながら散開する。
次々と飛び交う黄金の光が、閉じた渓谷を瞬きながら照らしていく。今日が雨でなくて良かった。もしそうなら、今頃は感電している。
キュオォォォォォンッッッ!!!!!
姿勢を低く保ったまま、怒りと興奮の咆哮を上げる竜は、尾・翼・牙と稲妻の乱撃で四人の命を刈り取ろうと狙う。
薙ぎ払い、叩き付け、撃ち放たれる猛撃を躱す征夜たちに、竜の隙を突く余裕は無い。
「このままじゃマズい!どうにかして、隙を作るんだ!」
「この竜は飛びません!だから、何か手は有る筈です!」
その巨大な翼に見合わず、竜は飛翔の気配を微塵も見せない。
体が重いのか、それとも水晶が邪魔なのか、まだ眠いからなのか。どんな理由であれ、これは奴の弱点だ。
「花!植物を使って、アイツを縛れねぇのか!」
「無理よ!ここには何も生えてな、ぎゃぁッ!!!」
「花ぁッ!!!」
薙ぎ払われた尻尾の先端が、花の額に直撃した。
後ろ向きに大きく吹き飛ばされた彼女を、征夜は素早く救い上げた。
「花!しっかりしてくれ!花!!!」
「う、う~ん・・・ヘルメットが無ければ即死だった・・・。」
粉砕されたヘルメットの下には、一切の傷が無かった。
本来ならば致命傷になるはずの攻撃だが、新装備が早くも役に立ったようだ。
「みんな気を付けろ!一撃が重いぞ!」
<屈折!>
「短期決戦が必要です!魔力での回避にも限界が、ギャァッ!」
屈折魔法をすり抜けた稲妻が、今度はミサラに直撃する。
魔法により向上させた雷耐性と、新しく装備した魔法少女の法衣のおかげで、大事には至らない。だが、少しでも気を抜けば死ぬ事は理解できる。
「花!盾を貸して!」
「わ、わかった!」
花からマジックシールドを受け取った征夜は、素早く納刀して盾を構えた。物理攻撃を回避し、雷撃を防御する事で、花を守りながら猛攻を凌ぐ。
「みんな一旦下がれ!僕が急所を探る!」
「急げよ征夜!」
「分かってる!!!」
他の3人を退避させた征夜は、竜の膝下に滑り込んだ。
攻撃の隙を突いて数ヶ所を切ったが、硬い鱗に弾かれてしまう。
(弱点は!弱点は無いのか!・・・ここか!)
「見つけたぞ!ここがお前の、うぐぁっ!!!」
一ヶ所だけ、攻撃の通る部分があった。
それは額の中央、まさに脳天とも呼べる部分だった。
切り裂くだけでは致命傷にならないと悟った彼は、刀を突き刺そうとした。
しかし攻撃の直前で、翼に叩き返されてしまう。
「征夜!どこが弱点だ!」
「額の真ん中!あそこだけ鱗がない!」
「分かった!そこを撃ち抜けば良いんだな!」
シンはそう言うと、ミストルテインを構えた。
額に向けて狙いを定め、弾丸を装填する。
「喰らえッ!!!」
発射された黄金の弾丸は、勢いよく竜に向けて飛んで行く。
だが着弾の寸前になって、稲妻に打たれて墜落してしまった。
「チッ!至近距離から直接ぶち込むしかない!・・・尾と翼は避けれる!稲妻をなんとかしろ!」
「ミサラ!シンにバリアを!」
「もう・・・空間を操るような・・・魔力は・・・屈折魔法すら・・・無理かと・・・。」
息を切らせたミサラに、余力がない事は明らかだ。
魔力どころか体力も、殆ど残っていないらしい。
「仕方ねぇ!人力で逸らすぞ!・・・そうか!アレを使えば!」
「アレって何?」
手持ち無沙汰になっていた花は、シンの思いつきを質問した。それは、思いもよらぬ発想だった。
「"真空放電"だ!ミサラ!お前、ここに磁場を作れるか!?」
「引力魔法と・・・金属魔法を併用すれば・・・多分・・・。」
「征夜!お前は渓谷全体を、どうにかして真空にしろ!
花!お前はシャノンでやった気泡魔法で、俺らの体を包むんだ!」
「渓谷全体を・・・真空に・・・。」
征夜には、そんな事が出来るか自信が無かった。
だが、やらねば負けてしまう。勝つ為には、命を削る覚悟でやるしかない。
(師匠なら、きっと出来る・・・僕にだって・・・!)
「はぁッ!!!」
征夜は目を見開いて、調気の極意を発動させた。
小さな真空点を作り、それを徐々に拡大させていく。
冷や汗と動悸が止まらないが、これしか方法が無いのだ。
「泡を作る薬草は・・・コレね!」
<<気泡壁!!>>
素材を積荷から取り出した花は、それを素早く装填した。
呪文が唱えられた直後、四人の体は巨大な泡に包まれた。
次第に薄くなっていく渓谷の酸素に関わらず、呼吸出来るようになった。
<<<マグネットストーム!!!>>>
ミサラが呪文を唱えると、地響きと共に渓谷の鉱物が跳ね回った。
突如として発生した強大な磁力によって、構成物質が反応したのだろう。
「陽極を下に、陰極を上にしろ!稲妻が上に向かって逸れたら、俺が弾丸をぶち込んでやる!」
「分かりました!陰極が上ですね!」
「征夜!準備できたか!?」
「真空を作るには、まだ時間がいる!なんとか、時間を稼いでくれ!!!」
「分かったわ!」
征夜は持てる力をフル稼働して、真空点を膨張させていた。だが慣れない作業である上に、渓谷は巨大だ。
たとえ竜だけを包むようにしても、時間が掛かるのだ。
その時間を稼ぐには、囮が必要になる。
物陰から飛び出した3人は、竜の注意を引く為に大袈裟に攻撃した。
散開した三人を殺そうと、竜は激しく反撃する。
稲妻と巨大が凄まじい速度で三人に迫り、命を刈り取ろうとする。
「花さん!危ないっ!」
(しまった!)
<<<鏡面防御!!!>>>
花を背後から狙う稲妻に気付いたミサラは、素早く防御魔法を唱えた。
鏡のように雷撃を反射した魔法によって、花は傷を負わなかった。
「ありがとうミサラちゃん!」
「気を付けてください!」
「征夜!急げ!まだか!」
「まだ・・・時間が・・・!」
必死になって真空点を練るが、まだ半分にも満たない。
あと少しの踏ん張りが、どうにも足りないのだ。
「早くしないと、花が死ぬぞ!!!」
「・・・ダメだ。」
「なんか言ったか!良く聞こえない!」
「それはダメだ!!!」
<<<真空点!!!>>>
「うぉっ!?」
シンは直感で、周囲の空気の流れが変わった事を知った。いや正確には、空気の流れが一瞬にして消えた。
征夜の方を見ると彼は全身の毛を逆立て、瞳が琥珀色に光り輝いている。
極度の興奮状態によって、限界を超えた力を出したようだ。
その直後、それは起こった――。
征夜に向けて放たれた稲妻が、彼に当たる寸前で直角に逸れたのだ。
まるで何かに吸い寄せられるように、竜が放つ雷撃は上向きに曲がっていく。
「シンさん!今です!!!」
「行けぇッ!シン!」
「今しかないわよ!シン!」
「任せろぉーッ!!!」
ミストルテインの照準は、竜の額に定められた。
発射された弾丸は撃墜される事なく、標的に向けて直進する。
キュオォォォォォンッッッ!!!!!
弾丸に額を撃ち抜かれた竜は、怒りと激痛に呻く"最期の咆哮"を上げて、ゆっくりと倒れ込んだ――。
~~~~~~~~~~~
「ふぃ~終わったぁ~・・・マジでヤバかったなぁ・・・。」
「天候が悪化する前に、急いで村に帰りましょう。」
シンとミサラは途方もない疲労感に襲われながら、たどたどしい足取りで来た道を戻ろうとする。
「花、怪我は大丈夫?」
「うん・・・まぁね・・・。」
「それなら早く帰ろう。ミサラも言ってたけど、いつまで天気が持つか分からない。」
「私も・・・そうしたいけど・・・。」
「何か問題でも?」
どうにも腑に落ちない様子で、竜の骸を見下ろす花。
それを不思議に思った征夜も、そばに付き添っている。
「漠然とした疑問なんだけど・・・。」
「うん。」
花の考えている事は、征夜にとっては予想だにしない事だった――。
「これ・・・"本当に"マスターフラッシュなのかな・・・?」
「・・・と言うと?」
「あまりにも、呆気なすぎるような・・・。
確かに手強い相手だったけど、セレアが"最強の竜"とまで言い切った子が、"この程度"とは思えないの・・・。」
「そんなに弱いかな?コイツ・・・。」
「いいえ・・・弱い訳じゃないけど・・・。
でも破海竜に比べると、あまりにも小さいような。体感的には3分の1くらいしかないよ。
それに、動きも遅いし雷も弱いような。破海竜は、こんな程度じゃなかったよ。そして何より・・・。」
「何より?」
「どうして・・・飛ばないの?こんなに立派な翼を持ってるのに・・・。
もしかしたら、まだ未熟だったのかも・・・・・・ハッ!」
「どうしたの!?」
花は何かに気付いたようだ。
突如として顔を青ざめさせ、その表情には一気に恐怖が張り付いた。
「さっき・・・言ったよね・・・"目的"があって・・・エネルギーを貯めてるって・・・。」
「それがどうしたの!?」
「生物が、その"一生で最も多くのエネルギー"を必要とするのは・・・。」
「するのは・・・?」
征夜が続きを聞こうと、花に顔を近づけた。
「"繁殖"よ!」
ギュオォォォォォンッッッッッ!!!!!!!!
渓谷を包む空気が、突如として弾け飛んだ。
耳をつん裂くほど巨大な咆哮が天空より響き、雲一つ無い青空に積乱雲が立ち込め始めた。
「うおぉっ!?なんだ!?」
「征夜!上だ!上を見ろ!!!」
「シン!何があった!」
「良いから上だぁッ!!!」
踵を返して渓谷へと戻って来たシンは、征夜に鋭い警告を発した。
慌てて上空を見た征夜の目に、飛び込んで来た物は――。
渓谷の遥か上空、"巨大な白竜"が積乱雲の中に居た。
先ほど討伐した竜より、一回りも二回りも大きな竜。
姿は非常に似通っているが、雰囲気は全く違う。
爪は何倍も鋭利で、牙は反り返っており、翼はより雄大に展開されている。
「・・・そうか!あれが本物の、"轟雷竜・マスターフラッシュ"だ!!!」
青と赤に光り輝く稲妻を身に纏いながら、空間を切り裂くような"炸裂音"を絶えず轟かせている事が、轟雷竜の所以だった――。
「花さん!よけてぇッ!!!」
「えっ?ギャアァァァッ!!!!!」
突如として降り注いだ赤い稲妻が、猛烈な勢いで花を直撃した。
瞬時に黒焦げにされた彼女は、絶叫と共に倒れ込み、ピクリとも動かなくなった――。
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