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第三章 シャノン大海戦編

EP100 永遠の復讐者

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まだ出会ってすらいない二人が、既にお互いを憎み合っている。
定められた運命の歯車は、噛み合う事の無い未来を示している。

そして、歴史は繰り返す。
けれど、今回は気付くはず――。


―――――――――――――――


 時は、サムが無線を切った頃に遡る。
 海面の遥か上空から、あの男は戦場を見渡していた。

 勿論、ただ傍観しているわけでは無い。
 あまりに強大な力を持った男は、他の者を巻き込まずに攻撃を放つのが難しいのだ。

<エレキ・・・>

ドガァァァンッッッッッ!!!!!

 男は必死に加減を試みるが、最下級でさえ極限呪文を遥かに凌駕する威力を誇っているのだ。
 既に生存者が居なくなった場所を意図的に狙っているが、もし仮に一般人があの場所にいれば、細胞の破片さえ残らないだろう。

 腰に帯びた刀を抜く事も考えた。
 一般的に水中での近接戦闘は不利が付く。なぜなら、水の抵抗があるからだ。
 しかし、男の場合は全く異なる理由でそれを拒否していた。

 

 本当にこの一言に尽きるだろう。
 彼の放つ魔法は、"とある理由"により宇宙最強レベルの物だ。並び立つ者は多くない。

 ただ、彼の本領はそもそも魔法では無いのだ。

 剣豪、剣神、英雄、勇者、撃墜王、皇帝、悪魔、死神、その他様々なを持つ彼だが、そのどれもが圧倒的な剣技を物語っている。

 しかし、そんな伝説さえも既に過去のものだ。人間が到達出来る限界に過ぎない。

 今の彼はもはや、形容できない概念のレベルにまで到達している。
 一振りで世界を裂き、二振りで星空を掻き混ぜる。三振りで"この世"を終わらせる。

 最も、彼はそれをしない。意味が無いからだ。
 彼の目的はただ一つ、ある者を殺害する。それさえ達成できれば良いのだ。
 その為には、刃先にエネルギーを集中させた方が効率的だろう。

「居るんだろ。隠れてないで出て来い。」

 男は水上に浮かぶ球体の蜃気楼に向け、言葉を投げかけた。





「既には逃げたか。」





 蜃気楼はその姿を保ったまま返事をする。
 平静を装っているが、その声からは悪辣な狂気と鮮烈な殺意が滲み出て、周囲の雰囲気を不穏な物へと変えている。

「そうだ、ここにはもう居ない。
 後は貴様と私だけだ。無意味な殺戮はやめろ。後始末が面倒だ。」

 男は宥める様な優しい声で蜃気楼の本体に語りかけるが、その内に秘めた殺意と激情は勝るとも劣らない気迫だ。

 蜃気楼は男があまりにも的外れな発言をした為、遂に平静を装えなくなった。貞淑な雰囲気に隠された、狂人的な本性が発露する。

「キャハハハハッッッッ!!!!!おい!冗談だろ!?ギャラリーが大勢いるじゃ無いか!
 私はもっと悲鳴が聞きたいんだよ!!!人が死ぬ音を!魂の叫びを!血が流れ落ちる音を!
 お前には分かるまい!アレはどんな名曲よりも甘美だ!それだけで、私はいつまでも踊っていられるよ!」

「本当に・・・それが理由か・・・!!!」

 男の声が震え始める。黒いフードの下で想像を絶するほどの憎悪が煮えたぎっている。

「良~く考えてみるんだな!
 何が、どうして、こうなったのか!小学生で習っただろ?お坊ちゃん?アッハハハハハハハハ!!!!!!!!」



 その時、不思議な事が起こった。
 空中に数百頭の破海竜が突如として出現したのだ。

「お前の眷属、まだまだ弱っちぃなぁ♡
 とっても可愛いよ♡その可愛さを讃えて、"増量"してあげよう♡死なないように頑張ってね♡」

 空中に現れた怪物達は海に降下した後、我先に争ってサムに向かっていく。

「やはり、この異常な数の破海竜はお前の仕業か。流石に多すぎると思ったさ。」

「実はオリジナルの一頭を除いて、全部私が作りましたぁ!褒めろよ!精巧に作ってあるだろ!?凶暴性は10割増しだ!!!」

 狂ったように笑いながら、男を嘲る声が響き渡る。

「おいおい!見てみろよ!地上に居る奴ら、自分達だけ安全でズルいよなぁ?私はああいう連中が一番嫌いなんだ♪」

 その後すぐに、巨大な足の生えた破海竜が数頭、シャノンの町に上陸した。
 当然、戦士達はその全員が海中にいるので、戦う手段を持たない一般人は逃げ惑う事さえ出来ずに蹂躙されていく。

「おやおや可哀想に・・・まだちっちゃな女の子が!!!
 あぁ!喰われちまったぁ!!何て非道な事をするんだ!!アッハハハハハハハハ!!!!!」

 男の目には望遠鏡でシャノンを見ながら、腹を抱えて嘲笑っている外道の姿が、喩えでは無く本当に映っている。

 その時、男の怒りは臨界点を超えた。
 暗い影に覆われたフードの中に、が灯る。

「俺は絶対に貴様を許さん!地の果てまで追い詰めて、その首を捻り切ってやる!!!!」

 男は遂に刀を抜いた。
 青色の柄に七色の刀身を持つ美しい刀が、その剣先の描く軌跡に鮮やかな虹を掛ける。

「首を捻り切る~?物騒だなぁ!
 何て残酷な事を・・・あっ!!先にやったのは私か!!許してくれよ!お前にやった訳じゃ無いだろぉ?」

「黙れっ!!!」

 男はそのまま、刀を構えると神速で蜃気楼へと立ち向かって行った――。
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